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第二章おまけ
初めてのお家デート(前編)
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「おじゃましま~す。」
「ああ。」
今日はウィルとお家デートである。
当たり前だが初デートである。
凄い、俺、ウィルとデートしてる。
自分が好きになった自覚がある相手とデートするのは生まれて初めてなので、正直、かなり浮足立ってる。
勢い余って付き合ってと言ったが、俺には「付き合う」知識がなかった。
いや「付き合わされた」事はそれなりにあるけどさ。
しかも今まで間近で見てきた恋愛は、リグと班長がメインだ。
リグは付き合うと言うよりもその場かぎりな感じだったし、班長に至っては既に結婚している。
全く参考にならん。
なので素直に、付き合ったら何をしたらいいかウィルに聞いたところ、少し不機嫌になって「何をしなければならないではなく、一緒に何がしたいかとか、相手にどこに行きたいか訪ねるものだ」と言われた。
ごめん、怒んないでよ。
だって俺、初恋だってしたばっかの恋愛初心者なんだよ~。
でもなるほど??
一緒に何をしたいかとか、どこに行きたいか、か……。
なので俺は即ウィルの家に行きたいと言った。
なにしろウィルはまだまだ謎の人だ。
なんとなく色々わかってはきたし、名前も教えてもらった。
でも、ミステリアスな人には変わりない。
とりあえずどんな感じで生活してるか知りたかった。
ウィルはいきなりか?とちょっとムッと言ったが、日にちを指定するだけで断らなかった。
家に帰ってから落ち着いて考えてみると、「うちに来ない?」ではなく「家に行きたい」とか、ちょっと失礼だったかもなぁと反省した。
とはいえ、そんなこんなでお家デートである。
ちなみに付き合い始めても、別宮でウィルが指定する時にチラッと会うだけで、休日にガッツリ会って長い時間を一緒に過ごすのは初めてだ。
そういう意味でもドキドキである。
どうぞと招かれて、ウィルの部屋に足を踏み入れる。
部屋はウィルらしいと言うかなんと言うか、物が少なく、スッキリし過ぎててガランとしている感じだ。
ウィルって……どういう生活してるんだ??
謎だ。
でもそんな中でも本は結構あった。
「何してるんだ?座ればいいだろ。」
キョロキョロしている俺にウィルが言った。
テーブルではなく、ウィルはベッドに座っている。
なので俺もウィルの横に、つまりベッドに座った。
それをチラッとウィルが見てぷいっと顔を背ける。
「……躊躇しないよな。知ってた。」
ウィルは少し不機嫌そう。
何でだろう?
ウィルがベッドに座ってたから横に座ったんだけど、距離感近すぎたかな??
不思議に思いながらも俺はそのまま、ごろんと横になった。
「おい?!何してるんだ?!」
「ん~?ゴロゴロしてる~。」
「…………あっそ。」
ウィルのベッドはどことなくウィルの匂いがした。
俺は手を伸ばし枕を掴む。
そんな俺をウィルは冷めた目で見下ろしていた。
「お前……まさか本当に寝る気じゃないよな?」
「ん~?寝ないけど、何で?」
「………もう、いい。」
そういってそっぽを向く。
今日のウィルは何でだかご機嫌斜めだ。
でも俺はウィルの生活空間にいる事が嬉しくて、パタパタ足を動かす。
「あ~この枕~。すげーウィルの匂いがする~。」
いい匂い。
ウィルの匂いは幸せだしなんか安心する。
モフっと枕に顔を埋めてその匂いに包まれていると、突然、バッと奪われる。
突然だったのでびっくりしたのと、ショックだった。
「え!何で?!待って!!返せよ!!」
「……やだ。」
俺の幸せが~!
というか、何で?!
他人に枕使われると嫌なタイプ?!
それともウィル、俺の事そんなに好きじゃない?!
混乱して慌てる俺をよそに、ウィルは自分の枕を抱き締めて真っ赤になっている。
……え??何??
どうしちゃったんだ??
「ウィル、どうした?変だぞ?」
「変なのはお前だ!サーク!」
ぎゅ~と枕に顔を埋めて、丸まったままウィルは動かなくなってしまった。
これって怒ってるの?
照れてるの?恥ずかしいの?
