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第一章「外壁警備編」おまけ

遅い思春期の息子達とお父さん

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リグはサークの事が好きだ。


俺は本人より先にその事に気づいてしまった。
本人が無自覚なのだから、どうこうする事もないが、サークの身の回りが変化している中、それは小さな懸念を俺に抱かせた。

とはいえ、馬に蹴られてなんとやら。
部外者の俺がどうしたって仕方ない。



はじめは、叫びながら取り乱すリグを見て、少しの違和感を覚えた。

あの日の戦闘。

俺が戻った時、リグは瀕死のサークの手を握って必死に呼び掛けてた。
俺も慌てて、挫いた足で駆け寄った。
リグは、俺が来たことに気づかなかった。
ただもう、見ていられないほどハラハラと涙を流して、強くサークの手を握っていた。
だから俺は、てっきりサークは死んだんだと思った。

「ザクス!サークを診療所に運びたいから、リグを引き離してくれ!!」

驚いた。
しかしそう言われて、急いでリグの肩を掴んだ。

「リグ!!」

「班長!!サークさんが!!」

「しっかりしろ!サークは死んでない!!」

「でも目覚めないんです!!」

「そんな直ぐに目は覚まさん!!診療所に運ぶから離れろ!!」

俺は無理矢理、リグの手をサークから剥がした。

「嫌です!!一緒にいる!!」

「落ち着け!!」

暴れて手がつけられず、仕方なく、リグを気絶させた。
仲間の瀕死を初めて見て、取り乱したのか?
様子のおかしいリグに違和感を感じた。
人の死に、何かトラウマがあるのかもしれない。

だが、診療所に行ってから、ひょっとするのか?と思い始めた。

診療所で、第三王子が回復薬を使ったので、怪我自体は治っていること。
ただ、どうしてだか目覚めないこと。
ないとは思うが、今後の経過によっては、目覚めないこともあり得ること。
それを聞いて、リグはまた取り乱した。
子供のように泣いて、サークの側を離れない。
どうにかこうにか泣き止ませても、家に帰らず、サークについていた。

泣き晴らした顔で、サークの手を握りながら、同じベッドに突っ伏して寝ているのを見て、そうなのかな?と思った。

それが恋愛感情か、ただ兄を慕う弟のようなものなのかはわからなかった。




恋愛的な方だと思ったのは、サークが目覚めてからだ。

サークが恋をした。

いや、恋かどうかはわからないが、性的欲求がないためか、誰か個人に特別な感情を持ったことのないサークが、初めて人を特別に意識した。
しかし、その生まれたばかりの不確かな感情を、リグは「推し」というものだとサークに強く訴えていた。
推しはわからないが、そんなに直ぐに恋ではないと否定するのもな、と思った。

サークを応援しているようで、恋は認めさせない矛盾。


あ、こいつ、無自覚だ。
無自覚に拗らせてる。


元々、リグは軽い。
そう言う気になったら、思うがままやって来た。
だが、好き勝手が通用しない相手が現れた。
それは、サークが仕事上の先輩だったからなのか、性的欲求がない特殊な体質だったからなのか、はたまた両方か。

とにかく、少しでも思い立ったら実行していたリグにとって、実行しづらい相手であり、例え実行しても無反応という、未知の存在だったのだろう。
まぁ、俺に対してもリグはそう言った事は微塵もなかったので、仕事とプライベートは分けていたのかもしれない。

それでも、どんな状況だって本当に誰かを好きになるときは理屈なんて通用しない。
人を好きになるなんて、事故みたいなものだ。
リグはその事故に遭いながら、気づけないし、気づかないと言う状況なのだろう。

だからといって、俺にどうこうする権利もなければ、するつもりもない。
ただ、もしも二人の間に変化が起きたら、受け入れてやろうと思っていた。




しかし、時とは無情なものだ。

サークに好きな人ができて、段々とそれが不愉快になってきたリグを見て、そのうち自覚するかなと見守っていた矢先、サークの異動と言う事態に陥った。

待て待て待て。

今、物凄い、この二人、微妙なんですけど!?
サークは初めての感覚におかしくなってるし、リグはどうして自分が不機嫌なのか、もて余してる。

今、波風たてるなよ!!

案の定、リグは大暴走。
かといって、俺に異動をどうにかする力はない。

追いかけて見つけたリグは、外壁沿いに積まれた木箱の影で泣いていた。

「…生きてるのが辛い。」

「いきなり重いな!?お前!?」

俺に気付いたリグの発した第一声は、予想だにしない言葉だった。

「なんかもうやだ。」

「何が嫌なんだよ?」

「サークさんといると、意味もなくイライラするし。何でイライラするかわかんないし、先輩がそれ見て困ってるのも申し訳ないし、でもイライラするし。」

「うん。」

「サークさんと一緒にいたいけど、サークさんいつも執事さんのこと考えてばっかりだし、前みたいに、一緒にいて楽しくないし、なんか全部やだ。」

「うん。」

「なのに!異動でどこか行っちゃうなんてもっとやだ!!何で!?何で先輩を連れてっちゃうの!?やだよ!!俺はここで先輩と一緒にいたい!!他の人なんかやだ!!サークさんじゃなきゃ嫌だ!!」

あ~これはさすがに気付いたかな~と思った。
俺に愚痴りながらリグの顔つきが変わったのがわかった。
自分を理解してリグは押し黙った。
それが叶えるには難しいことも理解したようだった。
俺はため息をついて、リグの頭を撫でた。

「…笑って見送ってやろう?」

「無理。」

「じゃあ、玉砕覚悟で伝えるか?」

「もっと無理。」

「なら、世界一可愛い後輩として、あいつの心に自分を残せよ。それなら出来るだろ?」

「……………。」

「今日はもう帰れ。明日、留守番頼むな。」




神様は意地悪だ。

こんなに身近な俺の可愛い後輩二人を、こんな形でお別れさせるとか、あり得ないだろ?

でも、これもまた、
時がたてば二人にとって、

かけがえのない思い出になるのだろうか?


年甲斐もなくそんなことを思った。
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