サルヴィーニャ

６

６－６

　名残惜しいが微笑み、エルカノハは精霊から離れる。
精霊も立ち上がり男性の方を向くと、彼は既に立ち上がりこちらをうかがっていた。

『これから森を抜けて集落へ向かいます。少し歩いた先に待たせている馬に乗り移動します。何か準備は要り様ですか』

　精霊がエルカノハに視線を向けるので、エルカノハは小首を傾げて考える。

　手元にある杖と肩から下げた水筒、他に何かあったかしら。
ああ、精霊様方がご一緒ならどんなに心強いことか。でも頼ってばかりでは駄目ね。人の地のことは私自身の手で出来る限りで何とかしなければ。

　決意も新たにカガイロンと名乗った男性に向き直るも、色とりどりの毛玉の精霊たちがいくつも湧くように出てきて、手に手に持ってきた木の実を押し付けてくる。
　エルカノハはしゃがみ込み、精霊たちがそれぞれ一つずつ持ってきてくれた木の実を膝の上、衣の前部分に乗せていく。

　まあ、お餞別でしょうか。ありがとうございます。大切に持っていきますね。

　木の実を乗せた衣の前部分を摘まみ立ち上がったエルカノハに、カガイロンが見かねて革袋を差し出してくれるが、精霊たちがそれに入れるのを拒んだ為、エルカノハの衣の襞に縫い込まれている隠し部分に木の実をぎゅうぎゅうに押し込めた。


　名残を惜しみに惜しみながら毛玉の精霊たちと別れ、人型の精霊とも視線を合わせて別れを告げると、エルカノハはカガイロンについて歩き出した。

　毛玉の中に赤紫が見えなかった。嫌われてしまったのかもしれないと思うと涙が出そうになったが、きちんと成すべきことを成し遂げてからまたお会いして、お話ししようと心に決め、前を向いて歩き出した。

　カガイロンが手を差し伸べてくれたが断り、杖を付いて一人で歩いた。自分の意志で森を出るのだ。そしていつか自分の意志で森へ帰る。その時に恥ずかしくないような自分でありたい。そうあればきっと精霊様方がご心配なさっているようなことにはならないでしょう。

　ふと振り返ると、遠くにまだ精霊がこちらを向いて立っているのが見えた。

　精霊様方、いってまいります。

　エルカノハは笑顔で大きく手を振り、また前を向くともう振り返らなかった。