サルヴィーニャ

２

２－９

　痛めた手足のせいか熱を出し寝台で二日も過ごした後、寝台から出る許可をようやくノイエラからもらえた朝、エルカノハは起きるとすぐに動きやすい服に着替えて訓練場へ向かった。

　訓練場ではすでに数人がいて、やってきたエルカノハを見て驚いた顔をしたが、すぐに朗らかに笑いながら次々に声をかけてくる。

「エルさま、この間はすごかったですね。まさかあの剣を持ち上げられるとは思わなかったですよ」

「もっとたくさん食べないとだめっすよ」

　この方々はあれよりさらに重いという剣を取り回し、その為にも毎日こうして体を鍛えておられるのだとエルカノハは改めて気づかされた。自分の非力さが恥ずかしい。何と答えたらよいのかわからず、つい俯きそうになったところに後ろから声がかかる。

「怪我はもう良いのか」

「怪我はもう問題ありません。先日はお恥ずかしいところをお見せいたしました。あの剣はやはり私には重すぎたようです。ガルダンド様にも改めてお詫びしたいと思ったのですが」

「詫びの必要はない。俺こそ、近くについていながら怪我までさせて悪かったな」

　ちょうど出てきていたガルダンドがそう言うと、エルカノハは慌てて首を横に振ったが、何か言う前に集まってきていた男達が笑って話し始める。

「しかしあれは驚いたよな。もう少しで剣がお顔に落ちるかと思った。ガルダンド様も血相変えて叫んでたな」

「そんで、ノイエラちゃんが怖いのなんのって」

　男たちはゲラゲラと笑っていたが、一人また一人とエルカノハに気づいて息を飲む。

　エルカノハが一緒になって笑っていた。ゲラゲラとはいかないが、薄衣を外してからも伏目がちの無表情でうつむいてばかりいるところしか見せていなかった美少女がふんわりとほほ笑むその姿の破壊力に、ガルダンドも一瞬息を飲んでいると、門兵長のフラントがヘラヘラと笑いの交じる声で言う。

「お前ら、エルさまの笑顔があんまりに可愛いからって、余計な事したら承知しないからな。俺はともかくガルダンド様やノイエラちゃんの目をかいくぐれるなどと思うなよ」

　フラントの部下の若い門兵がつられて笑いながら言う。
「それは無理っぽいっすね。でもほら、エルさまから望まれたりしたら、ねえ」

　後ろからノイエラの凍える声がした。

「それはありえませんね。今度そのような発言を聞いたら絞めます」

　若い門兵が恐怖の声を上げ、周りがどっと笑った。
　エルカノハも笑っている。ここは笑顔の温かい人たちが、優しい気を遣う人たちがいるところだと思った。