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第三王子編
悪戯な反撃
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一眠りして俺とイヴァンは詰め所に顔を出し、お茶とおやつ等を食べた。
その時、ギルやシルクにも会って様子を聞く事ができた。
こっちもこっちで色々妨害を受けている、とギルは言った。
あのクソ王太子、今に見てろ……と呟く。
無表情でスンッとしたギルのヤバい顔を久しぶりに見た気がした。
やり返してもいいけど、国際問題にならないようにしてくれよ……。
俺はというと少し気になる事があったので、シルクと話し、対応を頼んだ。
とにかくあの王太子はやらかしてくれる。
皆、行き場のない憤りにピリピリしていたし、来て早々疲れきってる。
そんなこんなで心配になり様子を見に行こうと、本家ロイヤルシールド&ソードことチタニアさんとファレルさんの様子を見に行くと、すでに瀕死状態だった。
「本っ当~!冗談じゃないわ!」
「本当に……。」
あの後、食事などに異常はなかったが、グレゴリウス王太子は食事中に際どい質問をしれっと投げ掛けたりしたらしい。
とことんこちらの精神をすり減らそうという作戦なのだろうか?
その上やっと食事が終わったと思ったら、王太子は王子をダンスに誘いだし、対応に困る王子を食後ですのでとチタニアさんが助けると、なら落ち着いた頃に迎えに行くと言ったそうだ。
体良く断ったというのに1時間後に本当に迎えに来て、ドアの前ですったもんだしたらしい。
どうにもなりそうもないとライオネル殿下が顔を出したのだが王子もぐったりしていて、見ての通り旅の疲れが残っているのでダンスは無理だと断ると、そう思ってお茶を用意したと言ったらしい。
全く、いけしゃあしゃあと……。
最初の提案を断った手前、お茶の誘いを断る訳にも行かずついていくと、ベッドのような真っ赤なソファーの部屋で、王子はベタベタとくっつかれながらお茶をするはめになったそうだ。
もうその時点で殿下の顔は死んでおり、抵抗する気力もなかったらしい。
ロイアルガードの二人はその間、部屋に焚かれたよからぬ香を打ち消したり、ふざけた振りで王子を押し倒そうとするのを止めたりと散々だったそうだ。
何とかそれでもお茶会を終えたのだが、王子は完全に参ってしまい、ただいまお休み中との事だ。
「それは……大変でしたね……。」
何なんだ、本当、あの王太子は……。
世界は自分の為にあると思っていそうだ。
とりあえず、お互いバテる訳にはいかない。
少し早かったが休憩に入ってもらい、夕食の後から夜番に入ってもらうことにした。
まぁ変わっても、夕食までは部屋の前の警護だからそこまで大変じゃない。
「ヤバいな、あの王太子。」
「ええ、噂には聞いてたんですけど、よもやここまでとは……。」
「今回逃したら無理だからな、どんな手を使ってもってとこなんだろ。本当。」
「いや、この勢いで来られたら、好きな相手でも引きますね……。」
「次は何かな~?」
「なんですかね~?」
俺たちは乾いた笑いを浮かべた。
脳が疲れたのか甘いものが食べたくなって、ローブの下から飴を取り出し口に入れる。
いきなりローブをめくり上げた俺を、イヴァンがおかしそうに見ていた。
「食う?」
「頂きます。というか、下は警護部隊の制服なんですね?」
「ああ、本当に何かあった時は、このローブじゃ俺、動けないからな。」
「なるほど。」
会話と言うほどでもない言葉を交わし、後は黙って飴を転がした。
後1時間程で、夕食会だ。
しばらくすると、王子の身支度の為にお着きのメイドさんたちがやって来た。
会釈して中に入ってもらう。
持ち物に何か紛れ込んでいるといけないので、魔力探査はしておいた。
どうも疑心暗鬼になってしまう。
夕食会では今度は何が起こるのか考えると、頭が痛かった。
夕食会はパーティー形式で、王子以外にもたくさんの賓客がいた。
広いフロアーを俺とイヴァンは王子の後をくっついて歩く。
本来警護は近くから見守るだけでそこまでしないのだが、起きて俺の顔を見た途端、王子が半泣きで抱きついてきて「ずっと側に居てくれるって言ったのに!怖かったのに!」と言い、パーティー中は側にいるよう命じられた。
招待国からの歓迎パーティーでそれはどうかと思ったが、メイドさんたちにも「このまま振り回されてたら殿下が倒れてしまう!」と頼み込まれる。
いやもう、どんだけまわりを振り回すんだよ、あの王太子。
そんな訳で俺とイヴァンは張り付き型の警護をする羽目になった。
しかし一眠りしたとはいえ負担が大きかったようで、王子は軽く挨拶を済ませると用意されていた休憩スペースに座り込んでしまった。
ティーセットがあったのですぐにお茶を入れる。
殿下もだがイヴァンや会場警護で入り込んでいる皆もくたびれた顔をしている。
う~ん、どうしたもんだろう……。
さすがにこのままやられっぱなしだと、全員参ってしまうなと思った。
「大丈夫ですか?」
「はい……。」
王子は気丈に笑ったが目が死んでる。
これは駄目そうだと俺とイヴァンは顔を見合わせた。
何か理由をつけて、早めに抜け出した方が良いだろう。
そんな事を思っていると、会場警護でいたギルが王子の様子を見にスペースに入ってきた。
ぐったりしている王子を見て顔色が変わる。
王子の前に膝をつき、その手を取った。
「リオ、大丈夫か?」
「ありがとう、ギル。サークも側に居てくれるので、少しは気が楽になりました。」
「そうか……。」
う~ん、これが正しい主と騎士なのか?
