欠片の軌跡④〜南国の王太子

ねぎ(塩ダレ)

文字の大きさ
52 / 94
第八章①「疑惑と逃亡編」

死神の迷路

しおりを挟む
「それはそうとサーク。あんたに頼まれてた件だけど、連絡がついたよ。」

師匠が鼻息荒く息巻いている横で、マダムは変わらぬ調子でそう言った。
頼まれてた件??

「あ、魔法師……ビショップの件ですね??」

「そう。あいつまだ生きてたよ。しかも案外近くに潜伏しててさ。びっくりだよ。」

「ビショップの件!?」

興奮冷めやらない師匠が食いついてきた。
俺の襟首を引っ付かんで、ガタガタ言わす。

「何!?どういう事!?サークちゃんっ!!」

「……し、師匠……苦しいです……。」

「あらやだ~!ごめんなさい~!ちょっと興奮しちゃって~。」

くねっとしなを作るが、がたいのいい師匠にそれをやられても、怖いだけです……。
俺は呼吸を整えた。

「ウィルの事で、マダムに政治的な息のかかってない魔法師の紹介をお願いしてたんです。」

「サークちゃんの恋人の子よね?あ~見たかったわ~!!サークちゃんの恋人!!」

「すみません。今は緊急事態なんで、いずれまた……。」

ウィルはどうしているだろう……。
俺の中に暗い影が落ちる。

ヴィオールまで出したんだ……。
敵意ありと見なされたんじゃないだろうか?

他の皆は一応貴族という立場が保護してくれるだろうが、ウィルは違う。
牢に入れられてたりしないだろうか……。

あの時、振り向いてくれなかった背中が脳裏に焼き付いている。

どうして……一緒に来てくれなかったんだろう……。

「サークちゃん??」

「あ、すみません。大丈夫です。」

「あんたも大変だね、また離ればなれになって。」

「マダム……。」

「あの子は意思の強い子だ。その意思で選んだ事なら、信じて理解してやんな。自分の妻だろう?」

「はい……。」

「え?え??サークちゃん、結婚したの!?」

「……まだですけど。」

「あ~!俺の嫁って感じね?やだ~!熱々~!」

ぐふふ~と笑われる。
全く、師匠と話しているとシリアスになれない。
いいんだか悪いんだか……。
俺は諦めて頭を切り替えた。

「どこにいるんですか?その魔法師の方は?」

「トート迷宮。」

「……は??トート迷宮遺跡ですか?」

「そ、その奥に潜んで研究をしてるらしいよ。」

「奥……奥って、どの辺りですか……?」

「さぁ?あいつか奥って言うくらいだし、誰にも見つかってない訳だし、そう言うところだろ?」

「……マジか……。」

俺は頭を抱えた。
トート迷宮遺跡、別名、死神の迷路だ。

進めば進むだけ、難易度が上がる。
どこまで進んだかが、冒険者のステータスにもなるような場所だ。
そしていまだに、完全攻略されていない。

「嘘だろ!?冗談だろ!?」

「サークちゃん、それってヤバいところなの??」

「いや、浅いところはレベル上げとかどこまで行けたかで実力を示すのにも使われるような迷宮ですけど、奥に行くほど難易度が上がって、どこまで奥があるのかまだわかってない、完全攻略されていない迷宮です……。」

「ふ~ん。その奥にビショップさんがいるのね??」

「そのようです……。」

「何、場所は近いんだし、サクッと行ってくればいいだろ??」

「簡単に言わないで下さい……マダム……。」

トート迷宮は確かにここから近い。
だからこのギルドを拠点にしている冒険者もよく、そこを利用している。
でもそれはレベル上げや、自分の実力を確認するためであって、最奥を目指している訳じゃない。

近いならシルクを預かってもらっている間に行ってこようかと思っていたが、トート迷宮遺跡の奥ですか!?

奥ってどれくらい奥ですか!?
それって普段、皆が行っているような所じゃないですよね!?
難易度どれくらいの奥なんですか!?
多分、迷宮攻略する勢いがなかったら無理じゃんっ!!

「アタシ、一緒に行っても良いわよ?」

「……師匠が??」

「うん。ビショップさんに興味があるし、自分が冒険者としてはどれくらいの位置にいるのかも知りたかったし。ちょうどいいかなって。」

「師匠とトート迷宮遺跡……イケるか……?」

確かに一人だと厳しいが、師匠と一緒なら可能性はある。
師匠は変態だが、腐っても俺の師匠だ。
攻略は無理でも魔法師を見つけるところまでは行けるのではないだろうか……。

「まぁ、相当奥だと思うから、準備はいるだろうね?」

「そうですね……食料とかが問題なんで、小規模異空間関連のものが欲しいところですね……。」

「あるよ?」

「え??」

「だからあるよ?小規模異空間のついた代物。」

俺が行くと決めたのを見て取ったのだろう。
マダムがそう言った。

いや待て、この流れは嫌な予感だ。

俺は恐る恐るマダムの顔を見た。
マダムの顔がすっかり商人になっている。

待て待て待て待て!!
必要だが!俺はまだ!ウィルの槍のローンが残っているんだっ!!

「え~!マダム!無限バックとか売ってるんですか~!!凄~い!!」

「見たいかい??」

「見たい見たい~!!」

師匠っ!!
話に乗らないで下さいっ!!

確かにマダムは簡単には手に入らないような凄い品を出してくれるけど!!
あんた、どんだけこの人がふっかけて来るか知らないだろうがっ!!

俺は青ざめて、師匠を止めようとした。
しかしそこはやり手の商人。
サクッと横に置いてあった箱を、俺たちの前に置いた。
中には三点ほどの品物が入っている。

「駄目駄目駄目駄目っ!!師匠っ!!見ちゃ駄目っ!!」

「ええ~何で~!?」

「これなんかどうだい?新鮮な1週間分の食料は軽く入るよ?非常食なら1ヶ月近く入るんじゃないかね??」

「ええ~!!凄~い!!」

「師匠~!!それは悪魔の囁きです~!!聞いてはいけません~!!」

「一番入るやつは、本当、1年分は入るらしいね?」

「1年分!?サークちゃん!1年分だって!!」

「師匠~っ!!」

警戒する俺をよそに、師匠は興奮してマダムの話を聞いている。

駄目だ、師匠はこの危険をわかってない。
もう勝手にしてくれ。
俺は絶対、買わないから。

さんざんマダムの営業トークを楽しんだ師匠は、にこにこと俺に振り向いた。

「で、サークちゃん。どれにするの??」

「……は??」

師匠??
これだけ散々話を聞いておきながら、自分は買わないつもりなんですか!?

俺に!?
俺に買えと!?

目が点になった俺に、マダムはにっこり笑った。

「安くしとくよ?サーク??」

終わった……。
俺は死神の迷路に行く前に、死神に出会った気がした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

【完結】抱っこからはじまる恋

  *  ゆるゆ
BL
満員電車で、立ったまま寄りかかるように寝てしまった高校生の愛希を抱っこしてくれたのは、かっこいい社会人の真紀でした。接点なんて、まるでないふたりの、抱っこからはじまる、しあわせな恋のお話です。 ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら! 完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 BLoveさまのコンテストに応募しているお話を倍以上の字数増量でお送りする、アルファポリスさま限定版です! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

後宮の男妃

紅林
BL
碧凌帝国には年老いた名君がいた。 もう間もなくその命尽きると噂される宮殿で皇帝の寵愛を一身に受けていると噂される男妃のお話。

処理中です...