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72 自己満足
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俺の静かな葛藤は誰にも知られる事なく、このままの足で王城へと直行することが決まってしまった。
一人あわあわしている俺を見ていたダラスがふと急に真面目な表情を作った。
そしてしばし目線を泳がせた後、ややぁと口を開いた。
「その、クロードよ」
「なんでしょうか」
「ほら、アレだよ。何て言えばいいか……」
「なんですか?」
「お前が国を出ていったのは軍の責任だと聞いている。そしてお前に対して何も気付かなかった俺自身も、悪いと思っている。すまなかった」
「え……でもさっき……」
「言いたい事はあるが謝らないとは、言っていないぞ」
「……屁理屈って言うんですよそういうの」
「そうだな。年を取るとどうもいけねぇ。で、よう。とりあえず一発、俺を殴れ。一発で気が済まないなら気が済むまで殴れ」
「……無理に決まってるじゃないですか。てか何をいきなり言い出すんですか。……今更」
「いいからなぐ」
そう言いかけたダラスの横っ面に、俺は思い切り固めた拳を全力で振り抜いた。
ドゴォッ! という鈍い音が鳴り、俺の拳に頬骨が当たる鈍い感触が伝わってきた。
不意打ちをモロに受けたダラスだったが、ぎりっと歯を食いしばり目を伏せていた。
横で見ていたカレンが「ひぇーいったそうー」と口をへの字に曲げて呟いていた。
「これで満足ですか。殴ってくれだなんて、アンタの自己満でしかないんだろ。アンタに責任があるなんて俺は思っちゃいないんです。何か一つ相談していれば変わっていたのかも知れない、けど、それが出来なかったのは俺のせいです。そうなるまで追い詰めた軍がとか、気にかけてくれなかったアンタがとか、不器用で人付き合いが下手なアスター将軍がとか、そうゆうのじゃないんです。全部です、全部悪かったんです。タイミングとか、感情とか、仕事とか、根本的に全部悪かったんですよ。だからアンタを殴ろうが殴るまいが、何も変わらないんです。それ以上でもそれ以下でも、ないんです」
「……そうか。だが、すまなかった」
「もういいです」
初めてこんなに全力で人を殴った。
握り締めた拳は震え、拳骨がずきずきと痛んだ。
誰のせいだとか、そういうのじゃあないのだ。
何が悪かったのかと言えば、今言った通り色々と全体的に悪かったのだ。
だから、
「もう、この話はやめましょう。今までの事じゃなくて、俺はこれからの話がしたいんです」
「……わかった」
ダラスはそう言うと、膝の上で手を組んで下を向いた。
「そろそろ着くぜ!」
そして外を見ていたダレクが機内に向けて声を上げ、つられて窓の外を見れば王城の威容が目に入った。
テイル王国から離れて数か月も経っていないのに、なぜか酷く長い間離れていたような気になり、とても懐かしく感じられた。
人気のない所を探し、そのまま着陸のアプローチを始めた。
「ねぇクロード」
「何ですか?」
さぁ外に出るぞといったタイミングでサリアが話しかけてきた。
「そのまま出て大丈夫なの? あなた、国からよく思われてないんじゃないの? 素顔むき出しで行ったら王に辿り着くまでに兵達に囲まれちゃうとかない?」
「あー……どうでしょう……分かりません」
「つまり何も考えてなかったって事ね。分かったわ。【チェンジ】」
サリアは呆れたように小さくため息を吐いたと思ったら、俺のおでこを軽く指で弾いた。
たったそれだけで俺の体がもやに包まれていく。
「どぅわっ! 何を!」
「何って、変化よ。変装しといたに越した事は無いわ」
「あ、ありがとうございます。これで変わってるん、ですか?」
「ばっちりよ。不安ならほら」
言われるがまま、サリアの懐から取り出された手鏡に自分の顔を映してみた。
するとその鏡に映っていたのは今までの俺ではなく、口元に大量のひげを生やしたいかつい顔をした中年のオッサンの顔が映し出されていた。
頬には大きな傷まであり、人を複数殺していると言われても納得出来そうな凶悪犯みたいな顔立ちだった。
「くくく……こりゃいいな。いかにも悪者って感じだ」
つい先ほど俺に殴られたばかりだというのにも関わらず、ダラスは俺の顔を見て愉快そうに含み笑いをしていた。
相変わらず切り替えが早いな。
アスターはずっと無言を貫き通していて、その表情は一言では言い表せられないほどに複雑な色を宿していた。