二人のやり取りに少し考える。
俺は王子の騎士としてこれくらいしないと駄目なのかな??
王子は今、不安なのだし、それを取り除く為にはやるべきなのかもしれない。
俺はギルと王子のやり取りを見てそう思った。
いや、でもな……。
これを俺がやったら何か問題あるよな……。
ギルと王子は幼馴染みだから許されるんであって……。
難しいところだ。
そんな事を思っていると、誰かが何も言わずに不躾にスペースに入ってきた。
俺とイヴァンは一瞬、身構える。
たがすぐに控えた。
無作法ではあるが、悔しいが文句の言える相手じゃない。
できるのは頭を下げたタイミングで顔を顰めるぐらい。
思わずマジかと声が出そうになった。
「……おやおや、お邪魔でしたかな?」
声の相手をギルが睨んだ。
正装とはいえ、派手に胸元の開いた服。
俺を見ろとばかりのゴージャスな衣装だ。
どこにこんな俺様な服が売ってるんだろうと思う。
まぁ、オーダーメイドなんだろうけど、これを作れるデザイナーのセンスも凄い。
案の定というか、何と言うか……。
ズカズカとグレゴリウス王太子がやって来た。
本当にこの人は王子や俺たちを休ませる気がないようだ。
王子に寄り添っていたギルは、ギロリと皇太子をねめながらも無言で立ち上がり後ろに引いて控えた。
顔がヤバいぞ、ギル。
放つオーラが殺気だとしか思えん。
瀕死のライオネル殿下。
殺気立つギル。
無遠慮でギラギラした王太子。
なんと言うかソフトな修羅場だ。
そんな中でも気丈に王子は立ち上がり挨拶をする。
「こんばんは、グレゴリウス王太子。本日はこのような歓迎を頂き、大変感謝しています。」
「リオ?違うだろ?」
「ええと……。グレッグ、ありがとうございます……。」
「うん、良い感じだ!リオ!今夜の君も美しい。虜になってしまうよ。」
「ありがとうございます……。」
王子は頑張ったが、押せ押せな王太子にすでに逃げ腰だ。
本当、よくすらすらそんな言葉が出るな?
白目になって砂糖吐きそうだ。
楽にと促され王子が座り直すと、王太子は小さなテーブルの向かい席に断りもなく座った。
肘をつき、にっこりと笑いかける。
「楽しんで貰えているかい?リオ?」
「もちろんです。」
「私も今夜はとても楽しいよ。いつもは夢でしか会えない君がここに居てくれる。」
王太子はそう言って、ティーカップに触れている王子の手を握ろうとした。
またコイツは!
性懲りもない王太子にさすがにプチッときた。
それと同時に、俺にちょっとしたイタズラ心が芽生える。
ニヤッと密かに笑って公式を解す。
すると王子にふれそうになった王太子の手に、パチンと静電気が走った。
王太子は驚き、反射的に手を引っ込める。
ライオネル殿下の方は何も気付かなかったようで、ゆったりと紅茶を飲み始めた。
皇太子は行き場を失った手を何度か握ったり開いたりして、ちらりと俺に目を向ける。
そして笑った。
「……そこの君、ガードの方の。」
「私でしょうか?グレゴリウス王太子殿下。」
「うん。ちょっと何か飲み物と食べ物をとってきてくれないか?」
ほほう?
