サルヴィーニャ

にわとうこ

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 都から護衛してきた騎士たちの様子を伺い、労いと帰る者たちへ別れの言葉を告げた後、昼食の前に居間へと向かうと前日に顔を合わせたオノウクがおり、現れたエルカノハを見て破顔した。

「昨夜はゆっくりお休みいただけたようで安心いたしました。お疲れが少しは取れましたでしょうか」

「おかげさまで。ゆっくりしすぎて朝も寝過ごしてしまいました。昨夜は晩餐に出られず申し訳もございません」

 そこに大きな足音を立てて入ってきた者がおり、大声がする。

「おお、こちらが姫君か。なんと、布を被って生活しているのか。不便ではないのか」

 思わず前に出ようとするノイエラを手で制し、エルカノハは薄衣を上げてそちらを向いた。

「ワラストリご領主でいらっしゃいましょうか。私はエルカノハと申します。昨日は晩餐にてお目にかかるはずがかなわず、大変失礼をいたしました。改めて挨拶いたします。
 この度は突然の申し出にも関わらず、滞在をお許しくださりまことに感謝いたします。また前領主のことは、誠に残念でございました」

「ああ、いい、いい。堅苦しい挨拶は不要だ。
 俺は仮の領主なのだ。前領主の長男が成人するまで対外的には領主となっているが、実際の取り仕切りなどは全てこのオノウクが担っている。俺はただのガルダンドだよ」

「では私はただのエルカノハですね。どうぞよろしくお願いいたします」

 下げていた頭を上げ、見上げるようになったエルカノハの顔を正面から見下ろしたガルダンドは、そのあまりの美しさに思わず息をのんだ。

 エルカノハはするりと薄衣を下ろし、ふわりと礼をしながら一歩下がる。

「お目汚しをいたしました。昼食は自室でいただきますので、失礼いたします」

 くるりと踵を返して退出しようとするのを、ガルダンドは慌てて止めた。

「お目汚しだと。姫君はご自分の見た目の威力をわかっていないのか」

 数々の無礼な物言いにそれまでエルカノハの後ろからまるで親の仇を見るかのようにガルダンドをきつく睨みつけていたノイエラが、表情は変わらぬままで大きく頷く。

「皆が私の顔を見ると息をのみ、目を逸らすのです。そんなに二目と見られぬ程でしょうか」

「まいったな。こんなに美しい人は見たことがないぐらいだというのに。しかし自覚がないとは危険すぎる。だが布を被ったままで一生暮らすのか」

 ガルダンドはエルカノハに布を被らず生活するように進言し、城の者には簡単に事の経緯を説明した。
 それからエルカノハは薄衣を被らずにいたが、何日経っても与えられた客室から出てこないままであった。
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