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70 思考の海
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「陛下に、ですか」
カレンに治癒魔法で腫れを治してもらった俺は、気まずそうに答えた。
「そうだ。お前だって陛下がどれだけ便宜を図ってくれたか忘れたわけではないだろう?」
「……はい」
思い出した記憶の中で、俺は二度、現王であるガイアに会った事があった。
一度目は父の葬儀、二度目は軍に入った時。
一度目に出会った時は、父とガイアが知り合い、というか友達のような間柄だったという事実にかなり驚いた。
そして二度目に会った時は、自国の王に会うという緊張で何を話したのかすら覚えていなかった。
当主である父が死に、当代となった俺に子爵当主の責務が回ってきたが、俺には務められないからとその全権と位を国に返上していた。
しかし後日、形式上だけでも与えておくというガイア直筆の手紙を貰った事や、軍において色々と手を回してくれた事も、人づてに聞いて知っていた。
しかし、それゆえに上から目を付けられた事も確かだった。
親の七光りだの、なぜあんな子供が王直々に庇護するのか、だのという陰口も聞いた。
俺が王のお気に入りだという話はすぐに広まり、様々な尾ひれがついて噂になった。
中には俺がガイアの愛人だという訳の分からない悪意の噂も流された。
その話は勿論だが、他の噂話もガイアの耳にも入った。
その一件があって以来、ガイアは表立って俺と関わる事を止めた。
ガイアの真意は分からないけれど、俺と関わりを断つ事によって俺への風評被害を防ごうとしてくれたのだろう。
そしてそのおかげもあったのか、俺に関する噂話はぴたりと止んだ。
怖いくらいにいきなりだ。
人の噂は七十五日というけれど、本当にそれくらいの短期間で忽然と消えたのだ。
それから数年は平穏な日々が続き、軍の仕事にも慣れていった。
モンスターの召喚や管理方法、意思疎通の取り方などは父の残した大量の文書の中から独学で、手探りで学んでいった。
父が軍人だった事は知っていたが、まさかこんな事をしていたなんて思わなかった俺は一段と父を尊敬し、死の直前父に放ってしまった無責任な言葉の自責の念にかられていた。
それもあって俺は仕事に没頭した。
それが父への償いであるかのように、睡眠時間を削り、周囲にも低姿勢で接するようになった。
勿論ダラスは俺によくしてくれたし、色々な事を教えてくれた。
最初の頃は相談もしていたし、頼りにさせてもらっていたのだ。
でも、いつの頃からかは定かではないけどいつまでも甘えているような態度は駄目だ。
と思う様になり、ダラスに頼る事を控え始めた。
それについては話さなかったし、話すつもりもなかったけど、ダラスは俺の心境の変化に気付いたのか、積極的に俺に接する事を止めた。
今思えば、その辺りから俺の生活と心境が色々と崩れ始めたのかもしれない。
父のようにならなければならない。
でなければここに居る意味がない。
自分の居場所はここしかないのだと言い聞かせて、がただがむしゃらに毎日を生きていた気がする。
分かっていた。
気付いていた。
あの地獄のような日々を作り出したのは、他ならぬ自分自身なのだという事を。
気付かされてしまった。
魔王軍という恵まれすぎた環境に身を置いた事で、自分の愚かさと馬鹿さ加減に気付いてしまったのだ。
そして――自分が国を離れた事で引き起こされてしまった事態の重さに目を背けていた。
「全部が全部、自分が悪いとか思ってんだったら、その根性治るまでぶん殴るぞ」
「……え?」
思考の海に溺れていた俺に、ダラスの怒気をはらんだ声が届いた。
見ればダラスは思い切り俺を睨みつけていた。
カレンに治癒魔法で腫れを治してもらった俺は、気まずそうに答えた。
「そうだ。お前だって陛下がどれだけ便宜を図ってくれたか忘れたわけではないだろう?」
「……はい」
思い出した記憶の中で、俺は二度、現王であるガイアに会った事があった。
一度目は父の葬儀、二度目は軍に入った時。
一度目に出会った時は、父とガイアが知り合い、というか友達のような間柄だったという事実にかなり驚いた。
そして二度目に会った時は、自国の王に会うという緊張で何を話したのかすら覚えていなかった。
当主である父が死に、当代となった俺に子爵当主の責務が回ってきたが、俺には務められないからとその全権と位を国に返上していた。
しかし後日、形式上だけでも与えておくというガイア直筆の手紙を貰った事や、軍において色々と手を回してくれた事も、人づてに聞いて知っていた。
しかし、それゆえに上から目を付けられた事も確かだった。
親の七光りだの、なぜあんな子供が王直々に庇護するのか、だのという陰口も聞いた。
俺が王のお気に入りだという話はすぐに広まり、様々な尾ひれがついて噂になった。
中には俺がガイアの愛人だという訳の分からない悪意の噂も流された。
その話は勿論だが、他の噂話もガイアの耳にも入った。
その一件があって以来、ガイアは表立って俺と関わる事を止めた。
ガイアの真意は分からないけれど、俺と関わりを断つ事によって俺への風評被害を防ごうとしてくれたのだろう。
そしてそのおかげもあったのか、俺に関する噂話はぴたりと止んだ。
怖いくらいにいきなりだ。
人の噂は七十五日というけれど、本当にそれくらいの短期間で忽然と消えたのだ。
それから数年は平穏な日々が続き、軍の仕事にも慣れていった。
モンスターの召喚や管理方法、意思疎通の取り方などは父の残した大量の文書の中から独学で、手探りで学んでいった。
父が軍人だった事は知っていたが、まさかこんな事をしていたなんて思わなかった俺は一段と父を尊敬し、死の直前父に放ってしまった無責任な言葉の自責の念にかられていた。
それもあって俺は仕事に没頭した。
それが父への償いであるかのように、睡眠時間を削り、周囲にも低姿勢で接するようになった。
勿論ダラスは俺によくしてくれたし、色々な事を教えてくれた。
最初の頃は相談もしていたし、頼りにさせてもらっていたのだ。
でも、いつの頃からかは定かではないけどいつまでも甘えているような態度は駄目だ。
と思う様になり、ダラスに頼る事を控え始めた。
それについては話さなかったし、話すつもりもなかったけど、ダラスは俺の心境の変化に気付いたのか、積極的に俺に接する事を止めた。
今思えば、その辺りから俺の生活と心境が色々と崩れ始めたのかもしれない。
父のようにならなければならない。
でなければここに居る意味がない。
自分の居場所はここしかないのだと言い聞かせて、がただがむしゃらに毎日を生きていた気がする。
分かっていた。
気付いていた。
あの地獄のような日々を作り出したのは、他ならぬ自分自身なのだという事を。
気付かされてしまった。
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そして――自分が国を離れた事で引き起こされてしまった事態の重さに目を背けていた。
「全部が全部、自分が悪いとか思ってんだったら、その根性治るまでぶん殴るぞ」
「……え?」
思考の海に溺れていた俺に、ダラスの怒気をはらんだ声が届いた。
見ればダラスは思い切り俺を睨みつけていた。
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