俺はウィルが何を考えてそうなってしまったのかわからず、どうしていいのか戸惑うばかりだ。
そんな俺に、ウィルは少し悲しそうな拗ねた口調で言った。
「……馬鹿みたいだ……。俺だけがどぎまぎしてて損した気分。平気でベッドに座るし、普通に寝っ転がるし……。……なのに枕に顔を埋めて嬉しそうに俺の匂いがするとか言うし……。恋人になって初めてのデートで、色々意識してるのは俺だけかよ……。」
俺は起き上がって、枕に顔を埋めてしまったウィルを見つめる。
なんか嬉しくて、ウィルの事も考えずにはしゃぎすぎてしまった。
俺はしゅんとした気持ちになった。
「……ごめん。ちょっと羽目外し過ぎた。」
「そういう意味じゃない。ただの自己嫌悪だから。」
「自己嫌悪??……って、どういうことだ?ウィル。」
「………………。」
ウィルは黙っている。
俺は悲しくなって反省した。
ウィルはクールに見えるけど、きっと俺と同じ様にデートを楽しみにしていてくれたんた。
でも俺が恋愛経験値ほぼゼロの初心者だから、気が使えなくて、ウィルをがったりさせてしまったのだ。
「……ウィル、ごめん。悪かったと思ってる。」
「何で謝るんだよ……。自己嫌悪って言ってるだろ?」
「だって、俺は恋愛感情がよく理解できてないから、ウィルの今の気持ちを察する能力もない。その上、ウィルがこうして欲しいって気持ちを話しやすくい状況にもできてないから……ウィルに辛そうな顔させてる……。だから謝ったんだ。」
「……うん。」
「考えてみたら俺ら、ほぼ売り手と客としてしか会ってなかったし。その時って商品の売り買いと……まぁ、ウィルとはちょっとエッチな事もしてて……。だから、普通に会ってみるとお互い、まだちょっとギクシャクしちゃうなって。」
「……うん、そうだな。」
「だから、ゆっくりお互いのズレを修正していければなって思うよ。話しにくいかも知れないけど、不満があったら俺はウィルに話して欲しい。俺、付き合うとか初めてだし、性欲ないし、性欲ないから恋愛感情すらよくわかってないし。だからウィルにとって不満な事が多いと思う。何でそんな事もわかんないんだって。でも俺、本当にわかんないんだ。だから、悪いんだけどその度に教えて欲しい。」
「……うん。」
俺が正直に自分の事を話すと、ウィルは顔を起こして、ぽすっと俺に寄りかかってきた。
クールなウィルが、頬を薄っすら染めてそんな事をしてくるものだから、俺はかなりドキドキした。
でもそんな俺には気づかず、ウィルはぼそっと話し始める。
「……俺もごめん。サークが性欲ないのもわかってた。ちゃんとわかってたけど……どこか期待があった……。ごめん。サークは告白の時、あんなにちんこ事情を確認してたのに、ごめん。勝手に期待して、サークにその気がないのに腹が立ったり、枕の匂い嗅がれてドキドキしてた。」
そう言われてはたと気づく。
なんの気なしにやってしまったが、俺は恋人の家に来て、ベッドに並んで座った訳だ……。
しかもその後、ウィルに構うでもなくゴロゴロ寝転んで、挙句、枕からウィルの匂いがするとほくほくしていた訳で……。
ヤバイ……。
いくら恋愛感覚が麻痺してるからって、これはヤバかった……。
ウィルが怒って追い出さないでくれた事に感謝するしかない。
申し訳なくてウィルの方を見る。
ウィルは、自分の枕を抱きしめながら、真っ赤になっていた。
「……今もドキドキしてるのか?」
「今は違う意味でドキドキしてる。」
「違う意味?」
違う意味……何だろう??
この短い間に何があった?!
俺は今度はウィルの気持ちを汲み取ろうと、一生懸命考える。
そんな俺を、ウィルは枕に顔を半分押し付けたまま見つめる。
「……サークが格好よすぎて、ドキドキしてる。」
そう言われ、俺は固まった。
かっこいい?!俺が?!
むしろ今、カッコ悪さを晒しまくってると思うんだけど?!