俺がやったと疑ってるのね?
まぁ、やったけど。(笑)
けれど証拠は何一つない。
単に触ろうとしたら静電気がパチっとしただけ。
ごく自然に起こる現象だ。
ただちょっと、その条件を魔術で変えてやっただけだ。
俺は礼を尽くし、にっこり笑って頭を下げる。
「承知致しました。何かご希望はございますか?」
「酒を頼む。」
「はい。ではライオネル殿下、少々席を外します。」
「あ……。はい、わかりました。」
俺が離れる事に不安を感じたのか王子が視線で訴えてきたが、ここは王太子に逆らっても仕方がない。
それに大丈夫です、王子。
ちゃんと対策はしておきますので。
ギルがなんとなく感づいたらしく、少し笑って俺に視線を向ける。
イヴァンの方は気づいているかいないかわからないが、知らぬ存ぜぬと言った感じだ。
俺はにこにことスペースを出た。
王太子用に適当につまみになりそうな物と、王子の食べられそうな軽食をトレーに乗せる。
ワインを一本と礼儀としてワイングラスを2つ持って戻った。
そして王子たちの待つスペースに入ろうとして、思わず言った。
「……どうされましたか?グレゴリウス王太子?」
この少しの間に何があったと言うのか?
王太子が腕を押さえて微かに震えていた。
理由はわかっている。
だが俺はきょとんとした顔でいた。
王太子の眼が忌々しそうに俺に向けられる。
「……何でもない!酒は持ってきたのか!?」
不機嫌そうに睨まれた。
いやでも、多分、俺は悪くない。
ギルは良い気味だと口許を歪め、イヴァンは笑わないようになのか天井を見上げている。
王子はただただ、目をぱちくりさせていた。
いや、でも本当。
あんたが悪いんだぜ、王太子?
よもやこの短期間でよくそこまで手が出せたな?
俺は手とか問題がない場所に触ろうとしたならば静電気程度で、逆に問題がある際どいところを触ろうとしたら、それなりにって感じで魔術をかけておいただけで。
腕を押さえてるって事は、それだけの事をしようとしたって事だよな?
天罰だよ天罰。
俺は素知らぬ顔で持ってきた物をテーブルに並べ、セッティングした。
タイミングよくスッとイヴァンが来て、ワインを開けて王太子のグラスに注ぐ。
さすが優秀なロイアルソードの卵。
こういう場面でも自然に動けるところが凄い。
いや、単にイヴァンの素養なのかもしれないけど。
王太子はフンッとばかりにふんぞり反っている。
注がれたワインを一息に飲み干すと、王太子は俺に言った。
「魔術師、杖はどこだ?」
「こちらにありますが……?何か?」
「テーブルの上に置け。」
「はい、承知しました。」
俺は訳がわからないと言った顔で、テーブルの邪魔にならなそうな位置に杖を置いた。
ギルもイヴァンも、俺が魔術を使うのに杖は要らないことを知っているので何も言わない。
そしておとなしく後に控えた。
王太子はイヴァンに二杯目を注いでもらうと、気を取り直して王子を見つめる。
「リオ、会わない間に本当に美しくなった……。私は君の事をもっと知りたい……。体の隅々まで……。」
休憩スペースに冷たい風が吹いた。
しかし南国の太陽は自分から発せられる熱気のせいで気づいていない。
は~……。
びっくりするほど凄いセリフだな、おい。
俺の心中の突っ込みはさておき、言葉だけではなく王太子は足を伸ばして揃えられた王子の足を開こうとした。
その瞬間、バチンッとそれなりの音がスペースに響き渡った。
「ッ!!」
「……え?王太子!?どうされたんですか!?」
ガクンと王太子の体が震え、今度は足を押さえた。
王子は何が何だかわからず慌てている。
ギルに至っては全く躊躇なく吹き出して、その後は無表情に立っていた。
イヴァンはまた上を見ていたが、歯を悔い縛り、微かに体が震えている。
王太子がまた俺を睨んだ。
俺はきょとん顔で訳がわからないと目をぱちくりさせる。
まぁ杖もおいてあるし、王太子も睨みはしても何も文句が言えなかったようだ。
あ~楽しい~。
ちょっとしたイタズラだが、これで少しは牽制になっただろう。
いくら招待に預かった大国の王太子とはいえ、俺たちは黙ってやられっぱなしの馬鹿じゃない。
ちったぁ思いしれっ!
