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第2章 「『冒険者』エイリアス」
第五話 「控え室」
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登録を終えたアヤトさん達と別れ、選手控え室へと赴く。これから戦うかもしれない相手とあまり長く居るのは精神衛生上よろしくないからと言われたのだ。特にナナさんの。
アヤトさんよりも先に登録しているだけあって、僕の方が試合開始が早い。基本、このトーナメント戦は登録の早い方が試合が早く始まる。だから、より勝ち進みたい人は強い人とは離れて登録する、みたいな情報戦もあったりする。
僕は全然気にせず登録したけど。
いくつかある控え室の内、僕に割り当てられたそれのドアを開けると、既に準備を始めている大勢の選手の視線が僕に突き刺さる。これから戦うだろう相手を見る目だ、当然それは刃物のように鋭い。僕が無駄に豪華な服を着ているからかもしれないが。
多少居心地の悪さはあったが、それ以上の干渉は無いので無害だろう。
「ガルマ」
「は、此方に」
姿は見えなかったしが、居るだろうと確信して声をかけると、ガルマはいつのまにか横にいた。
一瞬前まで気配さえも感じなかったのはいつもの事で、突然現れるガルマにはもう慣れてしまった。最初の頃は、気配も無く側に侍り、必要とあらば声をかけてくるガルマにビビりまくりだったが。
「着替えます。鎧と剣を」
「御意」
ガルマが恭しく渡してくれる装備を手に取る。
無駄に重苦しい貴族服を脱いで、畳んでからガルマに預ける。
革製の胸当て、鉄製の膝当てに足甲。
駆け出し冒険者の装備以下の安物。さっきまで来ていた服の方が千倍は高い。
利点があるとすれば軽い事、くらいのまさしく紙装甲だ。
周りの視線が警戒から嘲笑へと変化する。装備はその者の実力の指標として、最もわかりやすいものだ。確かにそれだけを見るのなら、僕は駆け出し冒険者以下の実力ということになる。
スラリと鞘から剣を抜く。
なんの変哲も無い片手剣。店で一番安い物を持って来てくれ、と店員に頼んだらこれと似たようなものが手に入るだろう。
周りの人は、もう僕に対する興味を殆ど失っているようだ。くすくすと陰険に笑う声すらしてくる。
備え付けの椅子に座って呼び出しを待つ。
僕の登録番号は「406」だ。意味的には、新人杯の団体戦で六番目に登録した団体、ということになる。今出て行ったのが「403」と「404」なので、次になる。
「時間です。405番、406番は競技場三番に向かって下さい」
僕が立ち上がったのを見て、早くもガッツポーズをとったチームがあった。大柄な男三人組のチームだ。
椅子を鳴らして勢いよく立ち上がると、僕にニヤニヤとした下卑た笑みを向けてくる。台詞をつけるとしたら『ありがとな、楽に上に上がれるぜ』といったところか。
出来るだけ好意的に見えるように笑みを返す。
僕だって聖人って訳じゃないのだ。
正直凄く、見くびられた事にはイライラしている。
装備を弱くしたのだって、金にモノを言わせた魔法の装備で勝つのは不平等だろうという気遣いだというのに。
「…………ガルマ」
「はい、何でしょうか」
「……いえ、何でも。──行って来ます」
ガルマが深く礼をして、僕を見送る。
競技場に繋がる通路を静かに歩く。
石壁に付けられた松明の炎がユラユラと揺れ、踊るような影が床に映し出される。
冷たい空気が肌を撫ぜる。
それがいい具合に緊張感と、集中力を高めてくれる。
通路の先には、巨大な格子戸。
隙間から歓声と、異様な熱気が漏れていた。
──行くか。
ギアを上げるように足を早め、心拍を高める。
格子戸から逃げるように出てきたボロボロの選手とすれ違い、入れ替わるように僕は競技場に躍り出た。
アヤトさんよりも先に登録しているだけあって、僕の方が試合開始が早い。基本、このトーナメント戦は登録の早い方が試合が早く始まる。だから、より勝ち進みたい人は強い人とは離れて登録する、みたいな情報戦もあったりする。
僕は全然気にせず登録したけど。
いくつかある控え室の内、僕に割り当てられたそれのドアを開けると、既に準備を始めている大勢の選手の視線が僕に突き刺さる。これから戦うだろう相手を見る目だ、当然それは刃物のように鋭い。僕が無駄に豪華な服を着ているからかもしれないが。
多少居心地の悪さはあったが、それ以上の干渉は無いので無害だろう。
「ガルマ」
「は、此方に」
姿は見えなかったしが、居るだろうと確信して声をかけると、ガルマはいつのまにか横にいた。
一瞬前まで気配さえも感じなかったのはいつもの事で、突然現れるガルマにはもう慣れてしまった。最初の頃は、気配も無く側に侍り、必要とあらば声をかけてくるガルマにビビりまくりだったが。
「着替えます。鎧と剣を」
「御意」
ガルマが恭しく渡してくれる装備を手に取る。
無駄に重苦しい貴族服を脱いで、畳んでからガルマに預ける。
革製の胸当て、鉄製の膝当てに足甲。
駆け出し冒険者の装備以下の安物。さっきまで来ていた服の方が千倍は高い。
利点があるとすれば軽い事、くらいのまさしく紙装甲だ。
周りの視線が警戒から嘲笑へと変化する。装備はその者の実力の指標として、最もわかりやすいものだ。確かにそれだけを見るのなら、僕は駆け出し冒険者以下の実力ということになる。
スラリと鞘から剣を抜く。
なんの変哲も無い片手剣。店で一番安い物を持って来てくれ、と店員に頼んだらこれと似たようなものが手に入るだろう。
周りの人は、もう僕に対する興味を殆ど失っているようだ。くすくすと陰険に笑う声すらしてくる。
備え付けの椅子に座って呼び出しを待つ。
僕の登録番号は「406」だ。意味的には、新人杯の団体戦で六番目に登録した団体、ということになる。今出て行ったのが「403」と「404」なので、次になる。
「時間です。405番、406番は競技場三番に向かって下さい」
僕が立ち上がったのを見て、早くもガッツポーズをとったチームがあった。大柄な男三人組のチームだ。
椅子を鳴らして勢いよく立ち上がると、僕にニヤニヤとした下卑た笑みを向けてくる。台詞をつけるとしたら『ありがとな、楽に上に上がれるぜ』といったところか。
出来るだけ好意的に見えるように笑みを返す。
僕だって聖人って訳じゃないのだ。
正直凄く、見くびられた事にはイライラしている。
装備を弱くしたのだって、金にモノを言わせた魔法の装備で勝つのは不平等だろうという気遣いだというのに。
「…………ガルマ」
「はい、何でしょうか」
「……いえ、何でも。──行って来ます」
ガルマが深く礼をして、僕を見送る。
競技場に繋がる通路を静かに歩く。
石壁に付けられた松明の炎がユラユラと揺れ、踊るような影が床に映し出される。
冷たい空気が肌を撫ぜる。
それがいい具合に緊張感と、集中力を高めてくれる。
通路の先には、巨大な格子戸。
隙間から歓声と、異様な熱気が漏れていた。
──行くか。
ギアを上げるように足を早め、心拍を高める。
格子戸から逃げるように出てきたボロボロの選手とすれ違い、入れ替わるように僕は競技場に躍り出た。
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