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第八章①「疑惑と逃亡編」
死神の迷路
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「それはそうとサーク。あんたに頼まれてた件だけど、連絡がついたよ。」
師匠が鼻息荒く息巻いている横で、マダムは変わらぬ調子でそう言った。
頼まれてた件??
「あ、魔法師……ビショップの件ですね??」
「そう。あいつまだ生きてたよ。しかも案外近くに潜伏しててさ。びっくりだよ。」
「ビショップの件!?」
興奮冷めやらない師匠が食いついてきた。
俺の襟首を引っ付かんで、ガタガタ言わす。
「何!?どういう事!?サークちゃんっ!!」
「……し、師匠……苦しいです……。」
「あらやだ~!ごめんなさい~!ちょっと興奮しちゃって~。」
くねっとしなを作るが、がたいのいい師匠にそれをやられても、怖いだけです……。
俺は呼吸を整えた。
「ウィルの事で、マダムに政治的な息のかかってない魔法師の紹介をお願いしてたんです。」
「サークちゃんの恋人の子よね?あ~見たかったわ~!!サークちゃんの恋人!!」
「すみません。今は緊急事態なんで、いずれまた……。」
ウィルはどうしているだろう……。
俺の中に暗い影が落ちる。
ヴィオールまで出したんだ……。
敵意ありと見なされたんじゃないだろうか?
他の皆は一応貴族という立場が保護してくれるだろうが、ウィルは違う。
牢に入れられてたりしないだろうか……。
あの時、振り向いてくれなかった背中が脳裏に焼き付いている。
どうして……一緒に来てくれなかったんだろう……。
「サークちゃん??」
「あ、すみません。大丈夫です。」
「あんたも大変だね、また離ればなれになって。」
「マダム……。」
「あの子は意思の強い子だ。その意思で選んだ事なら、信じて理解してやんな。自分の妻だろう?」
「はい……。」
「え?え??サークちゃん、結婚したの!?」
「……まだですけど。」
「あ~!俺の嫁って感じね?やだ~!熱々~!」
ぐふふ~と笑われる。
全く、師匠と話しているとシリアスになれない。
いいんだか悪いんだか……。
俺は諦めて頭を切り替えた。
「どこにいるんですか?その魔法師の方は?」
「トート迷宮。」
「……は??トート迷宮遺跡ですか?」
「そ、その奥に潜んで研究をしてるらしいよ。」
「奥……奥って、どの辺りですか……?」
「さぁ?あいつか奥って言うくらいだし、誰にも見つかってない訳だし、そう言うところだろ?」
「……マジか……。」
俺は頭を抱えた。
トート迷宮遺跡、別名、死神の迷路だ。
進めば進むだけ、難易度が上がる。
どこまで進んだかが、冒険者のステータスにもなるような場所だ。
そしていまだに、完全攻略されていない。
「嘘だろ!?冗談だろ!?」
「サークちゃん、それってヤバいところなの??」
「いや、浅いところはレベル上げとかどこまで行けたかで実力を示すのにも使われるような迷宮ですけど、奥に行くほど難易度が上がって、どこまで奥があるのかまだわかってない、完全攻略されていない迷宮です……。」
「ふ~ん。その奥にビショップさんがいるのね??」
「そのようです……。」
「何、場所は近いんだし、サクッと行ってくればいいだろ??」
「簡単に言わないで下さい……マダム……。」
トート迷宮は確かにここから近い。
だからこのギルドを拠点にしている冒険者もよく、そこを利用している。
でもそれはレベル上げや、自分の実力を確認するためであって、最奥を目指している訳じゃない。
近いならシルクを預かってもらっている間に行ってこようかと思っていたが、トート迷宮遺跡の奥ですか!?
奥ってどれくらい奥ですか!?
それって普段、皆が行っているような所じゃないですよね!?
難易度どれくらいの奥なんですか!?
多分、迷宮攻略する勢いがなかったら無理じゃんっ!!
「アタシ、一緒に行っても良いわよ?」
「……師匠が??」
「うん。ビショップさんに興味があるし、自分が冒険者としてはどれくらいの位置にいるのかも知りたかったし。ちょうどいいかなって。」
「師匠とトート迷宮遺跡……イケるか……?」
確かに一人だと厳しいが、師匠と一緒なら可能性はある。
師匠は変態だが、腐っても俺の師匠だ。
攻略は無理でも魔法師を見つけるところまでは行けるのではないだろうか……。
「まぁ、相当奥だと思うから、準備はいるだろうね?」
「そうですね……食料とかが問題なんで、小規模異空間関連のものが欲しいところですね……。」
「あるよ?」
「え??」
「だからあるよ?小規模異空間のついた代物。」
俺が行くと決めたのを見て取ったのだろう。
マダムがそう言った。
いや待て、この流れは嫌な予感だ。
俺は恐る恐るマダムの顔を見た。
マダムの顔がすっかり商人になっている。
待て待て待て待て!!
