サルヴィーニャ

にわとうこ

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 初めて魔に触れた者を解放した後、エルカノハは精霊たちと小屋へ戻り、少し深めの大皿に水を張ったところへ帰り道に採ってきた色とりどりの花を浮かべ、木の実や果物、香草で卓の上を飾りつけた。

 精霊の皆さま、今日はまことにありがとうございました。おかげさまで魔に触れた者を解放することができました。ささやかですがここに感謝の品を捧げます。どうぞおくつろぎください。

 卓の上に色とりどりの小さな毛玉精霊が現れて、花や香草に囲まれて小さな両手で木の実を持って齧る姿などは実に愛おしく、また花を浮かべた水に浸かったり、どういう摂理かその水の上に立っていたりする姿などもあった。

 精霊さま方、これからもてなしの舞をいたします。よろしければお楽しみください。

 エルカノハはかつて神殿で執り行っていた精霊への感謝の祈りの祭事を簡素ながらも再現していた。布が翻る様が優美な衣装や装飾もなければ、輝石で飾り立てた錫杖もなかったが、素朴な木の杖を手に舞う姿は真摯で、精霊たちを喜ばせた。


『我の本意ではない。しかしそれが汝の望みなら叶えよう。杖をこちらへ』

 エルカノハは舞いながら解放に当たっての精霊の言葉を思い返していた。
神殿で舞う時は無心であることを心掛けていたが、解放を終えてまだ間もない今はそれも難しく、ざわめき溢れる心の思いを止めぬままに舞っていた。

 精霊様は御本意でないにも関わらず、私のやりたいことだからとお助けしてくださった。なぜ精霊様は私にここまで優しく接してくださるのかしら。
 そもそも精霊様の御本意は、御本意に応えるにはどうすれば良いのかしら。

 様々な疑問が頭を過るが、ふわりふわりと回りながら卓の方を窺うと、精霊たちが小さな盃型の花に水を入れて飲んでいる姿や、香草を杖の代わりにしてエルカノハの真似をして回っている姿などがすっかり宴会風で、もてなしの品や舞を楽しむような様子に心が和んだ。まるでお伽噺のような森の宴会風景に心が高揚し、胸が温かくなり、嬉しくなって笑顔で舞っていた。

 案外に簡単な理由なのかもしれないわ。
精霊様方が私という理の異なる小さな存在を、それが例えばうじうじとして行動するのでも、いじましく好ましいとでも感じてくださっているのだとしたら、私の存在価値も少しはあるのかもしれないと思えてくるわね。
 ふふ、皆様方が手放しに甘やかしてくださるから、私の自己肯定感がむやみに高まってしまうわ。

 いつも他の精霊を煙たそうに扱っている赤紫の精霊が、他の精霊達が楽しそうにくつろぐ姿に、満足そうにしているのを見て、また嬉しくなった。

 あなた方が嬉しいと私も嬉しい。
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