皆の仇が少しは取れた気がして、俺は内心ほくそ笑んだ。
その時、ギルやシルクにも会って様子を聞く事ができた。
こっちもこっちで色々妨害を受けている、とギルは言った。
あのクソ王太子、今に見てろ……と呟く。
無表情でスンッとしたギルのヤバい顔を久しぶりに見た気がした。
やり返してもいいけど、国際問題にならないようにしてくれよ……。
俺はというと少し気になる事があったので、シルクと話し、対応を頼んだ。
とにかくあの王太子はやらかしてくれる。
皆、行き場のない憤りにピリピリしていたし、来て早々疲れきってる。
そんなこんなで心配になり様子を見に行こうと、本家ロイヤルシールド&ソードことチタニアさんとファレルさんの様子を見に行くと、すでに瀕死状態だった。
「本っ当~!冗談じゃないわ!」
「本当に……。」
あの後、食事などに異常はなかったが、グレゴリウス王太子は食事中に際どい質問をしれっと投げ掛けたりしたらしい。
とことんこちらの精神をすり減らそうという作戦なのだろうか?
その上やっと食事が終わったと思ったら、王太子は王子をダンスに誘いだし、対応に困る王子を食後ですのでとチタニアさんが助けると、なら落ち着いた頃に迎えに行くと言ったそうだ。
体良く断ったというのに1時間後に本当に迎えに来て、ドアの前ですったもんだしたらしい。
どうにもなりそうもないとライオネル殿下が顔を出したのだが王子もぐったりしていて、見ての通り旅の疲れが残っているのでダンスは無理だと断ると、そう思ってお茶を用意したと言ったらしい。
全く、いけしゃあしゃあと……。
最初の提案を断った手前、お茶の誘いを断る訳にも行かずついていくと、ベッドのような真っ赤なソファーの部屋で、王子はベタベタとくっつかれながらお茶をするはめになったそうだ。
もうその時点で殿下の顔は死んでおり、抵抗する気力もなかったらしい。
ロイアルガードの二人はその間、部屋に焚かれたよからぬ香を打ち消したり、ふざけた振りで王子を押し倒そうとするのを止めたりと散々だったそうだ。
何とかそれでもお茶会を終えたのだが、王子は完全に参ってしまい、ただいまお休み中との事だ。
「それは……大変でしたね……。」
何なんだ、本当、あの王太子は……。
世界は自分の為にあると思っていそうだ。
とりあえず、お互いバテる訳にはいかない。
少し早かったが休憩に入ってもらい、夕食の後から夜番に入ってもらうことにした。
まぁ変わっても、夕食までは部屋の前の警護だからそこまで大変じゃない。
「ヤバいな、あの王太子。」
「ええ、噂には聞いてたんですけど、よもやここまでとは……。」
「今回逃したら無理だからな、どんな手を使ってもってとこなんだろ。本当。」
「いや、この勢いで来られたら、好きな相手でも引きますね……。」
「次は何かな~?」
「なんですかね~?」
俺たちは乾いた笑いを浮かべた。
脳が疲れたのか甘いものが食べたくなって、ローブの下から飴を取り出し口に入れる。
いきなりローブをめくり上げた俺を、イヴァンがおかしそうに見ていた。
「食う?」
「頂きます。というか、下は警護部隊の制服なんですね?」
「ああ、本当に何かあった時は、このローブじゃ俺、動けないからな。」
「なるほど。」
会話と言うほどでもない言葉を交わし、後は黙って飴を転がした。
後1時間程で、夕食会だ。
しばらくすると、王子の身支度の為にお着きのメイドさんたちがやって来た。
会釈して中に入ってもらう。
持ち物に何か紛れ込んでいるといけないので、魔力探査はしておいた。
どうも疑心暗鬼になってしまう。
夕食会では今度は何が起こるのか考えると、頭が痛かった。
夕食会はパーティー形式で、王子以外にもたくさんの賓客がいた。
広いフロアーを俺とイヴァンは王子の後をくっついて歩く。
本来警護は近くから見守るだけでそこまでしないのだが、起きて俺の顔を見た途端、王子が半泣きで抱きついてきて「ずっと側に居てくれるって言ったのに!怖かったのに!」と言い、パーティー中は側にいるよう命じられた。
招待国からの歓迎パーティーでそれはどうかと思ったが、メイドさんたちにも「このまま振り回されてたら殿下が倒れてしまう!」と頼み込まれる。
いやもう、どんだけまわりを振り回すんだよ、あの王太子。
そんな訳で俺とイヴァンは張り付き型の警護をする羽目になった。
しかし一眠りしたとはいえ負担が大きかったようで、王子は軽く挨拶を済ませると用意されていた休憩スペースに座り込んでしまった。
ティーセットがあったのですぐにお茶を入れる。
殿下もだがイヴァンや会場警護で入り込んでいる皆もくたびれた顔をしている。
う~ん、どうしたもんだろう……。
さすがにこのままやられっぱなしだと、全員参ってしまうなと思った。
「大丈夫ですか?」
「はい……。」
王子は気丈に笑ったが目が死んでる。
これは駄目そうだと俺とイヴァンは顔を見合わせた。
何か理由をつけて、早めに抜け出した方が良いだろう。
そんな事を思っていると、会場警護でいたギルが王子の様子を見にスペースに入ってきた。
ぐったりしている王子を見て顔色が変わる。
王子の前に膝をつき、その手を取った。
「リオ、大丈夫か?」
「ありがとう、ギル。サークも側に居てくれるので、少しは気が楽になりました。」
「そうか……。」
う~ん、これが正しい主と騎士なのか?
