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メイキングトラッシュ
5th ギャクテンピンチ
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「録っちゃったー♡」
どうしよう。穴があったら入りたいとはこのことだろうか?入ったところで問題を先送りにしているだけで被害は広がり続けるだろうな。いや、今はそんなことを考えている場合では無い。
首筋をつーっと冷や汗がつたる。助けを求めようと夏来の方を見るが、相変わらずのニコニコ具合。それが逆にオレの恐怖を駆り立てる。くっそー……よりにもよって頼れる人間がコイツしか居ないなんて……もっと男友達をちゃんと作っておくべきだった!!
「け、消してくれ」
「嫌だよ~。こんっなに決定的な証拠、手放すわけないじゃない。ひへへ~」
篦河は「えへへ」と言わんばかりに自らの手柄を褒めていた。ここで無理やりボイスレコーダーを奪うのもありかと思ったが、そんなことをしたら暴力男のイメージが加速して社会的に完全死亡する。どうにか穏便にデータを消去させられないだろうか。
「葛さん!ここはもう諦めましょう!そして私をしっかり殴りましょう!」
この野郎……!!なんでオレの傷口をガバッと広げるようなことを言うんだ!!夏来のニコニコパンチにより、オレはとてつもない痛手を負う。
「ひへへー!もう逃げれば勝ちだー!」
篦河はオレが夏来を睨んでいる隙をついて逃げ出す。ボイスレコーダーをしっかりと握りながら教室を勢いよく飛び出し、校舎の出口がある方向に向かって思いっきり舵を切ったその瞬間。
ツルっ
という音が聞こえてきそうなほど、あまりにも美しく転けた。もしオリンピックに「転け方」という競技があるのなら金メダル間違いないだろう。
そして、彼女は受け身を取るために両手を咄嗟に地面に向けて出した。しかし、彼女はボイスレコーダーを右手でしっかりと握っている。それ即ち、彼女の手はボイスレコーダーごと接地してしまうということ。
彼女の手は可動域の限界を少し超えるほど曲がった。まあ、簡単に言えば手首を思いっきり捻ったってことだ。
「痛ァァー!!!」
篦河の叫びが響く。彼女は咄嗟にボイスレコーダーを離して手がどうなっているのかを確かめる。
「ね、捻挫止まりかな……ひへへ、折れてないっぽくて良かった――!?」
ボイスレコーダーが篦河の手から離れた瞬間をオレは逃さなかった。よくもまあこんな反応ができるな、というくらい咄嗟の対応。オレはレコーダーを奪い、急いで操作を試みる。しかし、何度ボタンを押そうが、うんともすんとも言わない。。
ある意味当然だ。これほど小さな機械に強い衝撃を加えれば少なからず動作に支障をきたす。ある程度の人生経験がある人間ならば誰でも知っている事実だ。
オレは代わりと言わんばかりに左下の部分に付いたマイクロSDカードを抜き去り、ポケットの中に入れた。
「あ、あぁぁあー……」
篦河はそんな俺を見て動揺し始めた。先程までと真逆の展開。篦河の一瞬のミスが大きく状況を動かしたのだ。
「コイツは貰っていくぜ」
オレが渾身のドヤ顔でそう告げると、篦河は顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
「か、返せー!!」
へっ、手首を負傷している女子なんか今のオレは怖くねー!!
「ボイスレコーダーは返してやるよ!ただ、こっちを返すのはデータを削除してからだ!」
「うわぁぁ!!やめろー!!」
篦河は必死すぎじゃない?と思うくらい全力で取り返そうとする。しかし、彼女の右手は機能しない。
「明日になったら返してやるから!今は我慢だ!」
「い、今返せー!!」
「ダメですよ篦河さん!!一度奪われたものは盗った人が『いいよー!』と言うまで返還を待つのが礼儀というものです!」
夏来があまりにもおかしな考え方でオレに加勢する。いや遅いわ!寝返るならもうちょっと早くやれよ!
「返せー!!」
「と、というか篦河さん!お怪我をなされているのですから保健室に行かなければ!!葛さん、私は篦河さんを保健室に連れていきますので、先生方にご説明くださいね!それでは!!」
篦河は最後まで抵抗したが、夏来に怪我をしていない左腕を引かれて保健室へと向かっていった。あぁ……また面倒なやつが増えたなぁ……
◇ ◇ ◇
その夜。オレは篦河から取ったSDカードをパソコンに入れた。それは128ギガとレコーダー用として使うには少し大きめな容量。
案の定、そこには音声データだけでなく動画も入っていた。オレは今日の日付が書かれた音声データを見つけ、手早く消去した。ふぅ、これで一安心だな……ん?