必要だが!俺はまだ!ウィルの槍のローンが残っているんだっ!!
「え~!マダム!無限バックとか売ってるんですか~!!凄~い!!」
「見たいかい??」
「見たい見たい~!!」
師匠っ!!
話に乗らないで下さいっ!!
確かにマダムは簡単には手に入らないような凄い品を出してくれるけど!!
あんた、どんだけこの人がふっかけて来るか知らないだろうがっ!!
俺は青ざめて、師匠を止めようとした。
しかしそこはやり手の商人。
サクッと横に置いてあった箱を、俺たちの前に置いた。
中には三点ほどの品物が入っている。
「駄目駄目駄目駄目っ!!師匠っ!!見ちゃ駄目っ!!」
「ええ~何で~!?」
「これなんかどうだい?新鮮な1週間分の食料は軽く入るよ?非常食なら1ヶ月近く入るんじゃないかね??」
「ええ~!!凄~い!!」
「師匠~!!それは悪魔の囁きです~!!聞いてはいけません~!!」
「一番入るやつは、本当、1年分は入るらしいね?」
「1年分!?サークちゃん!1年分だって!!」
「師匠~っ!!」
警戒する俺をよそに、師匠は興奮してマダムの話を聞いている。
駄目だ、師匠はこの危険をわかってない。
もう勝手にしてくれ。
俺は絶対、買わないから。
さんざんマダムの営業トークを楽しんだ師匠は、にこにこと俺に振り向いた。
「で、サークちゃん。どれにするの??」
「……は??」
師匠??
これだけ散々話を聞いておきながら、自分は買わないつもりなんですか!?
俺に!?
俺に買えと!?
目が点になった俺に、マダムはにっこり笑った。
「安くしとくよ?サーク??」
終わった……。
俺は死神の迷路に行く前に、死神に出会った気がした。
師匠が鼻息荒く息巻いている横で、マダムは変わらぬ調子でそう言った。
頼まれてた件??
「あ、魔法師……ビショップの件ですね??」
「そう。あいつまだ生きてたよ。しかも案外近くに潜伏しててさ。びっくりだよ。」
「ビショップの件!?」
興奮冷めやらない師匠が食いついてきた。
俺の襟首を引っ付かんで、ガタガタ言わす。
「何!?どういう事!?サークちゃんっ!!」
「……し、師匠……苦しいです……。」
「あらやだ~!ごめんなさい~!ちょっと興奮しちゃって~。」
くねっとしなを作るが、がたいのいい師匠にそれをやられても、怖いだけです……。
俺は呼吸を整えた。
「ウィルの事で、マダムに政治的な息のかかってない魔法師の紹介をお願いしてたんです。」
「サークちゃんの恋人の子よね?あ~見たかったわ~!!サークちゃんの恋人!!」
「すみません。今は緊急事態なんで、いずれまた……。」
ウィルはどうしているだろう……。
俺の中に暗い影が落ちる。
ヴィオールまで出したんだ……。
敵意ありと見なされたんじゃないだろうか?
