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シュガーダディ
27th センニュウチョウサ
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「ひへへ、そう来なくっちゃ」
篦河はへらへら笑う。自分の思惑通りに行ったことを喜ぶこの顔が、オレの不安感を余計に煽ってくる。
「ごめんね裏見くん……何も出来なくて」
「いや、常磐さんは何も悪くないよ……」
オレは常磐さんの謝罪を棄却した。まあ、決まってしまったことだし仕方ない。
「もし足りないなんてことがないように、一応私のお金貸しておくね」
常磐さんはピンク色の可愛い財布を取り出し、そこからいくらかお札を抜いた。
「流石に悪いよ……ここはオレの金だけでやらなきゃいけないと思う」
「ダメだよ!これは私の罪滅ぼしみたいなもの。迷惑料だと思って?」
「――そっか……じゃあ、ありがたく頂いちゃおうかな……」
聖人すぎる……出会ってきた人々がみんなアレなせいでこの優しさが五臓六腑に染み渡る。――いや、他のみんなの性格が悪いと言っている訳では無い。かと言って性格が良いかと言えばそうでも無いと思う。だからこそこの優しさがとてつもなく身に染みる。
――というか、オレから誘っておいてこんなことさせてしまって良いのだろうか……?
いやいや、今は……今だけは許されるよな。許して欲しい……
「それじゃ、行ってくるわ」
「ひへへ、がんばれー」
「頼んだよ!」
オレは二人の期待を背負い、現地に赴く。やることは盗撮盗聴まがいの事なのだが……
◇ ◇ ◇
当該の寿司屋は先程より空いていた。並んでいる人は全くおらず、逆に出ていく人が多くを占めている。
時刻は十九時十五分を少し回ったところ。オレは店内の様子を軽く確認し、ターゲットの二人がまだ居ることを確かめた。寿司もそれなりに残っている。よし、これなら大丈夫そうだ。
オレは確認の流れで入店を試みる。
「すいませーん」
「はーい」
オレが声をかけると、若そうな板前さんが対応してくれた。
「おひとりですか?」
「そうです」
「それでは席にご案内しますね……」
「あっ、自分勝手なお願いではあるのですが、席を指定することって出来ますかね?」
「えっ、はい……まあそれくらいなら……」
オレは標的から近くも遠くもない絶妙なカウンター席に座り、耳を済ませた時に会話が聞こえるかどうかの確認をする。
「――そうでも無いよ~!」
「いやいや、銀河ちゃんはかわいいよ」
うん、確かに聞こえる。ここなら十分証拠を掴めそうだ。――というかなんの会話なんだこれは。高級寿司店での会話か……?これが?
オレはスマホのボイスメモアプリを立ち上げ、録音開始のボタンを押した。
「それでさー、可愛さに免じてボストンバッグも買って欲しいなぁ……?」
「えぇー?それ居る?」
「居るの!!」
――さっきもバッグをねだってなかったか?気のせいだろうか?ブランドに執着する理由って一体なんなのだろうか?オレは男なので分からないが、女心の中にはそういうプログラムが組み込まれて居る……とか?いやいや、そんなことはないだろう。偏見を言ってはいけない。
「時計もバッグも財布もネックレスもブレスレットも、紙袋だってブランド物で揃えてこそ一流の女って感じせん?」
「あはは……そうだね……」
パパも困ってるじゃないか!!やはり問答無用でお金が減るというのは歴戦のパパでも嫌なものなのだろう。
いやしかし、汗水垂らして稼いだお金を人に貢ぐってどういう感情なのだろうか?今のオレには理解できない。だが、オレの性格を考えると、いつしかあそこで年下の女の子と会話をしている可能性も無くはないのが恐ろしい。
そう考えると、性格を大胆に変えてみるというのもいいのかもしれない。クズにはなりたくないけど。
「それで……この後はどうする?」
「えぇー?おじぴはどうしたいのー?」
「そりゃあ、ね?」
おじさんはかなり濁した言い方をした。それでも銀河さんは言葉の真意を理解できたようで、それにニヤニヤと笑い返す。
「へぇ……?だったら、ちゃんとバッグを買ってもらわなきゃねぇ?」
うわぁ……これがパパ活かぁ……オレには少し難しい世界だなぁ……
「あのぉ、お客さん?」
「――あっ、はい!」
オレはいきなり話しかけられ、急いで板前さんの方へ体を向けた。
「ご注文は?」
「あ、えっと……一番安いので……」
「はいよ」
◇ ◇ ◇
「はい、寿司盛り合わせね」
出てきた寿司は中トロ、ウニ、イカ、イクラ、エビ、ホタテの六種。シンプルでありきたりなチョイスだが、それでもなにかいつも食べている安い寿司とは一線を画す輝きを持っている。
オレは丁寧に箸でエビを掴み、手を震わせながら醤油に付け、ゆっくりと口に運ぶ。
一噛み……二噛み……美味しい……!!身はもちろん、米すらこだわりが感じられる……!なんというか、一粒一粒にハリ?のようなものがあるのだ。すごい……これが高級寿司かぁ!
次はホタテ!次はイカ……!!美味い美味い!!――
「じゃあ、行こっか」
――はっ……!オレは少し遠くで聴こえるおじぴの声で現実に引き戻された。そ、そうだった。証拠集め……!
