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番外編
カール視点【前世はカルマ
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前世なんてものがあるならば、きっと私は前世の記憶があるのだろう。
曖昧なその記憶は、大切なものが欠けている。
何が欠けているのかはわからないのだが……。
ただ、その欠けたものが恋しくて堪らない。
きっとそれは、失ってはいけないものだったのだろう。
なのに……どうしてその一番大切なものは欠けているのだろうか……。
私はカール、とある国の伯爵家令息である。
毎日がただただつまらない日々で、私は色褪せている日常に嫌気が差していた。
でも、その日常を捨てるわけにはいかないと思って耐えている。
そんなある日、私の父が友人の貴族の隠し子だという子を私の従者にと連れてきた。
その友人は、隠し子の件が妻にバレて修羅場らしく……避難という意味も込めて預かることになったのだとか……。
まったく、何をしているのか……。
だが、子に罪はない。
むしろ、その生まれから寂しい思いや苦労なんかもあっただろう。
私は、その子をできるだけ気にしてやることに決めた。
そして、いざ御対面となったのだが……。
名はフランシスというらしい。
なんというか……。
「どこかであったことないか?」
「……それは、ナンパでしょうか?」
おっとりしている儚い系美人、そんな印象の彼。
フランシスのいる空間だけが世界に初めて色彩を彩る。
モノクロだった世界に、フランシスという色だけが強く輝き私を魅了した。
耐えられない衝動が私を動かし、私は父がいるのもお構い無しにフランシスにキスをしてしまった。
「!?」
「好きだ」
「……僕は貴方の従者になります故、お望みならばこの身も捧げましょう」
「違う!私はそんな意味で言っていない!」
「僕からすれば、貴方は高嶺の花。僕のような者は、その高貴さを崇めるしかありません」
「……」
私は、生まれて初めて強くほしいと思った存在に、静かに拒絶されてしまった。
それから、私は毎日フランシスに愛してると伝え続けた。
そして気付いたのだが、フランシスは別に私を嫌がってはいないようだ。
むしろ、身分を気にして分をわきまえているだけのようなのだ。
だとしたら……その本心は?
私を……本心では私を、愛してくれているだろうか。
心が、魂が、フランシスを求めて仕方ない。
まるで、それは欠けた何かのような………。
『………様』
彼の笑顔が、【彼】の笑顔と重なる。
『どうか、忘れて』
【彼】の切ない願いが、私の魂に刻まれている。
私は……お前を忘れないと誓ったはずだ。
なのに……。
今、思い出した。
私の前世の欠けたものが、何かやっとわかったよ。
「私のフランシス、私はお前を思い出したよ。お前は、私を忘れたか?」
「!!」
「その反応……やはり、記憶はあるようだな?私の愛しいフラン」
「……カルマ様、思い出したのですね」
「もう私はただの人間、だからフラン、いやフランシス、お前と愛しあっても許されるんだ」
「しかし、身分の壁が……」
「そんなもの、恋愛そのものが禁忌よりよっぽどどうとでもなるさ」
「……それもそうですね」
「フランシス、愛してる」
「はい。僕も愛してます。前世からずっとずっと、愛してます」
フランシスは、私を拒む理由がなくなったから素直に愛を受け入れてくれる。
フランシスと結ばれるためなら、なんでもしてやろう。
そう思った私は、フランシスの親に婚約の打診をした。
ちょうど奥さんが旦那さんの背中に座って(え?)話を聞いてくれて、上手く丸め込んですんなりとフランシスを婚約者にできた。
思ったより苦労しなかったなと思いながら、1年という婚約期間の後に私達は結婚したのだった。
完
曖昧なその記憶は、大切なものが欠けている。
何が欠けているのかはわからないのだが……。
ただ、その欠けたものが恋しくて堪らない。
きっとそれは、失ってはいけないものだったのだろう。
なのに……どうしてその一番大切なものは欠けているのだろうか……。
私はカール、とある国の伯爵家令息である。
毎日がただただつまらない日々で、私は色褪せている日常に嫌気が差していた。
でも、その日常を捨てるわけにはいかないと思って耐えている。
そんなある日、私の父が友人の貴族の隠し子だという子を私の従者にと連れてきた。
その友人は、隠し子の件が妻にバレて修羅場らしく……避難という意味も込めて預かることになったのだとか……。
まったく、何をしているのか……。
だが、子に罪はない。
むしろ、その生まれから寂しい思いや苦労なんかもあっただろう。
私は、その子をできるだけ気にしてやることに決めた。
そして、いざ御対面となったのだが……。
名はフランシスというらしい。
なんというか……。
「どこかであったことないか?」
「……それは、ナンパでしょうか?」
おっとりしている儚い系美人、そんな印象の彼。
フランシスのいる空間だけが世界に初めて色彩を彩る。
モノクロだった世界に、フランシスという色だけが強く輝き私を魅了した。
耐えられない衝動が私を動かし、私は父がいるのもお構い無しにフランシスにキスをしてしまった。
「!?」
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「違う!私はそんな意味で言っていない!」
「僕からすれば、貴方は高嶺の花。僕のような者は、その高貴さを崇めるしかありません」
「……」
私は、生まれて初めて強くほしいと思った存在に、静かに拒絶されてしまった。
それから、私は毎日フランシスに愛してると伝え続けた。
そして気付いたのだが、フランシスは別に私を嫌がってはいないようだ。
むしろ、身分を気にして分をわきまえているだけのようなのだ。
だとしたら……その本心は?
私を……本心では私を、愛してくれているだろうか。
心が、魂が、フランシスを求めて仕方ない。
まるで、それは欠けた何かのような………。
『………様』
彼の笑顔が、【彼】の笑顔と重なる。
『どうか、忘れて』
【彼】の切ない願いが、私の魂に刻まれている。
私は……お前を忘れないと誓ったはずだ。
なのに……。
今、思い出した。
私の前世の欠けたものが、何かやっとわかったよ。
「私のフランシス、私はお前を思い出したよ。お前は、私を忘れたか?」
「!!」
「その反応……やはり、記憶はあるようだな?私の愛しいフラン」
「……カルマ様、思い出したのですね」
「もう私はただの人間、だからフラン、いやフランシス、お前と愛しあっても許されるんだ」
「しかし、身分の壁が……」
「そんなもの、恋愛そのものが禁忌よりよっぽどどうとでもなるさ」
「……それもそうですね」
「フランシス、愛してる」
「はい。僕も愛してます。前世からずっとずっと、愛してます」
フランシスは、私を拒む理由がなくなったから素直に愛を受け入れてくれる。
フランシスと結ばれるためなら、なんでもしてやろう。
そう思った私は、フランシスの親に婚約の打診をした。
ちょうど奥さんが旦那さんの背中に座って(え?)話を聞いてくれて、上手く丸め込んですんなりとフランシスを婚約者にできた。
思ったより苦労しなかったなと思いながら、1年という婚約期間の後に私達は結婚したのだった。
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