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68 ふたり
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「凄いな……これがモンスターの体内とは思えん」
「こ、こいつ、俺を消化したりしないよな……?」
「しませんて」
リトルバードの内部に入ったダラスとアスターは、キョロキョロと内部を見回してかなり狼狽えている様子だった。
「ま、まぁいい。それで、話って何だ?」
ダラスは咳払いを一つして、俺の目を真っ直ぐに見てきた。
それだけで心臓の鼓動が早まって、いつもの倍の血が全身に巡っているような錯覚に陥る。
「あの、ダラス、さん」
「クロード! 貴様上官に向かって!」
「やめろアスター、俺はもうクロードの上司じゃない。さん付けも当たり前だろう」
「う……そうでした」
ダラスに嗜められ、しょぼんと項垂れるアスターの頭を何故かカレンがよしよししている。
側から見たら、って言うより俺からしたらちょっとイラつく光景だ。
くそ、イケメンてズルい。
「あの、ダラス、さん」
「だぁから何だよ」
「えと、すみません……何か言葉が出なくて……言いたい事はあるのですけど……」
「……ゆっくりでいい。話してみろ」
なんとか話そうとしているのだけど、喉の奥で言葉が詰まって思うように出てこない。
言うんだ。
ごめんなさいとありがとうを言うんだ。
「その、ごめん、なさい。と、義父さん」
「……はぁ? お前……頭でも打ったのか……?」
自分でもおかしな事を言っているとは思う。
今まで一度もダラスを義父さんなんて呼んだ事は一度もなかった。
けど、色々な事を思い出してから、そう言うべきだと考えていた。
「あはは……頭は大丈夫ですよ。王国にいた時よりもずっと、マシになってます」
「そうか……確かに顔色もいいし、健康そうだな。だったら余計にお前どうした? ってなるぞ」
「そうですよね……でも言わなきゃダメだって思ったんですよ。ずっと、父の代わりに俺の後見人をしてくれてありがとうございました」
「お、おう」
「国を出る時は何も考えられずにただこの場からいなくなりたいと、そうとしか考えられませんでした。ですけど、今は違います。貴方から受けた多大な恩は俺の中にしっかりと残っていました。父亡き後、俺を導いてくれて、本当にありがとうございました」
「……ふん、そんな事もあった気がするな」
「貴方は父が亡くなった時、言ってくれました。父の代わりと思えと」
「あー言ったような気がすんなぁ。そーいや廃人みたいなガキがいたわなぁ」
「だから、義父さんと」
「けっ、ガラじゃねぇ。俺にゃ嫁もガキもいねーよ」
「独身貴族は最高だと仰ってましたもんね」
「……そうすりゃ、俺がいつおっ死んだとしても、誰かを悲しませる事もねぇからな」
「それは違う。貴方が死んだら、貴方を悲しむ人は大勢います。俺だって、きっとアスターさんだって、部隊の皆さんだってそうです」
「…………、」
ダラスは両膝に肘をつけて、口を隠すように手を組んだ。
その鋭い双眸は機内の壁をじっと見つめているが、ダラスが何を考えているのかは分からなかった。
「そしてアスターさん」
「何だ? お前にさん付けされると違和感しかないな」
「アスターさんも、今まで本当にありがとうございました」
「俺は何もしていない。何も出来ていない。礼を言われるような事は何一つ、してやれていない」
アスターは横目で俺を見つめ、吐き捨てるようにそう言った。
「そもそもだ。俺はお前の上司であったくせにお前の事を全く理解出来ていなかったろう? だからお前は国を飛び出した」
「でもアスターさんは俺の頼みを聞いてくれたじゃないですか」
「……あぁ、内密にしろと言ったアレか? ふん、内密になどしていないさ」
「え?」
「内密にしろとお前が言った時、俺はさる筋に内密で相談を持ちかけた。無論お前の事だ。だが俺はそこで自分の無力さを痛感しただけだったよ。お前には何もしてやれていない。地位だけあっても人望が無い俺には、どうする事も出来なかった。それだけだ」
「えっと……それは初耳……」
「当たり前だ。上司が部下に泣き言を言うほど愚かな行為はない」
