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VRMMORPGにはロマンがある、と俺は思う。
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V RMMORPGにはロマンがある……と、俺は思う。
2022年。六年前くらいから提唱され続けた『VR元年』がとうとう訪れたと人々は歓喜に沸いた。
世界初のフルダイブ型VRMMORPGがアメリカから発売され、売り上げランキングを席巻。世界中で大ブームを巻き起こしたからだ。
だが第1作ということもあり、その完成度は多くの人の期待にそぐわないものであった。
ジャンルの先端を拓いただけでゲームとしては駄作──2026年現在、その作品をこのように評価する人間は多い。
何が悪かったのか。それは多くの人にとって、そのゲームのボリュームは物足りないものに収まってしまっていたのだ。
創作でありとあらゆるVRMMORPGを見てきた人々からすれば、あくまでゲームという枠に捕らわれたままのそれは、どこまでも窮屈でチープなものに見えたのだ。
『もっと自由を!!』『もっと自由を!!』
その熱気を合言葉に、そのゲームはリリースされる。
全てのゲームを過去にする、後にもう一つの現実とさえ謳われたそのゲームが──。
◇◆◇◆◇◆
その日は雨だった。
普通の人なら陰鬱な気分になるところなのだろうが、俺はスキップでもしだしそうなくらい上機嫌だった。いいゲーム日和だ。
片手に傘を差し、もう片方の手にはゲーム屋の袋を後生大事に持っている。
その中身は今日発売の新しいVRMMORPGタイトル、《Another Worlds》のディスクだった。
「へっへっへっ……」
独り不気味に笑いながら、帰り道を可能な限り速く駆けていく。
《Another Worlds》は、“自由度”を全てに優先させたゲームだという。
舞台は異世界で、ファンタジーからSFまで色々な世界を行き来できる。職業も多岐に渡り、装備を始めとしたアイテムなんてそれこそ全てを把握することは不可能だというほど沢山あるそうだ。
ステータスも殆ど自分で振り分けできるらしく、キャラメイクも自由自在。
まさしくその世界に生まれ落ち、決められたレールなんて一つもない自分のもう一つの人生を歩めるというのだ。
予約が始まったら真っ先に店頭に駆け込み、そして開店と同時に受け取って今に至る。
家に着くと二階に駆け込み、筺体にディスクをぶち込んでVRゴーグルを装着してベッドに横になる。
データダウンロードは前日に出来た為に直ぐに始められる事に小躍りする思いで、裏返った声で合言葉を口にする。
「『セッション:ダイブ』!!」
身体の感覚が消えていく。身体から発信される電気情報が、ゲーム機に取り込まれているのだ。
視覚情報が刹那のブラックアウトを迎え、光の奔流とともに、新しい世界が拓れる。
青色基調の世界。一般的なVRMMORPGの初期設定空間だ。
「ようこそ、《Another Worlds》の世界へ。新しい君、歓迎いたしますわ」
脳に響くような滑らかな音声とともに、空中に浮いていた俺の視点に仮の肉体が肉付けされていく。
「まずはワールドを選択していただきます。後に選択していただく職業、および種族に影響を及ぼしますので慎重に選択いただきますようにお願いいたします。ある程度ゲームを進めていただくと、別のワールドへの行き来等は可能になりますのでご安心ください」
事前に公開されていた通りの七つの世界。SFなど多岐にわたるが俺は迷わずファンタジー世界である《リクトア》を選択する。
「リクトアですね。承知いたしました。では貴方の職業を選択してください。初期段階で選択できる職業は全てで32。後にレベルアップ等の成長を通しまして、新しい職業を選択いただけますから後の事も考え、慎重にお決めください。転職の条件は今作では少し厳しくなっておりますので」
これもゲーム雑誌に発売に先んじてリークされていたので俺は迷わず《戦士》を選択する。なぜかと言えば、スタンダードながらこれが最も基礎ステータスの攻撃力値が高いからだ。あと、アビリティの強さに欠ける代わりにこのあと貰えるという“初期振り分け可能ステータスポイント”が他の職業より抜きん出て高いらしい。逆に、アビリティが強い《錬金術師》などはステータスポイントがそんなには貰えないという。
「戦士ですね。了解しました。ではキャラクタークリエイトに移っていただきます。VRMMORPGの経験はございますか?」
俺は黙って首肯する。