オレは急いで寿司を口に運ぼうとする。――いや、待てよ?そんなに急いでどうする?急いで鉢合わせでもしたら大変だ。ここはまずは連絡をしよう。
オレはスマホのチャットアプリを開き、ツイツイとフリック入力を行った。宛先は常磐さんだ。
『銀河さん寿司屋出るよ!』
篦河はへらへら笑う。自分の思惑通りに行ったことを喜ぶこの顔が、オレの不安感を余計に煽ってくる。
「ごめんね裏見くん……何も出来なくて」
「いや、常磐さんは何も悪くないよ……」
オレは常磐さんの謝罪を棄却した。まあ、決まってしまったことだし仕方ない。
「もし足りないなんてことがないように、一応私のお金貸しておくね」
常磐さんはピンク色の可愛い財布を取り出し、そこからいくらかお札を抜いた。
「流石に悪いよ……ここはオレの金だけでやらなきゃいけないと思う」
「ダメだよ!これは私の罪滅ぼしみたいなもの。迷惑料だと思って?」
「――そっか……じゃあ、ありがたく頂いちゃおうかな……」
聖人すぎる……出会ってきた人々がみんなアレなせいでこの優しさが五臓六腑に染み渡る。――いや、他のみんなの性格が悪いと言っている訳では無い。かと言って性格が良いかと言えばそうでも無いと思う。だからこそこの優しさがとてつもなく身に染みる。
――というか、オレから誘っておいてこんなことさせてしまって良いのだろうか……?
いやいや、今は……今だけは許されるよな。許して欲しい……
「それじゃ、行ってくるわ」
「ひへへ、がんばれー」
「頼んだよ!」
オレは二人の期待を背負い、現地に赴く。やることは盗撮盗聴まがいの事なのだが……
◇ ◇ ◇
当該の寿司屋は先程より空いていた。並んでいる人は全くおらず、逆に出ていく人が多くを占めている。
時刻は十九時十五分を少し回ったところ。オレは店内の様子を軽く確認し、ターゲットの二人がまだ居ることを確かめた。寿司もそれなりに残っている。よし、これなら大丈夫そうだ。
オレは確認の流れで入店を試みる。
「すいませーん」
「はーい」
オレが声をかけると、若そうな板前さんが対応してくれた。
「おひとりですか?」
「そうです」
「それでは席にご案内しますね……」
「あっ、自分勝手なお願いではあるのですが、席を指定することって出来ますかね?」
「えっ、はい……まあそれくらいなら……」
オレは標的から近くも遠くもない絶妙なカウンター席に座り、耳を済ませた時に会話が聞こえるかどうかの確認をする。
「――そうでも無いよ~!」
「いやいや、銀河ちゃんはかわいいよ」
うん、確かに聞こえる。ここなら十分証拠を掴めそうだ。――というかなんの会話なんだこれは。高級寿司店での会話か……?これが?
オレはスマホのボイスメモアプリを立ち上げ、録音開始のボタンを押した。
「それでさー、可愛さに免じてボストンバッグも買って欲しいなぁ……?」
「えぇー?それ居る?」
「居るの!!」
――さっきもバッグをねだってなかったか?気のせいだろうか?ブランドに執着する理由って一体なんなのだろうか?オレは男なので分からないが、女心の中にはそういうプログラムが組み込まれて居る……とか?いやいや、そんなことはないだろう。偏見を言ってはいけない。
「時計もバッグも財布もネックレスもブレスレットも、紙袋だってブランド物で揃えてこそ一流の女って感じせん?」
「あはは……そうだね……」
パパも困ってるじゃないか!!やはり問答無用でお金が減るというのは歴戦のパパでも嫌なものなのだろう。
いやしかし、汗水垂らして稼いだお金を人に貢ぐってどういう感情なのだろうか?今のオレには理解できない。だが、オレの性格を考えると、いつしかあそこで年下の女の子と会話をしている可能性も無くはないのが恐ろしい。
そう考えると、性格を大胆に変えてみるというのもいいのかもしれない。クズにはなりたくないけど。
「それで……この後はどうする?」
「えぇー?おじぴはどうしたいのー?」
「そりゃあ、ね?」
おじさんはかなり濁した言い方をした。それでも銀河さんは言葉の真意を理解できたようで、それにニヤニヤと笑い返す。
「へぇ……?だったら、ちゃんとバッグを買ってもらわなきゃねぇ?」
うわぁ……これがパパ活かぁ……オレには少し難しい世界だなぁ……
「あのぉ、お客さん?」
「――あっ、はい!」
オレはいきなり話しかけられ、急いで板前さんの方へ体を向けた。
「ご注文は?」
「あ、えっと……一番安いので……」
「はいよ」
◇ ◇ ◇
「はい、寿司盛り合わせね」
出てきた寿司は中トロ、ウニ、イカ、イクラ、エビ、ホタテの六種。シンプルでありきたりなチョイスだが、それでもなにかいつも食べている安い寿司とは一線を画す輝きを持っている。
オレは丁寧に箸でエビを掴み、手を震わせながら醤油に付け、ゆっくりと口に運ぶ。
一噛み……二噛み……美味しい……!!身はもちろん、米すらこだわりが感じられる……!なんというか、一粒一粒にハリ?のようなものがあるのだ。すごい……これが高級寿司かぁ!
次はホタテ!次はイカ……!!美味い美味い!!――
「じゃあ、行こっか」
――はっ……!オレは少し遠くで聴こえるおじぴの声で現実に引き戻された。そ、そうだった。証拠集め……!
オレは急いで寿司を口に運ぼうとする。――いや、待てよ?そんなに急いでどうする?急いで鉢合わせでもしたら大変だ。ここはまずは連絡をしよう。
オレはスマホのチャットアプリを開き、ツイツイとフリック入力を行った。宛先は常磐さんだ。
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