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第3章 「初依頼。そして──」

第二十二話 「帰還」

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 街に着き検問を抜けるとドクターは、

「利益は得ないとはいえ一応開業ということになるのだし、手続きが多いんだ。悪いがここで一度別れよう」

 そう言って僕たちを冒険者ギルドの前で降ろすと、馬を走らせ去っていった。勿論、サリアさんの仲間の死体とあの獣の死体は置いていってくれたが。腕もいいし、恩もできた。なにやら今後とも長く付き合いのありそうな予感がした。

「変な人だったわね……それじゃ、行きましょうか。エイリアス……さん?」

 若干躊躇いながらも、僕を呼ぶのに"さん"をつけるサリアさんに、僕は手を軽く振った。

「エイリアスでいいですよ。何だか慣れませんし……」
「あ、そう? じゃあ遠慮なく。あまり呼ぶ時に余分な物つけたくない主義なのよね。だから正直、凄く助かるわ。じゃあ行きましょ、エイリアス!」

 サリアさんに促され、僕はその両開き扉を両手で押し開け……瞬間、何者かのタックルを見に受けて後ろに転倒した。
 ガン、と地面に後頭部がぶつかり、激痛とともに目の前で火花が散る。僕の腰辺りに突進して押し倒したまま、未だに僕に抱きつき続けるその人は、少し見慣れた白い所々跳ね返った髪をしていた。

「……メメルさん?」

 恐る恐る尋ねると、メメルさんは僕のお腹に顔を埋めたままコクリと頷いた。

「えっと、これはどういう……?」

 傷口が開きそうでひやひやしている僕の焦りと困惑を他所に、メメルさんはポツリと言葉を漏らした。

「…………しんぱい、した」

 ……あぁ、そうか。
 僕は納得して、メメルさんの頭に手を置いて優しく撫でた。まるで猫のように手を頭を押し付けて甘えるメメルさんに、僕は思った。彼女も、寂しかったんだろうと。

「……で、どういう関係なのかしら。貴方の仲間ってことでいいの?」

 半分呆れながら額に手を当てて尋ねるサリアさんの様子に──僕はこれが、紛れもない公衆の面前であることを思い出した。

「…………そう、デス……」

 にやにやと僕らを囲んで微笑を浮かべる野次馬たちに、赤面しながらぎこちなくそう答えるのが、精一杯だった。


 ◇◆◇◆◇◆


「あ、帰ってきましたね!? もー心配したんですからこのばかばかー!! メメルさんも置いて行くなんてなに考えてるんですかこのー!!!」
「いた、いたたたたた!!? 謝ります、謝りますからコブラツイストはやめてください!? 傷口が開く、開いちゃいます!!」
「え? この技コブラツイストっていうんですか。へぇー、勉強になりました」

 聞いちゃいねえ。
 受付嬢さんは、僕がカウンターに顔を見せるや鮮やかな動きで身柄を抑え、僕を締め上げた。コブラツイストで。その無駄のなさといえば、僕が身じろぎひとつ出来ず倒される程である。もうこの人が冒険した方がいいんじゃないだろうか。

「助けて! 誰か助けて!?」

 周囲に助けを求めるも、

「…………へぇー、随分仲がいいのね、エイリアスさん・・?」

 冷ややかな目で僕を見て、何故か呼び方から距離感が開いているサリアさんと。

「…………めどい……」

 先程までの心配は何処へやら、無関心に机に突っ伏すメメルさんしか、周囲に人は残っていなかった。巻き込まれまいと軒並み避難したのである。何て人達だ。気持ちが凄くわかる。僕も同じ立場なら避難するだろうから。

「…………あっ」

 そして、真横から聴こえてきた『やらかした』と言わんばかりのその声に。

「…………グェ……」

 締められた鶏のような悲鳴を辛うじて漏らし、僕は意識を手放した。
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