――パソコンからカードを抜こうと思ったその時、ふと魔が差して他のデータを見ようと思ってしまった。
マウスのホイールを手前に回し、一番下の動画にカーソルを合わせる。ダブルクリックをして動画を開くと、画面には何かスケッチブックのようなものが映った。
四コマ漫画……だろうか?四つの長方形が縦に連なり、一つ一つにかわいいイラストが描かれている。ただそれを映しているだけの動画かと思いきや、突然声が入り始める。少し幼い気もするが、それは間違いなく篦河の声。
もしや、篦河が描いた四コマ漫画を、作者である彼女自身が読み上げている――?
……見なかったことにしようか。
いや、でも……と思い別の動画を一個一個開いていった。
結論から言おう。割と後悔した。いや、別に恐怖画像とか、気持ち悪い動画が入っているわけではないのだ。
ただ、その動画や音声、画像に全てに共通して、小中学生の篦河心という少女が何かしらの行動をしている、という特徴があるのだ。
しかも、他人のデータをネットからダウンロードしているのかな、という可能性を封じるかのように、その全てに記録者が篦河であると示す情報が残っている。顔だったり、声だったり、紙に書かれた名前だったり。
マセた少女の記録をそっと閉じ、SDカードを抜いた。
◇ ◇ ◇
翌日。オレは学校に着くなりすぐに篦河を見つけ、カードを返した。篦河の手首には絆創膏がペタっと貼ってある。包帯をしていないってことは、捻挫したわけじゃないのか?
「怪我、大丈夫なのか?」
篦河はこくりと頷いたが、カードを受け取ると同時に顔をしかめてオレを睨んだ。
「――見たね?」
「何を?」
「――もういいや、あたしはもうキミと心中するつもりで生かして貰うからね」
「はい?」
「あれ、本当に見てないのかな?ひへへ、危なかった~」
――ごめん、篦河。全部見てるんだわ。
「ひへへ、まあ、いいよ。あたしは君が見たという体で生きることにしようかな~?」
やめろ。心の底からやめろ。こいつの前で不用意な発言は身を滅ぼす。正直喋らないようにした方が無難なのかなとも思う。
でも、夏来がいる現状、一人や二人増えたくらいあまり変わらない……かな?
どうしよう。穴があったら入りたいとはこのことだろうか?入ったところで問題を先送りにしているだけで被害は広がり続けるだろうな。いや、今はそんなことを考えている場合では無い。
首筋をつーっと冷や汗がつたる。助けを求めようと夏来の方を見るが、相変わらずのニコニコ具合。それが逆にオレの恐怖を駆り立てる。くっそー……よりにもよって頼れる人間がコイツしか居ないなんて……もっと男友達をちゃんと作っておくべきだった!!
「け、消してくれ」
「嫌だよ~。こんっなに決定的な証拠、手放すわけないじゃない。ひへへ~」
篦河は「えへへ」と言わんばかりに自らの手柄を褒めていた。ここで無理やりボイスレコーダーを奪うのもありかと思ったが、そんなことをしたら暴力男のイメージが加速して社会的に完全死亡する。どうにか穏便にデータを消去させられないだろうか。
「葛さん!ここはもう諦めましょう!そして私をしっかり殴りましょう!」
この野郎……!!なんでオレの傷口をガバッと広げるようなことを言うんだ!!夏来のニコニコパンチにより、オレはとてつもない痛手を負う。
「ひへへー!もう逃げれば勝ちだー!」
篦河はオレが夏来を睨んでいる隙をついて逃げ出す。ボイスレコーダーをしっかりと握りながら教室を勢いよく飛び出し、校舎の出口がある方向に向かって思いっきり舵を切ったその瞬間。
ツルっ
という音が聞こえてきそうなほど、あまりにも美しく転けた。もしオリンピックに「転け方」という競技があるのなら金メダル間違いないだろう。
そして、彼女は受け身を取るために両手を咄嗟に地面に向けて出した。しかし、彼女はボイスレコーダーを右手でしっかりと握っている。それ即ち、彼女の手はボイスレコーダーごと接地してしまうということ。
彼女の手は可動域の限界を少し超えるほど曲がった。まあ、簡単に言えば手首を思いっきり捻ったってことだ。
「痛ァァー!!!」
篦河の叫びが響く。彼女は咄嗟にボイスレコーダーを離して手がどうなっているのかを確かめる。
「ね、捻挫止まりかな……ひへへ、折れてないっぽくて良かった――!?」
ボイスレコーダーが篦河の手から離れた瞬間をオレは逃さなかった。よくもまあこんな反応ができるな、というくらい咄嗟の対応。オレはレコーダーを奪い、急いで操作を試みる。しかし、何度ボタンを押そうが、うんともすんとも言わない。。
ある意味当然だ。これほど小さな機械に強い衝撃を加えれば少なからず動作に支障をきたす。ある程度の人生経験がある人間ならば誰でも知っている事実だ。
オレは代わりと言わんばかりに左下の部分に付いたマイクロSDカードを抜き去り、ポケットの中に入れた。
「あ、あぁぁあー……」
篦河はそんな俺を見て動揺し始めた。先程までと真逆の展開。篦河の一瞬のミスが大きく状況を動かしたのだ。
「コイツは貰っていくぜ」
オレが渾身のドヤ顔でそう告げると、篦河は顔を真っ赤にしながら叫ぶ。
「か、返せー!!」
へっ、手首を負傷している女子なんか今のオレは怖くねー!!