「ええ!?どの辺が!?」
訳がわからず、思わず叫ぶ。
ウィルはそれをふふふっと笑った。
「格好いいよ。俺は勝手にサークがわかってくれないって怒ってたのに、サークはちゃんと俺が何が嫌なのか話を聞こうとしてくれて……。凄い嬉しかった。」
「……いやだって、俺、本当にわからないから。恥ずかしいけど、俺、恋愛感情がまだよくわからなすぎて、それでウィルを傷つけるのは本当に悲しいし……もう別れたいとか言われたら、俺、立ち直れない……。」
言いながら俺は凹んでしまった。
だってどう考えても愛想を尽かされて別れられても文句が言えないのだ。
でもそんなのは嫌だ。
俺は別れたくないと思っていた。
それは俺にとって不思議な感覚だった。
きっとこれが、恋愛として相手を好きだと言う気持ちの一つの側面なのだろう。
落ち込む俺をウィルがくすくす笑う。
「言わないよ。馬鹿だな……。」
そう言ってウィルの手が俺を撫でてくれる。
それが温かくて嬉しくて甘えたくなった。
でも甘えたらウィルに嫌われてしまうかもしれない。
そう思うと怖かった。
「……正直、俺はもっと慎重に仲を深めるつもりだったんだ。まずは仲良くなって、商売じゃなくて普通に会える関係になって……って。でもあの日、ウィルの涙とか嬉しそうな顔とかみたら……なんかこう……衝動を押さえられなくて……。それで思わず告白しちゃって……。」
「ははは!勢いだったんだ?!あれ?!」
「当たり前だろ!まだ恋愛のレの字も理解してないんだぞ?!付き合うとか、俺には早いだろって思って!!」
必死になる俺をウィルはゲラゲラ笑った。
うぅ、そんなに笑わなくてもいいのに……。
ウィルは生まれつき性欲も恋愛感情もあるから、何言ってんだコイツって思うかもしれないけどさ~。
俺には結構、大きな事なんだからな?!
でも笑いが一段落すると、ウィルはまっすぐ俺を見つめて微笑んだ。
「俺は嫌だな、今更、友達から始めようなんて……。俺はずっと、早くサークに振り向いて欲しかったから、あの告白はなしにしないで欲しい。」
そう言うと、俺の肩にウィルは甘えるように頭を擦り付けてくる。
ナニコレ、可愛い……。
こうして甘えてこられるというのも新鮮で、俺はウィルの肩に腕を回して頭を撫でた。
それにウィルが幸せそうに目を細めた。
それを見つめ、俺は自分の中が満たされていくのを感じる。
きっと俺も凄く幸せでいっぱいなんだと思った。
「……サーク、キスしたい。」
そんな甘えた可愛い恋人が、下から俺の顔を覗き込んでくる。
う~ん、凄くエッチな顔してる……。
「……キスする前に確認だけど、ウィル、今、欲情してるよね?」
「してる……。でも我慢できるから大丈夫。」
なんとも言えない悩ましい顔でそう言って甘えるウィル。
俺はちょっと考えてから答えた。
「何で我慢するんだ?」
「だって……。」
ウィルは困ったように言葉を濁した。
言いたい事は何となくわかる。
ウィルは俺に性欲が無い事を気遣ってくれているんだ。
でも、恋人として付き合う事が、綺麗な上辺だけの話じゃない事ぐらい、性欲研究をしてるんだしわかってる。
「ウィル?」
「………………。」
「ウィル、聞いて?……そりゃ俺は性欲ないし、勃たないから突っ込んでウィルを満足させられないけど、俺にも色々できる事はあると思ってるよ?」
「サーク……。」
「ただ申し訳ないけど、さっきみたいにウィルが期待しててもその感覚がない俺にはすぐにはわからないから、今のキスみたいに教えて欲しい。ウィルがして欲しい事やウィルの気持ちを。俺、ちゃんと答えるから……。」
ウィルの目を見つめ、俺はそう伝えた。
普通の人だったら何でもないことなのだろう。
そういう雰囲気になって、そういう事をする。
でも俺はわからない。
わかりたくて性欲研究とかしてたけど、データと現実は違う。
実際、その場面になっても俺は気づけない。
だからウィルにおしえてくれるよう頼んだ。
俺の言葉に、ウィルはふわっと微笑んでくれた。
「サーク……。」
「なに?」
「……したい。凄くしたい。」
「うん。」
「サークと、いやらしい事、したい……。」
「……うん。」
「だからまず、キスして?」
ウィルは凄く欲情的で艶かしく、それがとても綺麗だった。
俺はそういうウィルの美しさが好きだった。
何かそれまでの自分にない感覚が、強くその美しさに引き寄せられる。
何かたまらない気持ちになる。
そして俺は、無意識にその衝動に従う。
「……喜んで。」
そう言うと俺は、グイッとウィルを抱き締め顔を寄せた。
(エロターンに続く)
「ああ。」
今日はウィルとお家デートである。
当たり前だが初デートである。
凄い、俺、ウィルとデートしてる。
自分が好きになった自覚がある相手とデートするのは生まれて初めてなので、正直、かなり浮足立ってる。
勢い余って付き合ってと言ったが、俺には「付き合う」知識がなかった。
いや「付き合わされた」事はそれなりにあるけどさ。
しかも今まで間近で見てきた恋愛は、リグと班長がメインだ。
リグは付き合うと言うよりもその場かぎりな感じだったし、班長に至っては既に結婚している。
全く参考にならん。
なので素直に、付き合ったら何をしたらいいかウィルに聞いたところ、少し不機嫌になって「何をしなければならないではなく、一緒に何がしたいかとか、相手にどこに行きたいか訪ねるものだ」と言われた。
ごめん、怒んないでよ。
だって俺、初恋だってしたばっかの恋愛初心者なんだよ~。
でもなるほど??