アスターは視線を機内の壁に向け、さながらそこに誰かがいるかのように睨み付けた。
「アスターは馬鹿真面目だからな。クロードも知ってるだろ。融通の効かないお堅い頭のエリート様ってやつさ」
「ダラス中将、それは悪口と言うのですよ」
「そのつもりなんだが?」
「……そうですね。俺は不器用な男ですから、中将のように柔軟に物事を考える事は出来ません。ただ愚直に剣を振り下ろすのみでしか、自分を表現する術を知りません。部下の悩みの種に剣を振り下ろせなかった俺には何をどう言う資格も、礼を述べられる資格もありはしません」
「アスターさん……」
正直言って俺は驚いていた。
寡黙だとばかり思っていたアスターが、ここまで饒舌に語りをするなど想像もしていなかった。
「お前も本当素直じゃねぇなぁアスター」
「……何がですか」
肩をすくめるダラスにアスターは淡々と問いかけるが、その瞳には少しの狼狽が見えた。
「素直に謝ればいいじゃねぇかよ。力及ばずでごめんなって。上手くやれなくて申し訳なかったって言やぁいいのにくだくだくどくどとまどろっこしい」
「……それは!」
「どうせアレだろ? 部下に頭を下げるなんて恥ずかしい。みっともない。軍人としてあるまじき行為だ。とかなんとか思ってんだろ?」
「……、」
「どんだけだよ。そこまでいったら生真面目不器用通り越してただのバカだよ」
「悪い事したって思ってんなら謝りゃいい。クロードはもうお前の部下じゃないんだ。テイル王国の軍人でもない。そこにお前の矜持を持ってきてどうなる」
「あ、あの。俺は謝って欲しいとかじゃなくてですね」
ダラスの説教を受けて口をつぐんでしまったアスターに代わり、無理矢理俺が間に割り込んだ。
「俺はその、お二人に、手伝ってもらいたい事がありまして……」
「手伝いだと?」
「何をしろと言うのだ」
二人の意識が俺に向いた所で話を本題に戻した。
「俺がここに来た理由は二つ、お二人にお礼を述べる事、それともう一つ。ダラスさんとアスターさんにはテイル王国軍を抜けて俺の仕事を手伝っていただきたいのです」
「「はぁ!?」」
俺が告げた言葉に、ダラスとアスターは見事に口を揃えてそう言った。
「こ、こいつ、俺を消化したりしないよな……?」
「しませんて」
リトルバードの内部に入ったダラスとアスターは、キョロキョロと内部を見回してかなり狼狽えている様子だった。
「ま、まぁいい。それで、話って何だ?」
ダラスは咳払いを一つして、俺の目を真っ直ぐに見てきた。
それだけで心臓の鼓動が早まって、いつもの倍の血が全身に巡っているような錯覚に陥る。
「あの、ダラス、さん」
「クロード! 貴様上官に向かって!」
「やめろアスター、俺はもうクロードの上司じゃない。さん付けも当たり前だろう」
「う……そうでした」
ダラスに嗜められ、しょぼんと項垂れるアスターの頭を何故かカレンがよしよししている。
側から見たら、って言うより俺からしたらちょっとイラつく光景だ。
くそ、イケメンてズルい。
「あの、ダラス、さん」
「だぁから何だよ」
「えと、すみません……何か言葉が出なくて……言いたい事はあるのですけど……」
「……ゆっくりでいい。話してみろ」
なんとか話そうとしているのだけど、喉の奥で言葉が詰まって思うように出てこない。
言うんだ。
ごめんなさいとありがとうを言うんだ。
「その、ごめん、なさい。と、義父さん」
「……はぁ? お前……頭でも打ったのか……?」
自分でもおかしな事を言っているとは思う。
今まで一度もダラスを義父さんなんて呼んだ事は一度もなかった。
けど、色々な事を思い出してから、そう言うべきだと考えていた。
「あはは……頭は大丈夫ですよ。王国にいた時よりもずっと、マシになってます」
「そうか……確かに顔色もいいし、健康そうだな。だったら余計にお前どうした? ってなるぞ」
「そうですよね……でも言わなきゃダメだって思ったんですよ。ずっと、父の代わりに俺の後見人をしてくれてありがとうございました」
「お、おう」
「国を出る時は何も考えられずにただこの場からいなくなりたいと、そうとしか考えられませんでした。ですけど、今は違います。貴方から受けた多大な恩は俺の中にしっかりと残っていました。父亡き後、俺を導いてくれて、本当にありがとうございました」
