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一章

一休み

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 部屋は高級の名を冠するだけあり中々の広さで和室の様な趣だったが、大木の中にあるからか壁や床は全部適切に処理を施された木で出来ていた。家具も殆どが木製で、目に優しい統一感がある。
 部屋に関しては、普通なら建材を組んだ物なのだろうが、此処の場合はつまり、壁や枠組みの形に木を削り部屋を作ったという事なのだろう、多分。
 当たり前だが電気なんて文明の利器は無いので、灯といえば壁に掛けられた松明くらい。それは部屋の中も此処に続くまでの廊下も同じで、木の宿で火を常時たき続けるとか正気かと思ったが、そういえばナーミアが神木は燃えないって言ってたっけ。
 別段娯楽になるようなものはこのご時世無いし、荷物も俺は持っていないので別段用意する事もない。
 俺は暇なので適当に床やベットなんかに靴を履いたまま寝転がったりして寛いでいた。

 仰向けになり、吸血鬼だからか時間が遅くなるにつれ冴えてくる目を無理矢理閉じながら少しでも寝ようとしながら時間を潰していると、コンコンとドアが叩かれた。
 別に鍵はかけていないので、大丈夫だよと声をかけてやると、心なしか仰々しくナーミアがドアを開けて部屋に入った。

「失礼します。そろそろお風呂が開きましたけれど、お入りになられますか?」
「ん、あぁ……じゃあお願いしようかな。何か用意しないといけないものとかある?」
「こっちで用意させていただいておりますから、大丈夫ですよ」

 心なしか、ちょっと敬語がいつもより仰々しい気がするが、多分宿のスタッフとして働いているからなのだろう。高校も行かずニートだった俺と比べたらえらい違いだ……とか、考えたら泣きそうになるのでやめておく。

「では、えっと……フロントで母から入浴に必要な諸々を受け取ってもらいまして、それから浴場に案内させていただきますね。僕に付いてきてください」

 恭しく会釈をして、ドアを開け放ち俺が出るのを待つナーミア。
 松明が照らしてこそいるが、仄暗い廊下を歩き、ナーミアとフロントに向かう。
 フロントで未だカウンターに立っているナーミアの母でもあるその女性に、風呂の用意とやらを頼むと細い目を更に細くして少し考えたような素振りをしつつ、悪戯を思いついた子供のように妖しく笑った。

「……あら、あらあら。わかりました、此方をどうぞ?」
「えっと……何か?」
「いえいえ、気にしなくても大丈夫ですわ。少し、楽しくなってしまっただけなので」

 ?
 首をかしげる俺に、ナーミアのお母さんはやはりくすくすと、楽しそうに笑っていた。
 何なんだ……?

 案内の元、俺は浴場に繋がるというドアの前に立った。

「じゃあ、僕は戻りますから。ごゆっくりどうぞ」

 丁寧にお辞儀をして、踵を返すナーミアの背中にお礼を言って、俺はドアの取っ手を下ろした。
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