そんなにタイトル数自体多くないこともあって、俺はあらゆるVRMMORPGをプレイしてきた。こういう人はかなり多いと思う。
「ではキャラクタークリエイトの説明は必要なさそうですね。名前と種族だけは手動で選択ください。種族は勿論後に変更可能ですが、名前は変更不可能なのでご注意下さい。また、種族によるステータスの差異はございませんので、ご安心ください」
俺は種族は人間を選択し、名前は本名を少しだけもじって《ヨウム》としておく。大体のゲームで俺はこの名前だ。
「では、キャラクターの造形を作成します。気を楽にしてご想像ください」
俺は目を閉じ、電子のまぶたの裏にその姿を想像する。
髪は短い金がいい。瞳は翠。肌は、白すぎてもいけないが普段通り過ぎても没入感を失わせてしまうだろう。身長は175くらいが現実との差異がなくていい。ここと手足の長さばかりは現実との乖離があると体を動かす事に影響する。
そうして自分のキャラクターを想像のキャンバスに描いていくと、ある程度のところでピロンと軽い音が鳴った。
「キャラクター生成に成功しました。貴方にデータを移します」
その声とともに、俺の仮の肉体がみるみるうちに彩りを持ったファンタジーなそれに再構築されていく。
背中にズシリと重い感触。肩に手をやると持ち手に手が当たったのでどうやら初期装備の両手剣の重さらしい。
視界に入る髪は金色で、どうやらクリエイトは無事に成功したようだ。
「最後に、初期振り分け可能ステータスポイントを付与します。これはゲームが始まってからステータス画面でお好きなステータスに振り分けてください」
再びピロン、という音がして俺の体が淡い光に包まれる。
「では行ってらっしゃい。良きゲームライフを!」
周りの空間がみるみるうちに光に包まれ──。
◇◆◇◆◇◆
VRMMORPGにはロマンがある、と俺は思う。
そして、キャラクターメイキングにも一種のロマンと呼ばれるものがあるのをご存知だろうか?
俗に“ロマン砲”と呼ばれるビルド。
ただ必殺の一撃を当てる為に他の全てを投げ捨てたビルド。
つまり、攻撃力全振りだ。
俺はいままで幾度となくそのロマンを達成して見たかったが、どんなゲームでもステータスはあらかじめ決められた値から誤差の範囲でしか身動きができなかった。処理が面倒だったり、自分でつけたステータスに後から文句を言う輩が多いからだろう。
でも、もし出来たのならそれは──ロマン×ロマン。すなわちロマンの二乗でなんていうかもう最強なんじゃなかろうか?
と言うわけで俺は、まず視界が開けて中世風の街並みとHPゲージなどのUIが視界に飛び込むと同時。何よりも早くメニューからステータスを開いて与えられたステータスポイントを[物理攻撃力]に全振りした。攻撃力だけがやたらめったら高くなったステータスを見てほくそ笑む。
「ふぅ……」
何も後悔などない。清々しい気分だった。まだ何もしていないのに全てが終わったような、成し遂げたような気持ちだった。
まぁステータスだけで満足していたら意味がないので、取り敢えず街並みを眺めてみる。
如何にもファンタジーという感じの華々しい建物達。遠くに見えるあの尖塔は城の一部だろうか? それならこの街は城下町という事なのか。
最先端AIを搭載したNPCが頭上に灰色のアイコンを伴ってそこかしこに闊歩して、それとは別に様々な顔ぶれのPC達がキラキラした目で周りを見ている。おっかなびっくり歩いてみたりしているその様子は何処か怪しげで挙動不審だ。
「わかる……わかるぞ」
まぁそれも無理はない話──僕がやってきたどのVRMMOよりもこのゲームの街並みはリアルで綺麗だ。好奇心が否応にも刺激されてしまう。
或いは、VRMMO自体初めての人なのかもしれない。初めて《ダイブ》して、新たに広がる無限の可能性を目の当たりにした時……僕ももちろん例に漏れず、誰もが黙って息を呑んだ。
俺にもそういう想いは無いではなかったが、それよりもこのロマンに満ち溢れたステータスをまずは試したくてしょうがない。
何も強いんじゃないかなんて期待していない。他の人に比べたらHPや防御力も弱いだろう。だがそれでいい。だからこそ、攻撃にロマンが出るのだ。
俺は両手剣の持ち手に手を掛け、街の外へと駆け出した。
◇◆◇◆◇◆
門を出た街の外は草原フィールドに繋がっていて、風になびく背の低い草の上で、早くもモンスターとの戦闘に興じているプレイヤー達の姿があった。
ぶきっちょだが懸命に剣を振るい、魔法を放って敵をバタバタと倒していくその姿を見ていると、俺の興奮は最高潮に達した。
俺は抜刀すると、雄叫びと共にまだこちらにも気づいていない、半液体状の最弱ジェルモンスターであるスライムに向かって剣を振り下ろし──!!
「はぁぁぁぁぁ!!!」
振り下ろ、し…………。
「はぁぁぁぁ…………ぁ……??」
……俺の剣は、信じられない程ゆっっっっくりと、スライムに向けて振り下ろされていた。それを認識した俺はどうにかもっと速度をつけようと思うのだが、システムに制御されているのか力をどれだけ込めても全く加速せず等速のままで、進んではいるが遅すぎて全く当たる気配がない。
そんなことをしているうちに、スライムがこちらに気付いたらしい。某大作ゲームのそれのようにこれといって顔がないので確証はないが。
スライムの接地面がうぞうぞと蠢く。
攻撃を仕掛けてくる、と俺は察したが、攻撃モーションの途中なので避ける動きにすら酷く制限がかかる。
だが、問題ない。
所詮は雑魚モンスター。
いくら俺が初期装備で防御力も初期値とはいえ、スライムの攻撃くらいではビクともしないはずだ。
スライムの全身が跳ね上がる。かなりの勢いで俺の身体目掛け飛び込んできたそれを、俺は真っ向から受け止め。
YOU DEAD!
仰向けに倒れる身体。
そんな文字とともに、目の前が真っ赤に染まった。
俺の手からこぼれ落ちた剣が地面に跳ね返り、カランカランと乾いた音をたてていた──。
2022年。六年前くらいから提唱され続けた『VR元年』がとうとう訪れたと人々は歓喜に沸いた。
世界初のフルダイブ型VRMMORPGがアメリカから発売され、売り上げランキングを席巻。世界中で大ブームを巻き起こしたからだ。
だが第1作ということもあり、その完成度は多くの人の期待にそぐわないものであった。
ジャンルの先端を拓いただけでゲームとしては駄作──2026年現在、その作品をこのように評価する人間は多い。
何が悪かったのか。それは多くの人にとって、そのゲームのボリュームは物足りないものに収まってしまっていたのだ。
創作でありとあらゆるVRMMORPGを見てきた人々からすれば、あくまでゲームという枠に捕らわれたままのそれは、どこまでも窮屈でチープなものに見えたのだ。
『もっと自由を!!』『もっと自由を!!』
その熱気を合言葉に、そのゲームはリリースされる。
全てのゲームを過去にする、後にもう一つの現実とさえ謳われたそのゲームが──。
◇◆◇◆◇◆
その日は雨だった。
普通の人なら陰鬱な気分になるところなのだろうが、俺はスキップでもしだしそうなくらい上機嫌だった。いいゲーム日和だ。
片手に傘を差し、もう片方の手にはゲーム屋の袋を後生大事に持っている。
その中身は今日発売の新しいVRMMORPGタイトル、《Another Worlds》のディスクだった。
「へっへっへっ……」
独り不気味に笑いながら、帰り道を可能な限り速く駆けていく。
《Another Worlds》は、“自由度”を全てに優先させたゲームだという。
舞台は異世界で、ファンタジーからSFまで色々な世界を行き来できる。職業も多岐に渡り、装備を始めとしたアイテムなんてそれこそ全てを把握することは不可能だというほど沢山あるそうだ。
ステータスも殆ど自分で振り分けできるらしく、キャラメイクも自由自在。
まさしくその世界に生まれ落ち、決められたレールなんて一つもない自分のもう一つの人生を歩めるというのだ。
予約が始まったら真っ先に店頭に駆け込み、そして開店と同時に受け取って今に至る。
家に着くと二階に駆け込み、筺体にディスクをぶち込んでVRゴーグルを装着してベッドに横になる。
データダウンロードは前日に出来た為に直ぐに始められる事に小躍りする思いで、裏返った声で合言葉を口にする。
「『セッション:ダイブ』!!」
身体の感覚が消えていく。身体から発信される電気情報が、ゲーム機に取り込まれているのだ。