二人のやり取りに少し考える。
俺は王子の騎士としてこれくらいしないと駄目なのかな??
王子は今、不安なのだし、それを取り除く為にはやるべきなのかもしれない。
俺はギルと王子のやり取りを見てそう思った。
いや、でもな……。
これを俺がやったら何か問題あるよな……。
ギルと王子は幼馴染みだから許されるんであって……。
難しいところだ。
そんな事を思っていると、誰かが何も言わずに不躾にスペースに入ってきた。
俺とイヴァンは一瞬、身構える。
たがすぐに控えた。
無作法ではあるが、悔しいが文句の言える相手じゃない。
できるのは頭を下げたタイミングで顔を顰めるぐらい。
思わずマジかと声が出そうになった。
「……おやおや、お邪魔でしたかな?」
声の相手をギルが睨んだ。
正装とはいえ、派手に胸元の開いた服。
俺を見ろとばかりのゴージャスな衣装だ。
どこにこんな俺様な服が売ってるんだろうと思う。
まぁ、オーダーメイドなんだろうけど、これを作れるデザイナーのセンスも凄い。
案の定というか、何と言うか……。
ズカズカとグレゴリウス王太子がやって来た。
本当にこの人は王子や俺たちを休ませる気がないようだ。
王子に寄り添っていたギルは、ギロリと皇太子をねめながらも無言で立ち上がり後ろに引いて控えた。
顔がヤバいぞ、ギル。
放つオーラが殺気だとしか思えん。
瀕死のライオネル殿下。
殺気立つギル。
無遠慮でギラギラした王太子。
なんと言うかソフトな修羅場だ。
そんな中でも気丈に王子は立ち上がり挨拶をする。
「こんばんは、グレゴリウス王太子。本日はこのような歓迎を頂き、大変感謝しています。」
「リオ?違うだろ?」
「ええと……。グレッグ、ありがとうございます……。」
「うん、良い感じだ!リオ!今夜の君も美しい。虜になってしまうよ。」
「ありがとうございます……。」
王子は頑張ったが、押せ押せな王太子にすでに逃げ腰だ。
本当、よくすらすらそんな言葉が出るな?
白目になって砂糖吐きそうだ。
楽にと促され王子が座り直すと、王太子は小さなテーブルの向かい席に断りもなく座った。
肘をつき、にっこりと笑いかける。
「楽しんで貰えているかい?リオ?」
「もちろんです。」
「私も今夜はとても楽しいよ。いつもは夢でしか会えない君がここに居てくれる。」
王太子はそう言って、ティーカップに触れている王子の手を握ろうとした。
またコイツは!
性懲りもない王太子にさすがにプチッときた。
それと同時に、俺にちょっとしたイタズラ心が芽生える。
ニヤッと密かに笑って公式を解す。
すると王子にふれそうになった王太子の手に、パチンと静電気が走った。
王太子は驚き、反射的に手を引っ込める。
ライオネル殿下の方は何も気付かなかったようで、ゆったりと紅茶を飲み始めた。
皇太子は行き場を失った手を何度か握ったり開いたりして、ちらりと俺に目を向ける。
そして笑った。
「……そこの君、ガードの方の。」
「私でしょうか?グレゴリウス王太子殿下。」
「うん。ちょっと何か飲み物と食べ物をとってきてくれないか?」
ほほう?
