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2◆宝玉は返せません

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マスターは、死に際に願った。

俺に生きてほしいと……。

たとえ、俺が一人になってしまっても、それでも生きられないマスターの代わりに生きてほしいと……。

そして、いつか愛し愛される幸せというものをみつけてほしいと……。

マスターは微笑み、眠るような穏やかさで……亡くなった。

マスターは、瞳から溢れ出るものが涙だと昔教えてくれた。

だから俺は、俺の瞳から溢れ出るそれが涙であるとわかっている。



「返してくれないか?私の宝玉を」

「っ!!」

宝玉は……返せない。

たとえこの男の物だったのだとしても、返すことはできない。

マスターの願いを、俺は守りたいから。

俺が一人ぼっちで孤独だとしても、生きなくてはいけない。

……それにまだ、マスターのもう一つの願いである愛し愛される幸せをみつけていない。

だから、絶対に宝玉は返せない。

男……リューレンと名乗る者が宝玉の持ち主だとは、なんとなくわかる。

だって、宝玉がリューレンに反応しているのか人間の心臓みたいな鼓動をしているから。

普段は鼓動なんてしないのに……。

それに、リューレンの色白の肌、白い長髪、赤と黄色のオッドアイ……俺を大人にしたようなその姿。

……昔マスターが言っていた。

俺は、本当は青い瞳の金髪になる予定だったらしい。

でも、宝玉を使ったら何故か今の見た目になってしまったそうだ。

もしかして、宝玉の持ち主だったリューレンに見た目が強制的に寄ってしまったのかもしれない。

「返せません。返したら、俺は……」

「お前はオートマタだろう。無理矢理奪っても良いのだがな」

「やっ、やめてっ!!」

「……」

俺は身を守るように自身を抱きしめて、リューレンから距離を取るが俺は壁まで追い詰められてしまい、逃げ場がなくなってしまった。

「仕方ない。お前を連れ帰る。お前が宝玉を返すまで手元に置くとしよう」

「!?い、嫌です!俺は、ここを離れたくない!!」

「では宝玉を返すか?」

「それは……」

冷たい眼差しが俺を射ぬくが、俺はやっぱり宝玉を返すという選択は選べなかった。

「暴れられては困るからな。しばらく静かにしてもらう」

「あ……」

リューレンが何かしたのか、急激に眠くなって立っていられない。

倒れてしまった俺をリューレンは抱き寄せてくれたから、痛い思いをせずにすんだ。



「マスター……ごめん…なさい………」

マスターと暮らした家から連れて行かれてしまうことに、俺はもういないマスターに謝罪をした。
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