47 / 78
6
6-3
しおりを挟む
慌てて隠れた木の後ろでエルカノハは考える。
どうしましょう。この方と会話をしようにも声が出なくては、私が誰かも伝えることができないわ。それとも精霊様方のように、私が考えたことがあの方にも伝わるのかしら。
もしかしたら私のことは見ていなかったかもしれないし、少し様子を見た方が良いのかしら。
とにかく息を殺してじっとしながら気配を窺っていると、重い鎧の足音がこちらへ向かってくる。そしてエルカノハが隠れる木の反対側で立ち止まると、がしゃんと音を立てて片膝をついた。
やはり姿を見られていたのね。私がここにいることもすっかりご存知でいらっしゃるわ。
木の幹に手を当てて顔を半分だけ出してそちらを窺うと、地面に片膝をついた男性は鎧の面当てを上げており誠実そうな表情でこちらを見ていたが、エルカノハを見て何かに驚いたようであった。
私の名前はエルカノハです。あなたのお名前を教えてくださいますか。
『小さなお嬢さん、出ておいで。こんな危険な森の奥へ、どこからどうやって来たのかな』
どうやら心の声はこの男性には通じていないようであった。
エルカノハは木の幹からもう少しだけ顔と体を現し、手の指を喉に当て、口を何度か開いたりして男性の顔を見た。
『そうか、声が。困ったな。話もできかねる。親御か、ご同行の方は近くにおられるのか』
まあ、この方もモイロニ様のように古語を話されるのね。
誰か近くにいるかと聞かれているようだけれど、ちょっと言葉が分かり辛いわ。言葉の話せる人が近くにいないかということかしら。ああ、わかったわ。保護者が一緒にいないのかと聞いてくださったのね。
エルカノハが首を縦に振ると、男性は少し安心した様子だった。
『そうか。ではその方が戻られるまで、私が傍にあろう』
その必要はないと首を今度は横に振ったが、理由を説明できない。
森の中に子どもが一人でいたら、見過ごせるはずがないものね。
でも困ったわ。精霊様方はすぐ傍におられるはずなのだけれど、どうやったらこの方に伝わるのかしら。精霊様方ほど、お傍におられて安心な方々もないというのに。
木の後ろから出てこないエルカノハに焦れたのか、男性が立ち上がり一歩こちらへ踏み出そうとしていた時、エルカノハの目と鼻の先にぶわりと布が現れて翻った。
『人の子よ。吾の愛し子にそれ以上近づくな』
どうしましょう。この方と会話をしようにも声が出なくては、私が誰かも伝えることができないわ。それとも精霊様方のように、私が考えたことがあの方にも伝わるのかしら。
もしかしたら私のことは見ていなかったかもしれないし、少し様子を見た方が良いのかしら。
とにかく息を殺してじっとしながら気配を窺っていると、重い鎧の足音がこちらへ向かってくる。そしてエルカノハが隠れる木の反対側で立ち止まると、がしゃんと音を立てて片膝をついた。
やはり姿を見られていたのね。私がここにいることもすっかりご存知でいらっしゃるわ。
木の幹に手を当てて顔を半分だけ出してそちらを窺うと、地面に片膝をついた男性は鎧の面当てを上げており誠実そうな表情でこちらを見ていたが、エルカノハを見て何かに驚いたようであった。
私の名前はエルカノハです。あなたのお名前を教えてくださいますか。
『小さなお嬢さん、出ておいで。こんな危険な森の奥へ、どこからどうやって来たのかな』
どうやら心の声はこの男性には通じていないようであった。
エルカノハは木の幹からもう少しだけ顔と体を現し、手の指を喉に当て、口を何度か開いたりして男性の顔を見た。
『そうか、声が。困ったな。話もできかねる。親御か、ご同行の方は近くにおられるのか』
まあ、この方もモイロニ様のように古語を話されるのね。
誰か近くにいるかと聞かれているようだけれど、ちょっと言葉が分かり辛いわ。言葉の話せる人が近くにいないかということかしら。ああ、わかったわ。保護者が一緒にいないのかと聞いてくださったのね。
エルカノハが首を縦に振ると、男性は少し安心した様子だった。
『そうか。ではその方が戻られるまで、私が傍にあろう』
その必要はないと首を今度は横に振ったが、理由を説明できない。
森の中に子どもが一人でいたら、見過ごせるはずがないものね。
でも困ったわ。精霊様方はすぐ傍におられるはずなのだけれど、どうやったらこの方に伝わるのかしら。精霊様方ほど、お傍におられて安心な方々もないというのに。
木の後ろから出てこないエルカノハに焦れたのか、男性が立ち上がり一歩こちらへ踏み出そうとしていた時、エルカノハの目と鼻の先にぶわりと布が現れて翻った。
『人の子よ。吾の愛し子にそれ以上近づくな』
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー
ジミー凌我
ファンタジー
日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。
仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。
そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。
そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。
忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。
生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。
ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。
この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。
冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。
なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
凡人がおまけ召喚されてしまった件
根鳥 泰造
ファンタジー
勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。
仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。
それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。
異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。
最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。
だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。
祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。
転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます
藤なごみ
ファンタジー
※コミカライズスタートしました!