視覚情報が刹那のブラックアウトを迎え、光の奔流とともに、新しい世界が拓れる。
青色基調の世界。一般的なVRMMORPGの初期設定空間だ。
「ようこそ、《Another Worlds》の世界へ。新しい君、歓迎いたしますわ」
脳に響くような滑らかな音声とともに、空中に浮いていた俺の視点に仮の肉体が肉付けされていく。
「まずはワールドを選択していただきます。後に選択していただく職業、および種族に影響を及ぼしますので慎重に選択いただきますようにお願いいたします。ある程度ゲームを進めていただくと、別のワールドへの行き来等は可能になりますのでご安心ください」
事前に公開されていた通りの七つの世界。SFなど多岐にわたるが俺は迷わずファンタジー世界である《リクトア》を選択する。
「リクトアですね。承知いたしました。では貴方の職業を選択してください。初期段階で選択できる職業は全てで32。後にレベルアップ等の成長を通しまして、新しい職業を選択いただけますから後の事も考え、慎重にお決めください。転職の条件は今作では少し厳しくなっておりますので」
これもゲーム雑誌に発売に先んじてリークされていたので俺は迷わず《戦士》を選択する。なぜかと言えば、スタンダードながらこれが最も基礎ステータスの攻撃力値が高いからだ。あと、アビリティの強さに欠ける代わりにこのあと貰えるという“初期振り分け可能ステータスポイント”が他の職業より抜きん出て高いらしい。逆に、アビリティが強い《錬金術師》などはステータスポイントがそんなには貰えないという。
「戦士ですね。了解しました。ではキャラクタークリエイトに移っていただきます。VRMMORPGの経験はございますか?」
俺は黙って首肯する。
そんなにタイトル数自体多くないこともあって、俺はあらゆるVRMMORPGをプレイしてきた。こういう人はかなり多いと思う。
「ではキャラクタークリエイトの説明は必要なさそうですね。名前と種族だけは手動で選択ください。種族は勿論後に変更可能ですが、名前は変更不可能なのでご注意下さい。また、種族によるステータスの差異はございませんので、ご安心ください」
俺は種族は人間を選択し、名前は本名を少しだけもじって《ヨウム》としておく。大体のゲームで俺はこの名前だ。
「では、キャラクターの造形を作成します。気を楽にしてご想像ください」
俺は目を閉じ、電子のまぶたの裏にその姿を想像する。
髪は短い金がいい。瞳は翠。肌は、白すぎてもいけないが普段通り過ぎても没入感を失わせてしまうだろう。身長は175くらいが現実との差異がなくていい。ここと手足の長さばかりは現実との乖離があると体を動かす事に影響する。
そうして自分のキャラクターを想像のキャンバスに描いていくと、ある程度のところでピロンと軽い音が鳴った。
「キャラクター生成に成功しました。貴方にデータを移します」
その声とともに、俺の仮の肉体がみるみるうちに彩りを持ったファンタジーなそれに再構築されていく。
背中にズシリと重い感触。肩に手をやると持ち手に手が当たったのでどうやら初期装備の両手剣の重さらしい。
視界に入る髪は金色で、どうやらクリエイトは無事に成功したようだ。
「最後に、初期振り分け可能ステータスポイントを付与します。これはゲームが始まってからステータス画面でお好きなステータスに振り分けてください」
再びピロン、という音がして俺の体が淡い光に包まれる。
「では行ってらっしゃい。良きゲームライフを!」
周りの空間がみるみるうちに光に包まれ──。
◇◆◇◆◇◆
VRMMORPGにはロマンがある、と俺は思う。
そして、キャラクターメイキングにも一種のロマンと呼ばれるものがあるのをご存知だろうか?