機内から外に出てリトルバードをリリースし、俺達はダラスに連れられるまま王城の中へと入って行った。
一人あわあわしている俺を見ていたダラスがふと急に真面目な表情を作った。
そしてしばし目線を泳がせた後、ややぁと口を開いた。
「その、クロードよ」
「なんでしょうか」
「ほら、アレだよ。何て言えばいいか……」
「なんですか?」
「お前が国を出ていったのは軍の責任だと聞いている。そしてお前に対して何も気付かなかった俺自身も、悪いと思っている。すまなかった」
「え……でもさっき……」
「言いたい事はあるが謝らないとは、言っていないぞ」
「……屁理屈って言うんですよそういうの」
「そうだな。年を取るとどうもいけねぇ。で、よう。とりあえず一発、俺を殴れ。一発で気が済まないなら気が済むまで殴れ」
「……無理に決まってるじゃないですか。てか何をいきなり言い出すんですか。……今更」
「いいからなぐ」
そう言いかけたダラスの横っ面に、俺は思い切り固めた拳を全力で振り抜いた。
ドゴォッ! という鈍い音が鳴り、俺の拳に頬骨が当たる鈍い感触が伝わってきた。
不意打ちをモロに受けたダラスだったが、ぎりっと歯を食いしばり目を伏せていた。
横で見ていたカレンが「ひぇーいったそうー」と口をへの字に曲げて呟いていた。
「これで満足ですか。殴ってくれだなんて、アンタの自己満でしかないんだろ。アンタに責任があるなんて俺は思っちゃいないんです。何か一つ相談していれば変わっていたのかも知れない、けど、それが出来なかったのは俺のせいです。そうなるまで追い詰めた軍がとか、気にかけてくれなかったアンタがとか、不器用で人付き合いが下手なアスター将軍がとか、そうゆうのじゃないんです。全部です、全部悪かったんです。タイミングとか、感情とか、仕事とか、根本的に全部悪かったんですよ。だからアンタを殴ろうが殴るまいが、何も変わらないんです。それ以上でもそれ以下でも、ないんです」
「……そうか。だが、すまなかった」
「もういいです」
初めてこんなに全力で人を殴った。
握り締めた拳は震え、拳骨がずきずきと痛んだ。
誰のせいだとか、そういうのじゃあないのだ。
何が悪かったのかと言えば、今言った通り色々と全体的に悪かったのだ。
だから、
「もう、この話はやめましょう。今までの事じゃなくて、俺はこれからの話がしたいんです」
「……わかった」
ダラスはそう言うと、膝の上で手を組んで下を向いた。
「そろそろ着くぜ!」
そして外を見ていたダレクが機内に向けて声を上げ、つられて窓の外を見れば王城の威容が目に入った。
テイル王国から離れて数か月も経っていないのに、なぜか酷く長い間離れていたような気になり、とても懐かしく感じられた。
人気のない所を探し、そのまま着陸のアプローチを始めた。
「ねぇクロード」
「何ですか?」
さぁ外に出るぞといったタイミングでサリアが話しかけてきた。
「そのまま出て大丈夫なの? あなた、国からよく思われてないんじゃないの? 素顔むき出しで行ったら王に辿り着くまでに兵達に囲まれちゃうとかない?」
「あー……どうでしょう……分かりません」
「つまり何も考えてなかったって事ね。分かったわ。【チェンジ】」
サリアは呆れたように小さくため息を吐いたと思ったら、俺のおでこを軽く指で弾いた。
たったそれだけで俺の体がもやに包まれていく。
「どぅわっ! 何を!」
「何って、変化よ。変装しといたに越した事は無いわ」
「あ、ありがとうございます。これで変わってるん、ですか?」
「ばっちりよ。不安ならほら」
言われるがまま、サリアの懐から取り出された手鏡に自分の顔を映してみた。
するとその鏡に映っていたのは今までの俺ではなく、口元に大量のひげを生やしたいかつい顔をした中年のオッサンの顔が映し出されていた。
頬には大きな傷まであり、人を複数殺していると言われても納得出来そうな凶悪犯みたいな顔立ちだった。
「くくく……こりゃいいな。いかにも悪者って感じだ」
つい先ほど俺に殴られたばかりだというのにも関わらず、ダラスは俺の顔を見て愉快そうに含み笑いをしていた。
相変わらず切り替えが早いな。
アスターはずっと無言を貫き通していて、その表情は一言では言い表せられないほどに複雑な色を宿していた。
機内から外に出てリトルバードをリリースし、俺達はダラスに連れられるまま王城の中へと入って行った。
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