「……ふん、そんな事もあった気がするな」
「貴方は父が亡くなった時、言ってくれました。父の代わりと思えと」
「あー言ったような気がすんなぁ。そーいや廃人みたいなガキがいたわなぁ」
「だから、義父さんと」
「けっ、ガラじゃねぇ。俺にゃ嫁もガキもいねーよ」
「独身貴族は最高だと仰ってましたもんね」
「……そうすりゃ、俺がいつおっ死んだとしても、誰かを悲しませる事もねぇからな」
「それは違う。貴方が死んだら、貴方を悲しむ人は大勢います。俺だって、きっとアスターさんだって、部隊の皆さんだってそうです」
「…………、」
ダラスは両膝に肘をつけて、口を隠すように手を組んだ。
その鋭い双眸は機内の壁をじっと見つめているが、ダラスが何を考えているのかは分からなかった。
「そしてアスターさん」
「何だ? お前にさん付けされると違和感しかないな」
「アスターさんも、今まで本当にありがとうございました」
「俺は何もしていない。何も出来ていない。礼を言われるような事は何一つ、してやれていない」
アスターは横目で俺を見つめ、吐き捨てるようにそう言った。
「そもそもだ。俺はお前の上司であったくせにお前の事を全く理解出来ていなかったろう? だからお前は国を飛び出した」
「でもアスターさんは俺の頼みを聞いてくれたじゃないですか」
「……あぁ、内密にしろと言ったアレか? ふん、内密になどしていないさ」
「え?」
「内密にしろとお前が言った時、俺はさる筋に内密で相談を持ちかけた。無論お前の事だ。だが俺はそこで自分の無力さを痛感しただけだったよ。お前には何もしてやれていない。地位だけあっても人望が無い俺には、どうする事も出来なかった。それだけだ」
「えっと……それは初耳……」
「当たり前だ。上司が部下に泣き言を言うほど愚かな行為はない」
アスターは視線を機内の壁に向け、さながらそこに誰かがいるかのように睨み付けた。
「アスターは馬鹿真面目だからな。クロードも知ってるだろ。融通の効かないお堅い頭のエリート様ってやつさ」
「ダラス中将、それは悪口と言うのですよ」
「そのつもりなんだが?」
「……そうですね。俺は不器用な男ですから、中将のように柔軟に物事を考える事は出来ません。ただ愚直に剣を振り下ろすのみでしか、自分を表現する術を知りません。部下の悩みの種に剣を振り下ろせなかった俺には何をどう言う資格も、礼を述べられる資格もありはしません」
「アスターさん……」
正直言って俺は驚いていた。
寡黙だとばかり思っていたアスターが、ここまで饒舌に語りをするなど想像もしていなかった。
「お前も本当素直じゃねぇなぁアスター」
「……何がですか」
肩をすくめるダラスにアスターは淡々と問いかけるが、その瞳には少しの狼狽が見えた。
「素直に謝ればいいじゃねぇかよ。力及ばずでごめんなって。上手くやれなくて申し訳なかったって言やぁいいのにくだくだくどくどとまどろっこしい」
「……それは!」
「どうせアレだろ? 部下に頭を下げるなんて恥ずかしい。みっともない。軍人としてあるまじき行為だ。とかなんとか思ってんだろ?」
「……、」
「どんだけだよ。そこまでいったら生真面目不器用通り越してただのバカだよ」
「悪い事したって思ってんなら謝りゃいい。クロードはもうお前の部下じゃないんだ。テイル王国の軍人でもない。そこにお前の矜持を持ってきてどうなる」
「あ、あの。俺は謝って欲しいとかじゃなくてですね」
ダラスの説教を受けて口をつぐんでしまったアスターに代わり、無理矢理俺が間に割り込んだ。
「俺はその、お二人に、手伝ってもらいたい事がありまして……」
「手伝いだと?」
「何をしろと言うのだ」
二人の意識が俺に向いた所で話を本題に戻した。
「俺がここに来た理由は二つ、お二人にお礼を述べる事、それともう一つ。ダラスさんとアスターさんにはテイル王国軍を抜けて俺の仕事を手伝っていただきたいのです」
「「はぁ!?」」
俺が告げた言葉に、ダラスとアスターは見事に口を揃えてそう言った。
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