一緒に何をしたいかとか、どこに行きたいか、か……。
なので俺は即ウィルの家に行きたいと言った。
なにしろウィルはまだまだ謎の人だ。
なんとなく色々わかってはきたし、名前も教えてもらった。
でも、ミステリアスな人には変わりない。
とりあえずどんな感じで生活してるか知りたかった。
ウィルはいきなりか?とちょっとムッと言ったが、日にちを指定するだけで断らなかった。
家に帰ってから落ち着いて考えてみると、「うちに来ない?」ではなく「家に行きたい」とか、ちょっと失礼だったかもなぁと反省した。
とはいえ、そんなこんなでお家デートである。
ちなみに付き合い始めても、別宮でウィルが指定する時にチラッと会うだけで、休日にガッツリ会って長い時間を一緒に過ごすのは初めてだ。
そういう意味でもドキドキである。
どうぞと招かれて、ウィルの部屋に足を踏み入れる。
部屋はウィルらしいと言うかなんと言うか、物が少なく、スッキリし過ぎててガランとしている感じだ。
ウィルって……どういう生活してるんだ??
謎だ。
でもそんな中でも本は結構あった。
「何してるんだ?座ればいいだろ。」
キョロキョロしている俺にウィルが言った。
テーブルではなく、ウィルはベッドに座っている。
なので俺もウィルの横に、つまりベッドに座った。
それをチラッとウィルが見てぷいっと顔を背ける。
「……躊躇しないよな。知ってた。」
ウィルは少し不機嫌そう。
何でだろう?
ウィルがベッドに座ってたから横に座ったんだけど、距離感近すぎたかな??
不思議に思いながらも俺はそのまま、ごろんと横になった。
「おい?!何してるんだ?!」
「ん~?ゴロゴロしてる~。」
「…………あっそ。」
ウィルのベッドはどことなくウィルの匂いがした。
俺は手を伸ばし枕を掴む。
そんな俺をウィルは冷めた目で見下ろしていた。
「お前……まさか本当に寝る気じゃないよな?」
「ん~?寝ないけど、何で?」
「………もう、いい。」
そういってそっぽを向く。
今日のウィルは何でだかご機嫌斜めだ。
でも俺はウィルの生活空間にいる事が嬉しくて、パタパタ足を動かす。
「あ~この枕~。すげーウィルの匂いがする~。」
いい匂い。
ウィルの匂いは幸せだしなんか安心する。
モフっと枕に顔を埋めてその匂いに包まれていると、突然、バッと奪われる。
突然だったのでびっくりしたのと、ショックだった。
「え!何で?!待って!!返せよ!!」
「……やだ。」
俺の幸せが~!
というか、何で?!
他人に枕使われると嫌なタイプ?!
それともウィル、俺の事そんなに好きじゃない?!
混乱して慌てる俺をよそに、ウィルは自分の枕を抱き締めて真っ赤になっている。
……え??何??
どうしちゃったんだ??
「ウィル、どうした?変だぞ?」
「変なのはお前だ!サーク!」
ぎゅ~と枕に顔を埋めて、丸まったままウィルは動かなくなってしまった。
これって怒ってるの?
照れてるの?恥ずかしいの?
