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37◆人質の僕

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マリウスを切り裂こうとする刃に、もうダメだと思った。

しかし、奇跡は起きる。

「エスター!」

「やらせはせん!」

マリウスに迫った刃を、突然光と共に現れたエスターが剣で受け止めたのだ。

「エスター、どうしてここに?」

「わからん!しかし、謎の声に二人がピンチだから助けてくれと言われ、光ったと思ったらここにいた。一体これは何事なのだ!?」

まるで物語の主人公のような登場だったが、マリウスが無事で僕は安心した。

すると、それまで殴られた節々が遅れて痛みを訴えだす。

いたるところが痛いが、そんなことよりなんとかこのアイレンとヒスイから逃げないといけない。

僕はあんまり賢くはないけれど、状況的にきっと皆フランに操られているんだろう。

魔法のある世界なんだから、人を操る魔法だってきっとあるはずだ。

もし僕を人質にして、エスターとマリウスが強制的に無抵抗にされたら大変だ。

二人のことだから、僕が人質になったら迷わず無抵抗になる気がする。

僕のせいで二人が死ぬぐらいなら僕を殺せ!!

そう思うけれど、フランの言動からそれでは意味がないのだと思う。

……言ってる内容の意味はまったく理解できなかったけれど。美味に堕ちるって何?

「邪魔をされるのですか……?何故……。僕は貴方のために、アナタのために……?僕は、どうして。貴方はこんなこと……。アナタのために成し遂げなくては……」

さっきまでの余裕はどうしたのか、急にフランはブツブツと混乱する。

するとアイレンとヒスイの僕を拘束する手が緩んで、僕はなんとか藻掻いて逃げだすことに成功した。

そして、フランの混乱と共に動きを止めた皆をみて、フランを倒せばエスターとマリウスを助けられると思った僕は、落ちていた剣を拾ってフランに切りかかる。

しかし、剣は思っていたより重くて僕は大きく空振りしてしまった。

「……僕は尊き方のモノ。その僕を傷つけようとは、なんと愚かな。けれど君は僕、最高の最後の美食として全てを捧げるなら、愚かな行いもきっとお許しくださるでしょう。何故なら僕をアイしてくれているから」

僕にニッコリと微笑んだフランは、僕の手首を掴み後ろ向きに拘束されてしまう。

そして近くにいた使用人がナイフを僕の首に向ける。

「この子を大事に思うなら、抵抗はしないほうがいいですよ」

うわー!やっぱり人質にされたーーっ!

「離せ!痛っ!」

僕は暴れようとしたが、プスッとナイフの先端が首に刺さって血が垂れてしまったのがわかった。痛い……。

「「ヒジリ!!」」

焦るエスターとマリウス。

二人はやはり無抵抗になることを選んだらしく、武器を床に投げ捨ててしまう。

そんな……僕なんてどうでもいいよ。

「お願い……僕なんて助けないで……二人で逃げて……」

「ダメだよ!そんな悲しいこと言わないで!必ず助けるから!」

「諦めるな!私達を信じろ!」

もう絶体絶命。

そして無情にも皆の刃が無抵抗の二人に向いて……。



こんなに僕は無力で、愛する人を助けるところか、僕が理由で愛する人を危険に曝す。

守りたいのに守れない。

どうしたら、助けられるの?

どうしたら、守れるの?

……誰に願ったら、いいの?

流れた涙は雫となって落ちていく。

「……助け…て……誰か……お願い………」

長年、気の遠くなるほどの長年、言えなかった言葉が縋るように溢れた。
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