俗に“ロマン砲”と呼ばれるビルド。
ただ必殺の一撃を当てる為に他の全てを投げ捨てたビルド。
つまり、攻撃力全振りだ。
俺はいままで幾度となくそのロマンを達成して見たかったが、どんなゲームでもステータスはあらかじめ決められた値から誤差の範囲でしか身動きができなかった。処理が面倒だったり、自分でつけたステータスに後から文句を言う輩が多いからだろう。
でも、もし出来たのならそれは──ロマン×ロマン。すなわちロマンの二乗でなんていうかもう最強なんじゃなかろうか?
と言うわけで俺は、まず視界が開けて中世風の街並みとHPゲージなどのUIが視界に飛び込むと同時。何よりも早くメニューからステータスを開いて与えられたステータスポイントを[物理攻撃力]に全振りした。攻撃力だけがやたらめったら高くなったステータスを見てほくそ笑む。
「ふぅ……」
何も後悔などない。清々しい気分だった。まだ何もしていないのに全てが終わったような、成し遂げたような気持ちだった。
まぁステータスだけで満足していたら意味がないので、取り敢えず街並みを眺めてみる。
如何にもファンタジーという感じの華々しい建物達。遠くに見えるあの尖塔は城の一部だろうか? それならこの街は城下町という事なのか。
最先端AIを搭載したNPCが頭上に灰色のアイコンを伴ってそこかしこに闊歩して、それとは別に様々な顔ぶれのPC達がキラキラした目で周りを見ている。おっかなびっくり歩いてみたりしているその様子は何処か怪しげで挙動不審だ。
「わかる……わかるぞ」
まぁそれも無理はない話──僕がやってきたどのVRMMOよりもこのゲームの街並みはリアルで綺麗だ。好奇心が否応にも刺激されてしまう。
或いは、VRMMO自体初めての人なのかもしれない。初めて《ダイブ》して、新たに広がる無限の可能性を目の当たりにした時……僕ももちろん例に漏れず、誰もが黙って息を呑んだ。
俺にもそういう想いは無いではなかったが、それよりもこのロマンに満ち溢れたステータスをまずは試したくてしょうがない。
何も強いんじゃないかなんて期待していない。他の人に比べたらHPや防御力も弱いだろう。だがそれでいい。だからこそ、攻撃にロマンが出るのだ。
俺は両手剣の持ち手に手を掛け、街の外へと駆け出した。
◇◆◇◆◇◆
門を出た街の外は草原フィールドに繋がっていて、風になびく背の低い草の上で、早くもモンスターとの戦闘に興じているプレイヤー達の姿があった。
ぶきっちょだが懸命に剣を振るい、魔法を放って敵をバタバタと倒していくその姿を見ていると、俺の興奮は最高潮に達した。
俺は抜刀すると、雄叫びと共にまだこちらにも気づいていない、半液体状の最弱ジェルモンスターであるスライムに向かって剣を振り下ろし──!!
「はぁぁぁぁぁ!!!」
振り下ろ、し…………。
「はぁぁぁぁ…………ぁ……??」
……俺の剣は、信じられない程ゆっっっっくりと、スライムに向けて振り下ろされていた。それを認識した俺はどうにかもっと速度をつけようと思うのだが、システムに制御されているのか力をどれだけ込めても全く加速せず等速のままで、進んではいるが遅すぎて全く当たる気配がない。
そんなことをしているうちに、スライムがこちらに気付いたらしい。某大作ゲームのそれのようにこれといって顔がないので確証はないが。
スライムの接地面がうぞうぞと蠢く。
攻撃を仕掛けてくる、と俺は察したが、攻撃モーションの途中なので避ける動きにすら酷く制限がかかる。
だが、問題ない。
所詮は雑魚モンスター。
いくら俺が初期装備で防御力も初期値とはいえ、スライムの攻撃くらいではビクともしないはずだ。
スライムの全身が跳ね上がる。かなりの勢いで俺の身体目掛け飛び込んできたそれを、俺は真っ向から受け止め。
YOU DEAD!
仰向けに倒れる身体。
そんな文字とともに、目の前が真っ赤に染まった。
俺の手からこぼれ落ちた剣が地面に跳ね返り、カランカランと乾いた音をたてていた──。
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