俺がやったと疑ってるのね?
まぁ、やったけど。(笑)
けれど証拠は何一つない。
単に触ろうとしたら静電気がパチっとしただけ。
ごく自然に起こる現象だ。
ただちょっと、その条件を魔術で変えてやっただけだ。
俺は礼を尽くし、にっこり笑って頭を下げる。
「承知致しました。何かご希望はございますか?」
「酒を頼む。」
「はい。ではライオネル殿下、少々席を外します。」
「あ……。はい、わかりました。」
俺が離れる事に不安を感じたのか王子が視線で訴えてきたが、ここは王太子に逆らっても仕方がない。
それに大丈夫です、王子。
ちゃんと対策はしておきますので。
ギルがなんとなく感づいたらしく、少し笑って俺に視線を向ける。
イヴァンの方は気づいているかいないかわからないが、知らぬ存ぜぬと言った感じだ。
俺はにこにことスペースを出た。
王太子用に適当につまみになりそうな物と、王子の食べられそうな軽食をトレーに乗せる。
ワインを一本と礼儀としてワイングラスを2つ持って戻った。
そして王子たちの待つスペースに入ろうとして、思わず言った。
「……どうされましたか?グレゴリウス王太子?」
この少しの間に何があったと言うのか?
王太子が腕を押さえて微かに震えていた。
理由はわかっている。
だが俺はきょとんとした顔でいた。
王太子の眼が忌々しそうに俺に向けられる。
「……何でもない!酒は持ってきたのか!?」
不機嫌そうに睨まれた。
いやでも、多分、俺は悪くない。
ギルは良い気味だと口許を歪め、イヴァンは笑わないようになのか天井を見上げている。
王子はただただ、目をぱちくりさせていた。
いや、でも本当。
あんたが悪いんだぜ、王太子?
よもやこの短期間でよくそこまで手が出せたな?
俺は手とか問題がない場所に触ろうとしたならば静電気程度で、逆に問題がある際どいところを触ろうとしたら、それなりにって感じで魔術をかけておいただけで。
腕を押さえてるって事は、それだけの事をしようとしたって事だよな?
天罰だよ天罰。
俺は素知らぬ顔で持ってきた物をテーブルに並べ、セッティングした。
タイミングよくスッとイヴァンが来て、ワインを開けて王太子のグラスに注ぐ。
さすが優秀なロイアルソードの卵。
こういう場面でも自然に動けるところが凄い。
いや、単にイヴァンの素養なのかもしれないけど。
王太子はフンッとばかりにふんぞり反っている。
注がれたワインを一息に飲み干すと、王太子は俺に言った。
「魔術師、杖はどこだ?」
「こちらにありますが……?何か?」
「テーブルの上に置け。」
「はい、承知しました。」
俺は訳がわからないと言った顔で、テーブルの邪魔にならなそうな位置に杖を置いた。
ギルもイヴァンも、俺が魔術を使うのに杖は要らないことを知っているので何も言わない。
そしておとなしく後に控えた。
王太子はイヴァンに二杯目を注いでもらうと、気を取り直して王子を見つめる。
「リオ、会わない間に本当に美しくなった……。私は君の事をもっと知りたい……。体の隅々まで……。」
休憩スペースに冷たい風が吹いた。
しかし南国の太陽は自分から発せられる熱気のせいで気づいていない。
は~……。
びっくりするほど凄いセリフだな、おい。
俺の心中の突っ込みはさておき、言葉だけではなく王太子は足を伸ばして揃えられた王子の足を開こうとした。
その瞬間、バチンッとそれなりの音がスペースに響き渡った。
「ッ!!」
「……え?王太子!?どうされたんですか!?」
ガクンと王太子の体が震え、今度は足を押さえた。
王子は何が何だかわからず慌てている。
ギルに至っては全く躊躇なく吹き出して、その後は無表情に立っていた。
イヴァンはまた上を見ていたが、歯を悔い縛り、微かに体が震えている。
王太子がまた俺を睨んだ。
俺はきょとん顔で訳がわからないと目をぱちくりさせる。
まぁ杖もおいてあるし、王太子も睨みはしても何も文句が言えなかったようだ。
あ~楽しい~。
ちょっとしたイタズラだが、これで少しは牽制になっただろう。
いくら招待に預かった大国の王太子とはいえ、俺たちは黙ってやられっぱなしの馬鹿じゃない。
ちったぁ思いしれっ!
皆の仇が少しは取れた気がして、俺は内心ほくそ笑んだ。
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