俺はウィルが何を考えてそうなってしまったのかわからず、どうしていいのか戸惑うばかりだ。
そんな俺に、ウィルは少し悲しそうな拗ねた口調で言った。
「……馬鹿みたいだ……。俺だけがどぎまぎしてて損した気分。平気でベッドに座るし、普通に寝っ転がるし……。……なのに枕に顔を埋めて嬉しそうに俺の匂いがするとか言うし……。恋人になって初めてのデートで、色々意識してるのは俺だけかよ……。」
俺は起き上がって、枕に顔を埋めてしまったウィルを見つめる。
なんか嬉しくて、ウィルの事も考えずにはしゃぎすぎてしまった。
俺はしゅんとした気持ちになった。
「……ごめん。ちょっと羽目外し過ぎた。」
「そういう意味じゃない。ただの自己嫌悪だから。」
「自己嫌悪??……って、どういうことだ?ウィル。」
「………………。」
ウィルは黙っている。
俺は悲しくなって反省した。
ウィルはクールに見えるけど、きっと俺と同じ様にデートを楽しみにしていてくれたんた。
でも俺が恋愛経験値ほぼゼロの初心者だから、気が使えなくて、ウィルをがったりさせてしまったのだ。
「……ウィル、ごめん。悪かったと思ってる。」
「何で謝るんだよ……。自己嫌悪って言ってるだろ?」
「だって、俺は恋愛感情がよく理解できてないから、ウィルの今の気持ちを察する能力もない。その上、ウィルがこうして欲しいって気持ちを話しやすくい状況にもできてないから……ウィルに辛そうな顔させてる……。だから謝ったんだ。」
「……うん。」
「考えてみたら俺ら、ほぼ売り手と客としてしか会ってなかったし。その時って商品の売り買いと……まぁ、ウィルとはちょっとエッチな事もしてて……。だから、普通に会ってみるとお互い、まだちょっとギクシャクしちゃうなって。」
「……うん、そうだな。」
「だから、ゆっくりお互いのズレを修正していければなって思うよ。話しにくいかも知れないけど、不満があったら俺はウィルに話して欲しい。俺、付き合うとか初めてだし、性欲ないし、性欲ないから恋愛感情すらよくわかってないし。だからウィルにとって不満な事が多いと思う。何でそんな事もわかんないんだって。でも俺、本当にわかんないんだ。だから、悪いんだけどその度に教えて欲しい。」
「……うん。」
俺が正直に自分の事を話すと、ウィルは顔を起こして、ぽすっと俺に寄りかかってきた。
クールなウィルが、頬を薄っすら染めてそんな事をしてくるものだから、俺はかなりドキドキした。
でもそんな俺には気づかず、ウィルはぼそっと話し始める。
「……俺もごめん。サークが性欲ないのもわかってた。ちゃんとわかってたけど……どこか期待があった……。ごめん。サークは告白の時、あんなにちんこ事情を確認してたのに、ごめん。勝手に期待して、サークにその気がないのに腹が立ったり、枕の匂い嗅がれてドキドキしてた。」
そう言われてはたと気づく。
なんの気なしにやってしまったが、俺は恋人の家に来て、ベッドに並んで座った訳だ……。
しかもその後、ウィルに構うでもなくゴロゴロ寝転んで、挙句、枕からウィルの匂いがするとほくほくしていた訳で……。
ヤバイ……。
いくら恋愛感覚が麻痺してるからって、これはヤバかった……。
ウィルが怒って追い出さないでくれた事に感謝するしかない。
申し訳なくてウィルの方を見る。
ウィルは、自分の枕を抱きしめながら、真っ赤になっていた。
「……今もドキドキしてるのか?」
「今は違う意味でドキドキしてる。」
「違う意味?」
違う意味……何だろう??
この短い間に何があった?!
俺は今度はウィルの気持ちを汲み取ろうと、一生懸命考える。
そんな俺を、ウィルは枕に顔を半分押し付けたまま見つめる。
「……サークが格好よすぎて、ドキドキしてる。」
そう言われ、俺は固まった。
かっこいい?!俺が?!
むしろ今、カッコ悪さを晒しまくってると思うんだけど?!
