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第4章 「エイリアスくん、胃が痛い」
第二話 「潜入!」
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神官といえば、どんなイメージがあるだろう。清楚で物静か、礼儀正しく人格者……とか。まぁ少なくとも僕が神官の、それも女性であると聞いて抱いたイメージと言えばこんなところだ。一般的にどうなのかは、さておくとして。
「……ここ、ですよね。やっぱり……」
地図を頼りに通りを歩き、次第に人気が減っていくのを感じながらもそのまま進んで行くと、着いたのは街外れの、寂れた屋敷だった。苔が生え傷んだ木造の三階建てで、その面積は貴族の住居に匹敵する。中庭には今はもう動いていないが噴水も有するほどに規模は大きいし、手入れをすればまだまだ有効に使えそうではあるが、以前の持ち主が街の中心部に引っ越してからは誰も住んでいない。それは、さまざまな資料に目を通す機会のある次期領主という立場から言わせてもらっても確かだ。
その理由はこの屋敷にながれる噂による。物凄く古典的ではあるが、此処には幽霊が出るらしいのだ。幽霊など、流石に僕は信じていないが、此処に本当に受付嬢の言う神官の女性が住んでいるのだとしたら、その女性が幽霊と間違えられているのかもしれない。此処に誰かが住むという手続きは為されていない筈だが、空き家に浮浪者がこっそり住み着いているという話は掃いて捨てるほどあるし、幽霊屋敷ともなれば監査も緩くなる。忍び込むのに苦労はないだろう。もっとも、実力のある冒険者がそこまでしなくてはならない理由は見当がつかないが──。
「さて、じゃあ入りますか」
「…………にゃ」
錆が目立つ開きっぱなしの門をくぐり、中庭に足を踏み入れる。草が無秩序に生え散らかり、見るに耐えない有様だ。以前の持ち主がこの屋敷を放棄したのは二年以上前というから無理もない。
中庭を通り抜け無駄に巨大な扉を押すと、ぎぎぎ、と軋みながらそれは開く。バイ◯ハザード2の屋敷を彷彿とさせる広大な屋敷の中には所々に蜘蛛の巣が巣食っており、まるで生活感がない。本当に誰か住んでいるのなら、忍び込んでいるのだとしてももう少し周りには気を配っていそうなものだが。
「……受付嬢さん、結構悩みながら地図書いてたしな。もしかしたら本当に間違ってるってことも……」
冒険者ギルドで仕事を……多分、している筈の彼女を疑っていると不意に、ガタン、と物音がした。
「っ!」
「……にゃっ!」
メメルさんもどうやら聞こえたらしく、小さく鳴き声をあげた。もしかすると、何かあったのかもしれないと不安を募らせる。
音の発生源は二階。恐らく何か重いものを床に落としたのだろう。メメルさんを伴って絨毯の敷かれた床を素早く走り、正面にある大きな階段を駆け上がって二階へとたどり着くと丁度物音のした部屋まで急行。押し入ろうとドアノブに手をかけたところで。
「あ、あわわわわわわ!? ま、ちょっとまってちょっとまって!? まだ入ってきたら駄目だから!!?」
そんな声を聞いて、思わず動きをぴたりと止める。
女性という話を聞いていたので、駄目と言われると流石に入るのはためらわざるを得ない。声を聞けば、何が大事があった訳ではないとわかるし、ならばいいと言われるまで外で待っていようとドアノブから手を離す。
が。
「…………」
僕の後ろにいた筈のメメルさんが、静止を聞かずにドアを開け放った。
「ひゃぁ!?」
部屋の中が晒されると同時に、部屋の中から悲鳴が聞こえる。それはさっき静止を要求してきた声と同じ女性の声だ。不意を突かれ、目をそらす暇もなく部屋の中をバッチリ目にしてしまった僕は。
「………………うわぁ」
そんな声を漏らしてしまった。
何を隠そう、その部屋は──生活感が満載の、所謂ゴミ屋敷だったのだった。