他の皆は一応貴族という立場が保護してくれるだろうが、ウィルは違う。
牢に入れられてたりしないだろうか……。
あの時、振り向いてくれなかった背中が脳裏に焼き付いている。
どうして……一緒に来てくれなかったんだろう……。
「サークちゃん??」
「あ、すみません。大丈夫です。」
「あんたも大変だね、また離ればなれになって。」
「マダム……。」
「あの子は意思の強い子だ。その意思で選んだ事なら、信じて理解してやんな。自分の妻だろう?」
「はい……。」
「え?え??サークちゃん、結婚したの!?」
「……まだですけど。」
「あ~!俺の嫁って感じね?やだ~!熱々~!」
ぐふふ~と笑われる。
全く、師匠と話しているとシリアスになれない。
いいんだか悪いんだか……。
俺は諦めて頭を切り替えた。
「どこにいるんですか?その魔法師の方は?」
「トート迷宮。」
「……は??トート迷宮遺跡ですか?」
「そ、その奥に潜んで研究をしてるらしいよ。」
「奥……奥って、どの辺りですか……?」
「さぁ?あいつか奥って言うくらいだし、誰にも見つかってない訳だし、そう言うところだろ?」
「……マジか……。」
俺は頭を抱えた。
トート迷宮遺跡、別名、死神の迷路だ。
進めば進むだけ、難易度が上がる。
どこまで進んだかが、冒険者のステータスにもなるような場所だ。
そしていまだに、完全攻略されていない。
「嘘だろ!?冗談だろ!?」
「サークちゃん、それってヤバいところなの??」
「いや、浅いところはレベル上げとかどこまで行けたかで実力を示すのにも使われるような迷宮ですけど、奥に行くほど難易度が上がって、どこまで奥があるのかまだわかってない、完全攻略されていない迷宮です……。」
「ふ~ん。その奥にビショップさんがいるのね??」
「そのようです……。」
「何、場所は近いんだし、サクッと行ってくればいいだろ??」
「簡単に言わないで下さい……マダム……。」
トート迷宮は確かにここから近い。
だからこのギルドを拠点にしている冒険者もよく、そこを利用している。
でもそれはレベル上げや、自分の実力を確認するためであって、最奥を目指している訳じゃない。
近いならシルクを預かってもらっている間に行ってこようかと思っていたが、トート迷宮遺跡の奥ですか!?
奥ってどれくらい奥ですか!?
それって普段、皆が行っているような所じゃないですよね!?
難易度どれくらいの奥なんですか!?
多分、迷宮攻略する勢いがなかったら無理じゃんっ!!
「アタシ、一緒に行っても良いわよ?」
「……師匠が??」
「うん。ビショップさんに興味があるし、自分が冒険者としてはどれくらいの位置にいるのかも知りたかったし。ちょうどいいかなって。」
「師匠とトート迷宮遺跡……イケるか……?」
確かに一人だと厳しいが、師匠と一緒なら可能性はある。
師匠は変態だが、腐っても俺の師匠だ。
攻略は無理でも魔法師を見つけるところまでは行けるのではないだろうか……。
「まぁ、相当奥だと思うから、準備はいるだろうね?」
「そうですね……食料とかが問題なんで、小規模異空間関連のものが欲しいところですね……。」
「あるよ?」
「え??」
「だからあるよ?小規模異空間のついた代物。」
俺が行くと決めたのを見て取ったのだろう。
マダムがそう言った。
いや待て、この流れは嫌な予感だ。
俺は恐る恐るマダムの顔を見た。
マダムの顔がすっかり商人になっている。
待て待て待て待て!!
必要だが!俺はまだ!ウィルの槍のローンが残っているんだっ!!
「え~!マダム!無限バックとか売ってるんですか~!!凄~い!!」
「見たいかい??」
「見たい見たい~!!」
師匠っ!!
話に乗らないで下さいっ!!
確かにマダムは簡単には手に入らないような凄い品を出してくれるけど!!
あんた、どんだけこの人がふっかけて来るか知らないだろうがっ!!
俺は青ざめて、師匠を止めようとした。
しかしそこはやり手の商人。
サクッと横に置いてあった箱を、俺たちの前に置いた。
中には三点ほどの品物が入っている。
「駄目駄目駄目駄目っ!!師匠っ!!見ちゃ駄目っ!!」
「ええ~何で~!?」
「これなんかどうだい?新鮮な1週間分の食料は軽く入るよ?非常食なら1ヶ月近く入るんじゃないかね??」
「ええ~!!凄~い!!」
「師匠~!!それは悪魔の囁きです~!!聞いてはいけません~!!」
「一番入るやつは、本当、1年分は入るらしいね?」
「1年分!?サークちゃん!1年分だって!!」
「師匠~っ!!」
警戒する俺をよそに、師匠は興奮してマダムの話を聞いている。
駄目だ、師匠はこの危険をわかってない。
もう勝手にしてくれ。
俺は絶対、買わないから。
さんざんマダムの営業トークを楽しんだ師匠は、にこにこと俺に振り向いた。
「で、サークちゃん。どれにするの??」
「……は??」
師匠??
これだけ散々話を聞いておきながら、自分は買わないつもりなんですか!?
俺に!?
俺に買えと!?
目が点になった俺に、マダムはにっこり笑った。
「安くしとくよ?サーク??」
終わった……。
俺は死神の迷路に行く前に、死神に出会った気がした。
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