「ボイスレコーダーは返してやるよ!ただ、こっちを返すのはデータを削除してからだ!」
「うわぁぁ!!やめろー!!」
篦河は必死すぎじゃない?と思うくらい全力で取り返そうとする。しかし、彼女の右手は機能しない。
「明日になったら返してやるから!今は我慢だ!」
「い、今返せー!!」
「ダメですよ篦河さん!!一度奪われたものは盗った人が『いいよー!』と言うまで返還を待つのが礼儀というものです!」
夏来があまりにもおかしな考え方でオレに加勢する。いや遅いわ!寝返るならもうちょっと早くやれよ!
「返せー!!」
「と、というか篦河さん!お怪我をなされているのですから保健室に行かなければ!!葛さん、私は篦河さんを保健室に連れていきますので、先生方にご説明くださいね!それでは!!」
篦河は最後まで抵抗したが、夏来に怪我をしていない左腕を引かれて保健室へと向かっていった。あぁ……また面倒なやつが増えたなぁ……
◇ ◇ ◇
その夜。オレは篦河から取ったSDカードをパソコンに入れた。それは128ギガとレコーダー用として使うには少し大きめな容量。
案の定、そこには音声データだけでなく動画も入っていた。オレは今日の日付が書かれた音声データを見つけ、手早く消去した。ふぅ、これで一安心だな……ん?
――パソコンからカードを抜こうと思ったその時、ふと魔が差して他のデータを見ようと思ってしまった。
マウスのホイールを手前に回し、一番下の動画にカーソルを合わせる。ダブルクリックをして動画を開くと、画面には何かスケッチブックのようなものが映った。
四コマ漫画……だろうか?四つの長方形が縦に連なり、一つ一つにかわいいイラストが描かれている。ただそれを映しているだけの動画かと思いきや、突然声が入り始める。少し幼い気もするが、それは間違いなく篦河の声。
もしや、篦河が描いた四コマ漫画を、作者である彼女自身が読み上げている――?
……見なかったことにしようか。
いや、でも……と思い別の動画を一個一個開いていった。
結論から言おう。割と後悔した。いや、別に恐怖画像とか、気持ち悪い動画が入っているわけではないのだ。
ただ、その動画や音声、画像に全てに共通して、小中学生の篦河心という少女が何かしらの行動をしている、という特徴があるのだ。
しかも、他人のデータをネットからダウンロードしているのかな、という可能性を封じるかのように、その全てに記録者が篦河であると示す情報が残っている。顔だったり、声だったり、紙に書かれた名前だったり。
マセた少女の記録をそっと閉じ、SDカードを抜いた。
◇ ◇ ◇
翌日。オレは学校に着くなりすぐに篦河を見つけ、カードを返した。篦河の手首には絆創膏がペタっと貼ってある。包帯をしていないってことは、捻挫したわけじゃないのか?
「怪我、大丈夫なのか?」
篦河はこくりと頷いたが、カードを受け取ると同時に顔をしかめてオレを睨んだ。
「――見たね?」
「何を?」
「――もういいや、あたしはもうキミと心中するつもりで生かして貰うからね」
「はい?」
「あれ、本当に見てないのかな?ひへへ、危なかった~」
――ごめん、篦河。全部見てるんだわ。
「ひへへ、まあ、いいよ。あたしは君が見たという体で生きることにしようかな~?」
やめろ。心の底からやめろ。こいつの前で不用意な発言は身を滅ぼす。正直喋らないようにした方が無難なのかなとも思う。
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