慌てて取り繕おうとゴミを拾い集めている女性が視界に映り、ぎこちない笑みを向ける。
女性はプルプルと震えながら、顔を朱に染め。
「……いやぁぁぁぁぁぁあああぁぁ!!?!?」
──絶叫した。
「……ここ、ですよね。やっぱり……」
地図を頼りに通りを歩き、次第に人気が減っていくのを感じながらもそのまま進んで行くと、着いたのは街外れの、寂れた屋敷だった。苔が生え傷んだ木造の三階建てで、その面積は貴族の住居に匹敵する。中庭には今はもう動いていないが噴水も有するほどに規模は大きいし、手入れをすればまだまだ有効に使えそうではあるが、以前の持ち主が街の中心部に引っ越してからは誰も住んでいない。それは、さまざまな資料に目を通す機会のある次期領主という立場から言わせてもらっても確かだ。
その理由はこの屋敷にながれる噂による。物凄く古典的ではあるが、此処には幽霊が出るらしいのだ。幽霊など、流石に僕は信じていないが、此処に本当に受付嬢の言う神官の女性が住んでいるのだとしたら、その女性が幽霊と間違えられているのかもしれない。此処に誰かが住むという手続きは為されていない筈だが、空き家に浮浪者がこっそり住み着いているという話は掃いて捨てるほどあるし、幽霊屋敷ともなれば監査も緩くなる。忍び込むのに苦労はないだろう。もっとも、実力のある冒険者がそこまでしなくてはならない理由は見当がつかないが──。
「さて、じゃあ入りますか」
「…………にゃ」
錆が目立つ開きっぱなしの門をくぐり、中庭に足を踏み入れる。草が無秩序に生え散らかり、見るに耐えない有様だ。以前の持ち主がこの屋敷を放棄したのは二年以上前というから無理もない。
中庭を通り抜け無駄に巨大な扉を押すと、ぎぎぎ、と軋みながらそれは開く。バイ◯ハザード2の屋敷を彷彿とさせる広大な屋敷の中には所々に蜘蛛の巣が巣食っており、まるで生活感がない。本当に誰か住んでいるのなら、忍び込んでいるのだとしてももう少し周りには気を配っていそうなものだが。
「……受付嬢さん、結構悩みながら地図書いてたしな。もしかしたら本当に間違ってるってことも……」
冒険者ギルドで仕事を……多分、している筈の彼女を疑っていると不意に、ガタン、と物音がした。
「っ!」
「……にゃっ!」
メメルさんもどうやら聞こえたらしく、小さく鳴き声をあげた。もしかすると、何かあったのかもしれないと不安を募らせる。
音の発生源は二階。恐らく何か重いものを床に落としたのだろう。メメルさんを伴って絨毯の敷かれた床を素早く走り、正面にある大きな階段を駆け上がって二階へとたどり着くと丁度物音のした部屋まで急行。押し入ろうとドアノブに手をかけたところで。
「あ、あわわわわわわ!? ま、ちょっとまってちょっとまって!? まだ入ってきたら駄目だから!!?」
そんな声を聞いて、思わず動きをぴたりと止める。
女性という話を聞いていたので、駄目と言われると流石に入るのはためらわざるを得ない。声を聞けば、何が大事があった訳ではないとわかるし、ならばいいと言われるまで外で待っていようとドアノブから手を離す。
が。
「…………」
僕の後ろにいた筈のメメルさんが、静止を聞かずにドアを開け放った。
「ひゃぁ!?」
部屋の中が晒されると同時に、部屋の中から悲鳴が聞こえる。それはさっき静止を要求してきた声と同じ女性の声だ。不意を突かれ、目をそらす暇もなく部屋の中をバッチリ目にしてしまった僕は。
「………………うわぁ」
そんな声を漏らしてしまった。
何を隠そう、その部屋は──生活感が満載の、所謂ゴミ屋敷だったのだった。
慌てて取り繕おうとゴミを拾い集めている女性が視界に映り、ぎこちない笑みを向ける。
女性はプルプルと震えながら、顔を朱に染め。
「……いやぁぁぁぁぁぁあああぁぁ!!?!?」
──絶叫した。
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