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73 玉座の間
しおりを挟む城内に入った俺達は、ダラスとアスターの後ろ姿を見ながら大人しく付いていく。
すれ違う兵士達に「こいつら誰だ?」と聞かれても、王の客人だと言ってそれ以上は言及させなかった。
俺達は小さな応接室に通され、しばらくここで待つようにと指示を受けた。
ダラスは謁見許可を取ってくると言って一人で部屋を出ていった。
応接室のソファに座る俺達とは別に、アスターは扉付近の壁に寄りかかって目を閉じていた。
その様子はかつて俺が軍にいた頃よく見ていた光景で、近寄りがたい雰囲気を出すのが得意なアスターの決まった待機姿勢だった。
だがそんなアスターの様子を意に介さず、カレンが近寄っていった。
「座らないのー?」
「……いい」
「足疲れちゃわない? 疲れたらいつでも言ってね! 私がどーん! と癒しちゃうから!」
「……あぁ」
カレンが積極的に話しかけるが、アスターは目を閉じたまま不愛想な返事。
どうしてこの人はこう人付き合いが下手なんだろうか。
でもこんなアスターでも近寄ってくる女性は多いんだろう。
じゃなきゃあのカレンが抱き着いた時の沈着冷静な態度なんて出来ないはずだし。
いいなぁ、と頭の中で呟きつつ俺の脳内には一人の魔族の少女の屈託のない明るい笑顔が浮かんでいた。
今頃ミーニャは仕事中かな、何してるのかなぁ、なんて思い、実に平和な脳内だった。
「待たせたな。許可が下りたぞ」
どれくらい待ったかは分からないが、案外すぐにダラスが部屋に戻ってきた。
アスターはダラスが帰ってきた瞬間に敬礼で直立しており、この人は根っこの底から軍人なのだなぁと改めて実感した。
そして俺達はそのまま玉座の間へと向かった。
重厚な玉座の間への扉が厳かに開き、高級なのは間違いないふかふかの絨毯が目の前に現れた。
そしてその先の玉座にはテイル王国現王ガイアの姿があった。
絨毯の上をゆっくり進んで行くと、玉座の間にはガイアしかいない事に気付いた。
ガイアの瞳はじっと俺達を射抜いているのだが、そこには何の感情も感じられない。
玉座の前に到達し、恭しく跪いて頭を下げた。
「ダラスよ。クロードが帰還したと聞いたが」
「は!」
淡々とした声が玉座の間に響き、頭を上げるように言われた。
「クロードとその仲間達でございます。今はこのサリアという者の術で変装しておりますが、この犯罪者風の男がクロードであります」
「なれば元の姿に戻るがよい」
ガイアのその一言を受けたサリアが指を弾くと、俺の体から何かが抜けたような感覚に襲われた。
「おお……クロードよ。よくぞ戻ってきてくれた!」
俺の変装が解けると、ガイアは「おお、おお……」と言いながら玉座から立ち上がった。
「お久しぶりでございます、陛下。ご健勝な様子で嬉しく思います」
「すまなかった」
「は?」
耳に届いたガイアの言葉に、一瞬思考が停止して何を言われたのかが理解できなかった。
「すまなかったなクロード。お前には非常に辛く苦しい思いをさせた。お前をそこまで追い込んでしまった事を深く謝罪したい」
ガイアの言葉をかみ砕き、咀嚼し、その意味を理解出来たが言葉が出て来ない。
「許してくれとは言わぬ。その言葉がどうして言えようか。今まで本当によく尽くしてくれた。心からの礼を言う、ありがとう」
「は……あの、え? いや……」
まくしたてるようなガイアの言葉に、一体どう反応したらいいのか分からずに言葉に詰まる。
叱責が飛んでくるものと思い込んでいたゆえに、謝罪と礼というガイアの言葉に不意打ちを喰らったような形だった。
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