パットミトラッシュ

青野ハマナツ

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シュガーダディ

24th キューチピンチ

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 ここまで来てやめるわけには行かないだろ!!決定的証拠を掴み切るまでは絶対にやめない!――

 ――だなんてことを言ってしまったら面倒なことになることは間違いないので、オレはとりあえず受け入れたフリをする。

「――分かりました。じゃあ今日のところは失礼します」

「うん、分かってくれたならいいんだよ」

 警備員さんはそう言ってその場から離れた。幸いなことに、オレたちは顔も髪型も見られていない。見られているのは制服だけだ。

「なぁ篦河」

「ひへへ、どうした?」

「下の服屋でテキトーに服揃えてこい。メンズひとセットにレディースセットだ」

「――ひへへ、なるほどねぇ。もっかい変装するわけだ。いいよ、任された」

 篦河はダッシュでエスカレーターに飛び乗り、下へと降りていく。さて、あとはオレと常盤さんをどう動かすかだ。

「常盤さん」

「私は何をすればいい?」

「オレはさっきの警備員さんの動きをチェックする。だから、常盤さんは銀河さんたちを見つけて欲しい」

「――ううん、裏見くん。配役は逆の方が良いよ」

「えっ、なんで?」

「だって、私は銀河さんのことを知らないだもん」

 常盤さんは少し呆れたように笑い、そう言った。

 ……あっ、そっか。そりゃそうだ。常盤さんは今日まで銀河さんのパパ活どころか銀河さん本人を知らなかったわけだし、色々すれ違って彼女の姿も見れていない。それに、常盤さんにさっき撮った動画を見せるよりも、既に標的を知ってるオレが探した方が早いだろう。

「わかった。じゃあ頼むよ」

「うん。裏見くんも頑張ってね」

 オレは常盤さんと別れ、このフロアにある店を片っ端から確認していく。流石にどこの店も割と混んでいる。この感じなら、あの二人もまだ並んでいる可能性が高い。

 オレは銀河さんにバレる可能性を少しでも減らすために、変装道具を身につけたまま探索する。

 ステーキ丼屋、天ぷら屋、蕎麦屋……色々な店が並んでいるが、なかなか二人の姿を確認できない。

 極力目立たないように、ゆっくりと進んでいく。そして、突き当たりを右に曲ろうとした瞬間、オレは目的の人物を瞳に映した。

 明らかに高級そうな寿司屋の列の先頭から二番目。そこにダラケた感じの銀河さんと、対比するようにビシッとした格好のおじさんが座っていた。

 よし、とりあえずどこにいるかの確認は取れた。この様子を撮ってしまおう。オレは曲がり角を死角にしながらスマホを取り出し、音の鳴らないカメラで写真を撮った。

 オレがシャッターを切った瞬間、スマホの画面上部に一件の通知が入る。おおよそ、篦河が『服買ったよ』とか言ってるのだろう。

 なになに?差出人は……あれ、常盤さん?

『警備員さんがそっちに向かってるよ!』

 その一言と共に画像が添付されている。その画像は、今居る曲がり角のすぐそばにある小道を警備員が歩いている様子だった。オレの今の位置から計算して……ざっと二十メートル程離れた場所に警備員が居る……?

 まずい。どうする?このままここを曲がれば確実に銀河さんに気づかれる。かと言って戻るなんてことをしたら警備員に気づかれてしまう。

 いや、オレは変装をしている。制服ではあるが、それ以外にオレが『裏見葛』であると確証付ける証拠はない。顔を隠しているからだ。とりあえずここは賭けるしかない……!

 オレは勢いを付けて角を曲がる。銀河さんの方をチラッと見ると、二人は入店しようと立ち上がっていた。こちらは見ていない。

 どうやら順番が回ってきていたらしい。これは助かった。

 オレはとりあえず走り、篦河や常盤さんと別れたエスカレーター付近まで到達した。篦河はもちろん、常盤さんもそこにはいない。

 オレは急いで携帯を操作し、篦河に電話をかける。

「――篦河か?」

『ひへへー、どうしたの息切れして?焦ってる?』

「そりゃまあな!服は買えたか?」

『ひへへ、もちろんよ。持っていくから待ってて』

 ――しばらく待っていると、エスカレーターに乗って篦河が登場した。オレはそれを見て少し安心した。

「ひへへ、とうちゃーく」

「ひへへじゃないって。とりあえず服、もらえるか?」

「へいよー。どーぞ」

 オレは黒い無地のTシャツとズボンを受け取り、着替えのためにトイレに向かおうとする。

「ひへへ、ちょいと待ってよ」

「え?なんで待たなきゃならないんだ」

「常盤さんへの連絡は?」

「――あ、忘れてた……ごめん」

「ひへぇ……?謝罪の言葉は常盤さんにしなよ」

「そ、そうだな」

 オレはスマホを操作して常盤さんにエスカレーターにいるという連絡を入れる。

『エスカレーター付近で篦河が待ってるからよろしくね』

 オレは既読が付くかどうかすら確認せず、急いで着替えに向かう。

「あ!ちょっと!連絡したんだよねぇ!?」

「したよ!」

 篦河の質問に対してオレは大きめの声で答えた。

◇ ◇ ◇

 オレは個室の中でササッと着替えた。いや、そこまでは良かったのだが……その後が問題だった。

 カバンに着替えた制服が入ってくれない。夏服だったらまだ入ったかもしれないが、まだギリギリ冬服の時期だった。どうするか……まあ、このまま持って出るか。

◇ ◇ ◇

 オレは右手に制服を持ちながら、篦河の元に戻った。そこには篦河だけでなく常磐さんも居た。良かった。連絡は伝わっていたようだ。

 オレの持ち物を見た篦河は少し困惑したような表情をする。

「ひへへ……それ、どうしたの?」

「あ、これか?いやぁ、バッグに入らなくてな」

「そ、そっかぁ……ひへへ……じゃあ、これに入れなよ」

 篦河はそう言って服屋の紙袋を差し出した。

「あー、ほんと?ならお言葉に甘えようかな」

 オレは何も考えず制服を紙袋に突っ込んだ。すると、篦河はそれを半ば強引に抱きかかえた。

「な、なんでそんな強引に……」

「ひへへ、まだこの中に私たちの服が入ってるから」

 それを聞いた常盤さんはびっくりしたような声を上げた。

「え、えー!?まだ入ってるの……?」

「ちょっとだけ我慢してね……ひへへ」

 篦河は申し訳なさそうにしつつも、何だか少し異様な雰囲気を醸し出している。

「そ、それじゃ、あたしたちは着替えてくるから、ひへ、ひへへ……」

 そう言って篦河は常盤さんを連れて着替えに行った。常盤さんに謝ることが一つ増えてしまったな……
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