欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

文字の大きさ
58 / 94
第八章①「疑惑と逃亡編」

油断大敵

しおりを挟む
後悔先に立たずとはよく言ったもので、入り口のドアがバタンッと勝手に閉じた音を聞いた時、俺と師匠は顔を見合わせた。

休憩を取ったあの隠し部屋で戻る判断を下すべきだった。
ちょっと周囲を確認してから帰ろうなんて思わなければ良かった。

せめてあの扉を開いて中を覗いた時、そのまま入らずに閉めるべきだった。

「……サークちゃん、これ飲んどいて。」

師匠がいつもの無理矢理作り上げた女性らしい表情ではなく、本来の真顔でそう言った。

渡されたのはエリクサーだった。

もらった瓶と師匠の顔を見比べる。
師匠……案外、美形だ。
下手に化粧なんかしない方が良いのに……。

場違いにもそんな事を思った。










俺と師匠がその部屋を見つけたのは、そこまでおかしな事ではなかった。

メイン通路が伸びていて、その先はいかにもヤバそうだと言う雰囲気があった場所のすぐ脇にその部屋はあった。
少し大きめの扉ではあったが、特に代わり映えのない木製のドアで、先の様子からこれ以上探索を進めるのは無理だろうと、この部屋を確認して戻る言う話になったのだ。

扉を開けて中を見ると真っ暗だった。
通路もそうだが、ダンジョンにしてはとても親切な設計をしていて、転々と魔炎灯がついていたから、隠し部屋など以外は基本、真っ暗な場所はなかったのだ。

だからそこで異常だと気づけば良かったのだが、隠し部屋等も真っ暗な事が多かったので判断を誤った。

何より、俺も師匠も自分で意識しているよりもずっと心身が疲れていたのだ。
不思議に思っただけであまり気にも止めず、明かりの魔術を使って中に入ってしまった。

音の反響からかなり広そうだと感じた。

「何でしょう??ここ??」

「広そうね?もう少し大きい明かりをつけようかしら??」

そう言いながら足を一歩また一歩と進める。
何の部屋だろう?予想以上に広い。

「!!!?」

ある程度進んだ所でいきなり、ブワッと一斉に部屋壁にある魔炎灯に明かりが灯った。
いきなり部屋が明るくなった事で一瞬、目が眩む。

反射的にまずいと感じドアを振り返ったが、まるで意志があるようにバタンッと勝手に閉じた。

「あ、詰んだ。」

思わず声が出た。

これはまずい。
多分あれは何をしても開かない。

ここで起こる強制イベントが終わるまでは……。

俺も師匠も疲れきってる。
あまり良くない状況だ。

「サークちゃん、これ飲んどいて。」

師匠が初めて見る真剣な顔でエリクサーをくれた。
さすがだ、こう言う状況に備えてエリクサーを用意しているなんて……。

俺は受け取って黙って飲んだ。
師匠もぐいっと飲み干す。

いつもの師匠と違い、めちゃくちゃ男前だった。
師匠って……下手に女装しない方がもしかして美人なんじゃないか??

