サルヴィーニャ

にわとうこ

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 エルカノハは小さい毛玉の精霊たちと共に小屋へ戻ってきていた。
あれからしばらく話をしたものの、精霊たちは気まぐれで、簡単な単語以外は発しなかったり、また質問への返答があっても抽象的な表現だったり曖昧で、エルカノハが抱く「なぜここへ来たのか」という疑問は解決されないままであった。
 それでもいくつかわかったことがある。精霊はどこにでもいて、何にでもなれて、時間の概念はあまりないようだ。なぜかエルカノハを好んでいる。神殿での祈りをいつも聞いていたという。水や火や風を自在に操り、恐らくエルカノハがここの森を歩く時には枝払いもしてくれている。黒い虫を粉々にして、手の傷を治した。

 私はいったいなぜここへ来たのかしら。
モイロニ様、私はここで何を成せば良いのでしょうか。

『ようやく呼んだか。そなたはなかなかに我慢強い娘であるのだな。
ところで妾が前に話したことを覚えているかの」
大神官モイロニが音もなく現れた。

 モイロニ様。またお会いできて嬉しゅうございます。
 前回のお話は途中からあまりよくわからなかったのです。この小屋を使ってよいことと、精霊様方が私を助けてくださるということがわかったぐらいです。

『そうか。では改めてそなたに伝えよう。
誰とも口をきかず、魔に触れた者を百三十七体解放すれば、元の体に戻れるであろう』

 魔に、触れた者、ですか。それはいったい。

『遭遇したばかりのようだの。手に跡が見える』

 森で黒い虫が手に触れたことを思い出し、手の甲を撫ぜるが傷跡もなく治っている。

 魔に触れた者。あれが、魔に触れた者。つまり解放できるのですね。何をすれば解放できるのでしょうか。

『それはそなたしだいであろうな。やり方は今の通り、精霊をうまく使うがよかろう』

 百三十七、解放すれば、元の体に戻れる。元いた場所へ戻れますか。

『そなたには成してほしいことがある。今はその前段階なのだ。
まずは精霊と心を通じ合わせ、そなたの願う通りに事を成せるか、いろいろと試すがよい。
精霊の力は強すぎるのでな。慎重に手綱を引くのがよかろう」

 ええと、難しい言葉が多くて全て理解したとは言い難いのですが、努力いたします。
ところで、なぜ私が呼ばれたのでしょうか。

『そなたほど精霊に愛されるものはない。
そなたの心の在り方は美しく、その心が放つ光は精霊を惹きつけてやまぬ。
精霊の愛し子よ。そなたに成してほしいことがある。元の体に戻れたら詳しく話そう』

大神官モイロニは、話を終えると体がゆらぎそのまま姿を消した。
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