「ええ!?どの辺が!?」
訳がわからず、思わず叫ぶ。
ウィルはそれをふふふっと笑った。
「格好いいよ。俺は勝手にサークがわかってくれないって怒ってたのに、サークはちゃんと俺が何が嫌なのか話を聞こうとしてくれて……。凄い嬉しかった。」
「……いやだって、俺、本当にわからないから。恥ずかしいけど、俺、恋愛感情がまだよくわからなすぎて、それでウィルを傷つけるのは本当に悲しいし……もう別れたいとか言われたら、俺、立ち直れない……。」
言いながら俺は凹んでしまった。
だってどう考えても愛想を尽かされて別れられても文句が言えないのだ。
でもそんなのは嫌だ。
俺は別れたくないと思っていた。
それは俺にとって不思議な感覚だった。
きっとこれが、恋愛として相手を好きだと言う気持ちの一つの側面なのだろう。
落ち込む俺をウィルがくすくす笑う。
「言わないよ。馬鹿だな……。」
そう言ってウィルの手が俺を撫でてくれる。
それが温かくて嬉しくて甘えたくなった。
でも甘えたらウィルに嫌われてしまうかもしれない。
そう思うと怖かった。
「……正直、俺はもっと慎重に仲を深めるつもりだったんだ。まずは仲良くなって、商売じゃなくて普通に会える関係になって……って。でもあの日、ウィルの涙とか嬉しそうな顔とかみたら……なんかこう……衝動を押さえられなくて……。それで思わず告白しちゃって……。」
「ははは!勢いだったんだ?!あれ?!」
「当たり前だろ!まだ恋愛のレの字も理解してないんだぞ?!付き合うとか、俺には早いだろって思って!!」
必死になる俺をウィルはゲラゲラ笑った。
うぅ、そんなに笑わなくてもいいのに……。
ウィルは生まれつき性欲も恋愛感情もあるから、何言ってんだコイツって思うかもしれないけどさ~。
俺には結構、大きな事なんだからな?!
でも笑いが一段落すると、ウィルはまっすぐ俺を見つめて微笑んだ。
「俺は嫌だな、今更、友達から始めようなんて……。俺はずっと、早くサークに振り向いて欲しかったから、あの告白はなしにしないで欲しい。」
そう言うと、俺の肩にウィルは甘えるように頭を擦り付けてくる。
ナニコレ、可愛い……。
こうして甘えてこられるというのも新鮮で、俺はウィルの肩に腕を回して頭を撫でた。
それにウィルが幸せそうに目を細めた。
それを見つめ、俺は自分の中が満たされていくのを感じる。
きっと俺も凄く幸せでいっぱいなんだと思った。
「……サーク、キスしたい。」
そんな甘えた可愛い恋人が、下から俺の顔を覗き込んでくる。
う~ん、凄くエッチな顔してる……。
「……キスする前に確認だけど、ウィル、今、欲情してるよね?」
「してる……。でも我慢できるから大丈夫。」
なんとも言えない悩ましい顔でそう言って甘えるウィル。
俺はちょっと考えてから答えた。
「何で我慢するんだ?」
「だって……。」
ウィルは困ったように言葉を濁した。
言いたい事は何となくわかる。
ウィルは俺に性欲が無い事を気遣ってくれているんだ。
でも、恋人として付き合う事が、綺麗な上辺だけの話じゃない事ぐらい、性欲研究をしてるんだしわかってる。
「ウィル?」
「………………。」
「ウィル、聞いて?……そりゃ俺は性欲ないし、勃たないから突っ込んでウィルを満足させられないけど、俺にも色々できる事はあると思ってるよ?」
「サーク……。」
「ただ申し訳ないけど、さっきみたいにウィルが期待しててもその感覚がない俺にはすぐにはわからないから、今のキスみたいに教えて欲しい。ウィルがして欲しい事やウィルの気持ちを。俺、ちゃんと答えるから……。」
ウィルの目を見つめ、俺はそう伝えた。
普通の人だったら何でもないことなのだろう。
そういう雰囲気になって、そういう事をする。
でも俺はわからない。
わかりたくて性欲研究とかしてたけど、データと現実は違う。
実際、その場面になっても俺は気づけない。
だからウィルにおしえてくれるよう頼んだ。
俺の言葉に、ウィルはふわっと微笑んでくれた。
「サーク……。」
「なに?」
「……したい。凄くしたい。」
「うん。」
「サークと、いやらしい事、したい……。」
「……うん。」
「だからまず、キスして?」
ウィルは凄く欲情的で艶かしく、それがとても綺麗だった。
俺はそういうウィルの美しさが好きだった。
何かそれまでの自分にない感覚が、強くその美しさに引き寄せられる。
何かたまらない気持ちになる。
そして俺は、無意識にその衝動に従う。
「……喜んで。」
そう言うと俺は、グイッとウィルを抱き締め顔を寄せた。
(エロターンに続く)
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