サルヴィーニャ

にわとうこ

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 慌てて隠れた木の後ろでエルカノハは考える。

 どうしましょう。この方と会話をしようにも声が出なくては、私が誰かも伝えることができないわ。それとも精霊様方のように、私が考えたことがあの方にも伝わるのかしら。
 もしかしたら私のことは見ていなかったかもしれないし、少し様子を見た方が良いのかしら。

 とにかく息を殺してじっとしながら気配を窺っていると、重い鎧の足音がこちらへ向かってくる。そしてエルカノハが隠れる木の反対側で立ち止まると、がしゃんと音を立てて片膝をついた。

 やはり姿を見られていたのね。私がここにいることもすっかりご存知でいらっしゃるわ。

 木の幹に手を当てて顔を半分だけ出してそちらを窺うと、地面に片膝をついた男性は鎧の面当てを上げており誠実そうな表情でこちらを見ていたが、エルカノハを見て何かに驚いたようであった。

 私の名前はエルカノハです。あなたのお名前を教えてくださいますか。

『小さなお嬢さん、出ておいで。こんな危険な森の奥へ、どこからどうやって来たのかな』

 どうやら心の声はこの男性には通じていないようであった。
 エルカノハは木の幹からもう少しだけ顔と体を現し、手の指を喉に当て、口を何度か開いたりして男性の顔を見た。

『そうか、声が。困ったな。話もできかねる。親御か、ご同行の方は近くにおられるのか』

 まあ、この方もモイロニ様のように古語を話されるのね。
 誰か近くにいるかと聞かれているようだけれど、ちょっと言葉が分かり辛いわ。言葉の話せる人が近くにいないかということかしら。ああ、わかったわ。保護者が一緒にいないのかと聞いてくださったのね。

 エルカノハが首を縦に振ると、男性は少し安心した様子だった。

『そうか。ではその方が戻られるまで、私が傍にあろう』

 その必要はないと首を今度は横に振ったが、理由を説明できない。

 森の中に子どもが一人でいたら、見過ごせるはずがないものね。
 でも困ったわ。精霊様方はすぐ傍におられるはずなのだけれど、どうやったらこの方に伝わるのかしら。精霊様方ほど、お傍におられて安心な方々もないというのに。

 木の後ろから出てこないエルカノハに焦れたのか、男性が立ち上がり一歩こちらへ踏み出そうとしていた時、エルカノハの目と鼻の先にぶわりと布が現れて翻った。

『人の子よ。吾の愛し子にそれ以上近づくな』
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