2024年10月下旬にコミック第一巻刊行予定です
2023年9月21日に第一巻、2024年3月21日に第二巻が発売されました
2024年8月中旬第三巻刊行予定です
ある少年は、母親よりネグレクトを受けていた上に住んでいたアパートを追い出されてしまった。
高校進学も出来ずにいたとあるバイト帰りに、酔っ払いに駅のホームから突き飛ばされてしまい、電車にひかれて死んでしまった。
しかしながら再び目を覚ました少年は、見た事もない異世界で赤子として新たに生をうけていた。
だが、赤子ながらに周囲の話を聞く内に、この世界の自分も幼い内に追い出されてしまう事に気づいてしまった。
そんな中、突然見知らぬ金髪の幼女が連れてこられ、一緒に部屋で育てられる事に。
幼女の事を妹として接しながら、この子も一緒に追い出されてしまうことが分かった。
幼い二人で来たる追い出される日に備えます。
基本はお兄ちゃんと妹ちゃんを中心としたストーリーです
カクヨム様と小説家になろう様にも投稿しています
2023/08/30
題名を以下に変更しました
「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきたいと思います」→「転生しても実家を追い出されたので、今度は自分の意志で生きていきます」
書籍化が決定しました
2023/09/01
アルファポリス社様より9月中旬に刊行予定となります
2023/09/06
アルファポリス様より、9月19日に出荷されます
呱々唄七つ先生の素晴らしいイラストとなっております
2024/3/21
アルファポリス様より第二巻が発売されました
2024/4/24
コミカライズスタートしました
2024/8/12
アルファポリス様から第三巻が八月中旬に刊行予定です
魔力無しだと追放されたので、今後一切かかわりたくありません。魔力回復薬が欲しい?知りませんけど
富士とまと
ファンタジー
一緒に異世界に召喚された従妹は魔力が高く、私は魔力がゼロだそうだ。
「私は聖女になるかも、姉さんバイバイ」とイケメンを侍らせた従妹に手を振られ、私は王都を追放された。
魔力はないけれど、霊感は日本にいたころから強かったんだよね。そのおかげで「英霊」だとか「精霊」だとかに盲愛されています。
――いや、あの、精霊の指輪とかいらないんですけど、は、外れない?!
――ってか、イケメン幽霊が号泣って、私が悪いの?
私を追放した王都の人たちが困っている?従妹が大変な目にあってる?魔力ゼロを低級民と馬鹿にしてきた人たちが助けを求めているようですが……。
今更、魔力ゼロの人間にしか作れない特級魔力回復薬が欲しいとか言われてもね、こちらはあなたたちから何も欲しいわけじゃないのですけど。
重複投稿ですが、改稿してます
辺境伯令嬢に転生しました。
織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。
アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。
書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。
転移したらダンジョンの下層だった
Gai
ファンタジー
交通事故で死んでしまった坂崎総助は本来なら自分が生きていた世界とは別世界の一般家庭に転生できるはずだったが神側の都合により異世界にあるダンジョンの下層に飛ばされることになった。
もちろん総助を転生させる転生神は出来る限りの援助をした。
そして総助は援助を受け取るとダンジョンの下層に転移してそこからとりあえずダンジョンを冒険して地上を目指すといった物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる