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一章

お風呂

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 ドアの先の脱衣所は正面の壁が丸々ぶち抜かれ、その先に風呂があった。故に湿度が高く、篭った空気は蒸されたように暑い。湯気が蔓延し、部屋の中は白いという程だ。
 薄木を編んだの籠が幾つか棚に置かれている。風呂と脱衣所に境はこれと言ってなく、景色の変化でしか風呂と脱衣所を区別することは叶わなかった。
 風呂は全面が木張りになっており、浴槽も、桶も木で出来ている、全てが茶色な世界だ。もっとも、大半の宿の風呂というのはそういう趣なのだが。言ってしまえば、日本においてそこらの旅館に備え付けてあるような温泉の風景と変わらないと言っていい。強いて差異があるとすれば、シャワーや鏡などの技術が伴わないものが置かれていないくらいだ。が、椅子はいくつかある。体を洗う時の為のものだ。
 ナーミアが事前に言っておいてくれた通り、誰もいない。これならばなんとか寛げそうだ。
 胸を支えるビキニタイプの布やら、ガーターベルトやらの諸々の服を外していき、裸になる。
 色々なものが露わになってしまうが、誰も見てない誰も見てない、と気分を誤魔化す。そんな事より今は風呂だ。
 桶を使って掛かり湯をし、湯船に浸かると、ほぅ、と息を吐く。暖かい。ローブを失ってからは常に冷風が肌を指していたので、急な温度差に痛さすら感じるが、久々のお風呂は中々心地いい。

「んん~~~っ!! 気持ちいいっ!」

 密閉された空間に俺の声が響く。結構高く、綺麗な声だ。自画自賛だけど。見た目こそ鏡にも映らないのでさっぱりだが、正直なんか、歌手とか職業であったらなれそうなくらいだ。

 長い髪が水面に広がる。胸が水に浮く。
 おお……新鮮な感覚だ。
 女の視点ってこうなのか。なんか照れ臭い。そこにあるべきものが無かったりするし。
 体を洗う用の石鹸と、体を拭くためのタオルが事前に渡されていたものだ。健康タオル的なものは無いが、多分手で洗えば問題ないだろう。
 桶に水を汲み、椅子に座って石鹸を濡らして泡立てる。石鹸は今も昔もあるんだなぁとしみじみ思いつつ、自らの柔肌に泡を纏わせた手を這わせ──そこで、声がかかった。

「あの……フィリアさん。ちょっといいですか……?」

 細い声が、脱衣所のドアの向こうから聞こえてくる。小さいし遠い。聞こえたのは吸血鬼故だろう。

「んー? 何だー!?」

 声を張り上げて返事をする。
 普通聞こえないような音を聞き取って返事をするのは不自然だろうか? まぁいいだろう。ナーミアだって、何か思うところがあって声が小さいのだろうに、だったらこっちが気を遣ってやりたい。

「……その、凄く……失礼というか、申し訳ないことを聞くんですけれど……」

 やはり小さく、そして何処か恥ずかしそうな声で、ナーミアは続けた。

「…………一緒にお風呂に入ってもいいですか……?」

 ──────はい?
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