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僕の叔母だという知らない人の車の窓から見える知らない街の景色はとても無機質で
8月なのに寒々としていてまるでこの町で過ごすであろう日々を予見しているかのようだった。

国道沿いにチェーン店がぼんやりと並ぶような退屈な街に住んでいる叔母の家に引き取られることが決まった時
僕はまだ小学5年生になったばかりだった。

僕の内向的な性格も加担したが、みんなはずっとこの町で暮らしてきていて、途中から入ってきた僕が友達を作るのは難しかった。

多くの内向的な子供がそうであったように、僕は孤独に耐えかねて、本を読むようになった。
そしてそれが僕の孤独を助長していた。
引っ越してすぐの6月、家の近くの国道沿いの再開発で、そこにファミリーレストランと本屋ができた、
友達がいなかった僕は世界から逃げ込むように本屋に通うようになった

「ねえ、さとうくんだよね?」
ある日、映画の宣伝に気を取られていたら、女の子から話しかけられた。
「え、  うん、、、」
慌てた僕はしどろもどろな返事をする。
知っている子だ。
クラスで一番背が高く、転校初日に自己紹介で壇上に立った時、そこからみえる彼女だけがひときわ輝いていて
彼女がこの町にいることに強烈な違和感を感じたことを覚えている。
彼女のような真夏のひまわり畑が似合う人間が、せいぜい深海がお似合いの僕みたいな人間が見えるのかと驚いた。

「もうここに慣れた?」
僕が首を振ると、彼女は嬉しそうな顔で「わたしも!」という。
小学四年生の時に父親の仕事の都合で東京から引っ越してきたらしい
それから彼女は僕に、この町が退屈だという話や、同級生が子供に見えるという話、好きな雑誌の話、
退屈になったらここに来ることなどを話してくれた。
彼女はここからすぐ近くの新興住宅地に住んでいるらしく、
本屋で僕が彼女に見つかるたびに彼女は僕に話しかけてきた、そして、ぼくたちは決まって彼女の家の近くの
宅地開発によって切り開かれた山の小高い丘の上に行き、そこで座って話すようになった

真っ白な売り家と、きれいな空き地ばかりが目立つような人工的な場所から見る僕たちの町はまるで大昔に絶滅した巨大な生物の死骸の上に作られているような不自然さと、死への近さがあり、その上を通る高速道路だけが、
それから逃れている唯一の存在のように感じた。
そして僕たちはこの町への悪口を通じて、仲を深めていった。


クラスでの彼女は僕とは対照的で、良く言えば自己肯定感が高く、悪く言えば高慢で
その態度が似たような友人を引き寄せていて、彼女はいつもその友人たちの中心にいた。
そんな彼女に話しかけられるようになっただけで、クラスメイトに下の名前をいまだに覚えてもらえないような僕が、
クラスメイトの目を見て話せないような僕が初めて世界から認識されたような、そんな気がした。彼女は僕にとっての世界だった。

小学六年生の秋、彼女が一人で学校に来るようになった。
いつものように友達と靴箱の前で騒がず、俯いて登校してくる彼女を見た。
いつもはなんてことなかった彼女の鮮やかなピンクのランドセルが、急にグロテスクに思えた。
彼女はそれから小学校を卒業するまで、ずっと一人でいるようだった。理由はわからなかったし、わかっていてもその頃の僕にはどうすることもできなかっと思う。
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