『欠片の軌跡』おまけ短編集

ねぎ(塩ダレ)

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おふざけ・なんちゃって

9/14の人々

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バレンタインデーに対するイベント。
ホワイトデーから半年……。

9月14日は「メンズバレンタインデー」、
もしくは「セプテンバーバレンタインデー」と言うらしい……。

そんな9月14日の(アホな)人々の日常です。




①【メンズバレンタインデー】

「ウ、ウィル!!」

サークがウィルを呼び止める。
妙に赤面し緊張している。

「どうしたんだ?サーク?」

そんな様子のサークにウィルは首を傾げる。
テンパっているらしいサークは、不思議がるウィルにラッピングされた包みを差し出した。

「……え?!」
「き、今日!メンズバレンタインデーだから!!」
「メンズバレンタインデー??」
「男の方から好きな子に……その……ある物をプレゼントするらしくて……。」

真っ赤になってアワアワしているサーク。
よくわからなかったがとにかく、メンズバレンタインデーだから「サークが好きな子」にプレゼントを渡していると言う事は理解した。
ふふっと笑ってウィルはその包みを受け取った。

「ありがとう、サーク。」
「家に帰ってからね?!開けるのは絶対!家に帰ってからね?!」
「……あ、うん?わかった??」

それなら家で渡せばいいのにと思いながらも、皆の前で「好きな子に」と言って渡してきた事が嬉しかった。
サーク的にはウィルがモテるからと周りを牽制したかったのだろうが、ウィルにとってはむしろ逆である。
プレゼントを受け取り、ぴとっとくっつく。
自分はサークにこんなに愛されているのだと、サークは自分のフィアンセなのだと周りに知らしめる。

それにしても中身は何なのだろう?
少し気になって隙間から見ようとすると、サークが慌てふためいた。

「ダメダメ!ここで見たら駄目!!」
「何だよ?そんな変なものなのか?」
「変ていうか……。」

真っ赤になってどもるサーク。
周りを見れば、何となく察して顔を赤らめている者もいる。

え??
メンズバレンタインデーって何??

2月14日のバレンタインデーはチョコレートなどの菓子を渡す事が主流だ。
別にチョコレートと決まっている訳ではないが、何となくそういう風習になっている。
だとしたらメンズバレンタインデーは何を相手に送るのが主流なのだろうか??

「主ぃ~♡ウィル~♡見て見て~♡」

そこにシルクがやってくる。

ぎょっとした。
ウィルは自分の目を疑った。

「シルク~!おま……っ?!何て格好でうろついてんだよ?!」

同じ様にぎょっとしたサークが叫び声を上げる。
しかしそこはシルク。
全く動じない。

「何でぇ~?!メチャクチャ可愛くない?!俺?!」

そう言って自分の格好を見せつけるようにくるりと回って見せる。
踊り子だけに動きが綺麗で、一瞬、納得しかける。

「いや!いやいやいやいやいや?!可愛いとかそういう問題じゃねぇ!!人前をうろついていい格好じゃないって言ってんだよ!!」
「良いじゃん!俺!似合うんだしぃ~??」
「似合うからって見せる相手を選べ~!!」
「何だよ~。せっかくギルがくれた

ベビードール

なのにぃ~。」

そう。
シルクはセクシーなベビードールを身につけていた。
踊り子でもあるシルクだからそれを着てうろちょろしていてもギリギリアウトぐらいで済むが、他の人間がやったら犯罪だろう……。

「早く服を着ろ!皆が白目剥いて戦意喪失してんだろうが!!」
「むしろ臨戦態勢に入ってるんじゃない?下半身は。」
「くだらない事を言ってんじゃねぇ!!」

怒鳴るサークだが、シルクは蛙の面に水ぐらいの感覚で受け流す。
ウィルはやっと正気に返った。

「……シルク??」
「あ!ウィル!どう?可愛いでしょ?!」
「可愛いけど……どうしたんだ??それ??」
「メンズバレンタインデーだからギルがくれたの~♡ちなみに下のもすっごいの♡」

下……と言われて視線を向けるが、流石にそこはそれそのものではないようだ。
一応、ホットパンツを履いているのだが、まぁ、それはそれでエロい……。
ウィルはどう答えていいのかわからず困惑した。

「あれ?!何だ!ウィルももらったんだ!エロ下着!!」
「エロ下着?!」

包みを抱えている事を指摘され、ウィルはサークに視線を向ける。
サークはといえは真っ赤になって慌てふためいている。

「ち!違う!!そんな目で見ないで?!」
「……何が違うんだ?サーク……。」
「確かに下着だけど!!ベビードールじゃないから!!」
「え?!違うの?!なら何あげたの?主??」
「それはぁ~そのぉ~……。」

頬を赤らめえへへと笑うサーク。
ベビードールではないらしいが、そういうものだとウィルは直感した。
無言でサークの頬をつねり上げる。

「いひゃい!いひゃいよ!!」
「どういう事だ?サーク?」
「うんとね?メンズバレンタインデーって、好きな子に下着を送るんだって~。エッチなイベントだよねぇ~♡」
「いひゃい!!いひゃい!!」

そう。
メンズバレンタインデーというのは、男の方から好きな子に下着を送るイベントだ。
下心丸出しとしか言いようがない。

というか、いくら好きな子に気持ちを伝える為とはいえ、下着というのはハードルが高い。
恋人間なら許されるが……もしもそうでないなら……。

「……サーク。」

そこにギルがやってくる。
その手にはラッピングされた包み……。

周囲が騒然となる。

「サーク……受け取れ……。」

案の定、差し出される包み。
それにスンッと真顔になったサーク。

次の瞬間、鉄拳が飛んだ。


「気色悪いわ!!このど変態!!」


メンズバレンタインデー。
贈り物が贈り物だけに、一方通行の相手に送るのは控えた方が良いだろう……。







②セプテンバーバレンタインデー


「……どうしたんだ?その格好は?」

ギルはサークを見てそう言った。
サークは何故か紫色のスカーフをつけ、ムスッとした顔をしている。
そして無言で手紙を差し出してくる。
その指の爪は、何故か白いマニキュアが塗られていた。

よくわからぬまま手紙を受け取るギル。
開いてみると、これまた何故か緑色のインクで

『金輪際、つきまとうな。気持ち悪い事すんな。』

そう、書かれていた。
意味がわからないギルは不思議そうにサークを見る。

「セプテンバーバレンタインデー。」
「それは何だ?」
「ホワイトデーから半年後、嫌だった場合、相手に別れを告げる日らしいぞ。」

そう言われてギルは考え込む。
そしてぐりんとばかりにサークを見つめた。

「……と言う事は、この半年は、俺と付き合っていたということか?サーク?」

その言葉にギョッとする。
サーク的には相手を振る日だと認識し、とにかくアホな執着をいい加減やめてもらおうとしたに過ぎない。

「何でそうなる?!」
「ホワイトデーの半年後の返事として相手を振るというのなら、その間、付き合っていたという事だ……。」
「いや?!何で振られるのにそんなポジティブ思考な訳?!」
「そうか、すまないサーク。付き合っているとお前が思っていたとは知らなかったのだ……。」
「いや違うし?!付き合ってないし?!」
「ここからはお前を恋人としてきちんと認識して扱う……。だから、もう半年、俺にチャンスをくれないか?」
「いやだから!付き合ってないから!付きまとわれていただけで付き合ってないから!!」

長きに渡る迷惑行為に終止符を打とうとしたが、何故かつきまといを助長する結果になる。

サークは失念していた。

変態には何を言っても無駄なのだと言う事を……。
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