頭が疲れすぎてそんな言葉が脳裏に浮かんだが、部屋の中に起こった変化でそれは立ち消えた。
明かりが灯ったのに、じわじわと奥の方から暗さが迫ってくる。

それは光量の問題ではなく、不穏な威圧感の為だ。

「……こうやって誘い込むのって、ズルいわよね~?」

「ですね。いかにも無理って先を見せておいて、何の変哲もないドアがあったら、とりあえずそこを調べてから建て直そうって思いますもんね?」

「そうそう、特に準備もしないで入っちゃうわよ~。本当、やられたわ~。」

口調はいつものオネエだが、声色は甲高くない男性寄りの声だ。
師匠の地声は初めて聞いたが、高すぎず低すぎず、わりと聞き取りやすい声だった。

明かりが灯ったことで、部屋全体が見渡せる。

入った部屋は小さな祭壇のようだった。
奥に祈る為のものか机のようなものがある。

だが1番目を引くのはその後ろ。
壁に大きな絵があった。

いや、絵じゃない。
壁に埋め込まれているのだ。

「師匠、俺、あれが動くに臨時ゲートの特許賭けます。」

「奇遇ね?アタシもあれが動き出すに、全財産賭けるわ。」

賭けは成立しないようだ。

周囲はすっかり禍々しい空気に包まれ、下手に動く事もできない。
俺はじっと目の前の壁を見つめた。

もしあれが動くなら直接攻撃も効果はありそうだ。
俺は呼吸を整えて、全身に一度魔力を巡らせ丹田に戻して練り直し始める。
少しでも準備できる事はやっておかないと。

徐々に部屋がガタガタ揺れ始める。
目の前の大きな壁にヒビが入り、ゆっくりと崩れ出した。

「……師匠、ドラゴンと戦った経験は??」

「ある訳ないでしょ!?伝説の生き物なんだからっ!!そう言うサークはどうなの!?竜の谷に行ったんでしょ!?」

「戦いませんよ、あんな可愛い生き物と。」

師匠は俺にちゃん付けをしなかった。
完全に素のモードに入っているようだ。

ニヤッと睨むような笑みで俺を見る。

「……これを見ても、まだ可愛いって!?」

「ですがこれは竜じゃないです。」

壁からそれは完全に抜け出して、大きな足で祭壇を踏み壊した。
禍々しい息の様なものを口から吐くそれを、師匠と俺は見上げる。

「これは……ドラゴンゾンビです。」

壁に埋め込まれていた巨大な生物の骨は、今や所々に悪臭を放つ肉を纏い、目玉のない暗い眼窩で俺たちを見ている。

骨格を見た所、翼がない。
いや、翼っぽい骨は多少あるが退化したものだろう。
体もヴィオールに比べて大きい。

「これって?地竜ですかね?翼もないし、飛ぶには体が大きすぎる。」

「サーク、何でも学術的に観察するのは悪くないけど、今はそれどころじゃないって事も忘れないでね!?」

「わかってますよ。飛ばないなら直接攻撃すべき箇所が決まるってもんです。後はこれが魔術を使うか否か……。」

そんな事を言っている側から、ドラゴンゾンビが魔力を操り出した。

マジか……。

俺と師匠は視線を合わせて、さっと左右に飛び退いた。
俺たちのいた場所に青白い火の玉が降り注ぐ。

見たことのない魔術だ。
青白い火の玉はゾンビの鼻先で生み出されては、こちらに向かって飛んでくる。

足を動かし、床を踏み鳴らすだけで部屋が揺れた。
このまま暴れられたら、こちらの身動きができなくなりそうだ。

「師匠っ!!直接攻撃が可能か試しますっ!!師匠はいつも通りでお願いします!!」

「わかってる!!ブチ咬ましてこい!!」

余裕のなさが言葉に現れている。
俺は丹田で練っていた魔力を全身に巡らせ、身体強化に移った。
速度を上げ素早くゾンビの足元に駆けつける。
ある意味デカイ分、的も大きくてやり易い。

「おおおおおおぉ~っ!!」

ただしダメージを与えるには力がいる。
俺は渾身の力を込めてゾンビの頸骨をぶん殴った。

手応えがあった。
パキンッと音を立ててヒビが入る。

その瞬間、この世のものとは思えない雄叫びが上がった。

地面を揺らすようなそれに、師匠は目を見開いている。
ヴィオールの雄叫びを聞いていた俺はさほど動揺しないで済んだ。

しかし、それと同時に足の骨に魔力が流れ、ヒビを修復していく。
つまり、修復せざる負えないダメージを与える事ができたと言うわけだ。

イケる……っ!!

俺は師匠と視線を合わせて頷いた。
直接攻撃が効果があるならやれることは多い。

俺はそのまま足に力を込め飛び上がった。
図体がでかくても2本足で立っているなら原理は同じだ。
骨づたいに上に上がっていき、勢いをつけて大きすぎる頭蓋骨を蹴りあげる。
頭が大きい事もあり、大きく巨体が揺らいだ。
ふらついたせいで全体のバランスが崩れる。
体幹がブレた所を俺は力一杯、軸足になっている方の足を持ち上げる勢いで後ろに押した。

「なああぁっ!!こんちくしょうぅ~っ!!」

かなり苦戦したが、どうにか押しきった。
ズダーンッという地響きを立てて、ドラゴンゾンビの巨体が床に叩きつけられる。

部屋があり得ない揺れかたをした。
立ち上がろうともがくゾンビに、容赦なく師匠が極炎の炎で焼き付け、続けざまに重力をかけていった。

腐った肉の焼ける臭いと、重力によって骨が砕けて行く音がする。
断末魔のような叫びが部屋を満たすが、もうそれに驚いたりはしない。

しかしそんな簡単に終わるものでもない。
無数の青白い火の玉が生まれ、部屋中を無作為に飛び回った。
部屋のあちこちが破壊され破片が飛び散る。

師匠も俺も、火の玉と破片を避けるのに一瞬気が逸れた。
ふと弱まった重力に、ゾンビは魔力を集中させて師匠の魔術を弾き返す。
そのままがらがら音をさせ、ドラゴンゾンビは立ち上がった。
かなり骨かイッてると思うが、その部分は魔力でカバーしながら修復している。

やはり一筋縄ではいかない。

巨大なドラゴンゾンビと向き合い、じっと見つめる。
厳しい相手ではある。

だが、俺と師匠は確かな手応えを感じていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...