67 / 73
67 撤収
しおりを挟む
ダレクはまるで放り投げたような言い方をするが、悪感情があるようには感じられない。
「ま、この術を開発しちゃったおかげでさ、私は自分の国と周りの国に追われる事になったんだけどねー。術式を奪おうとする奴が家に忍び込んできたり、術式を使って無限に復活する兵士を作ろうと術式を利用しようとした奴らが現れたりでさー。それが鬱陶しいから魔界に引っ越したんだけどね」
「は、はぁ……」
随分と軽いノリで言ってるけど、カレンが開発した術は本当にとんでもないものだ。
世界のありようを変えるほどの術。
そりゃあ誰も彼もがこぞって欲しがるはずだよ。
死んでも蘇生、しかも集団、広域範囲での蘇生術式。
まるでRPGゲームみたいじゃないか。
「あ、あれ……」
「俺死んだはずじゃ……」
「生きてる……?」
地面に転がっていた元死体さん達がきょろきょろと辺りを見回して、自分の手足を見ては首を傾げている。
そして――。
「せ、聖女様……!」
「女神だ……」
「神の御使いだ……!」
「聖女様!」
「「聖女様だ!」」
正規兵の皆様方は不思議そうな顔をしているだけだったが、革命軍の皆様方はそうもいかないようで。
口々に聖女だ女神だのと叫んで抱き合って喜んで平服し始めてしまった。
「あー……めんどくさ」
しかし奇跡を起こした当の本人はジト目になって大きくため息を吐いた。
「めんどくさいって……」
「いやまぁこうなるかなーとかはちょっち思ったけどさー。ま、慣れてるからいーけどぉー」
そんな気だるげな言葉とは裏腹に、少し困ったような、でも嬉しそうな、それでいて恥ずかしそうな表情を浮かべて周囲に手を振りペコペコとお辞儀をするカレン。
大した役者だよほんと……。
カレンは美人だ。
道を歩けば十人中六人は振り返るであろう美人。
そんな美人が照れくさそうに微笑みながら愛想を振りまくのだから、そりゃあもう、その場は非常に柔らかくなった。
戦場であるのに戦場でない、まるで地下アイドルのコンサート会場のような異様な雰囲気を醸し出していた。
「ダラス隊長! 対象を捕縛致しました!」
「よぅしでかした! お前ら撤収だ!」
「「「サー! イエッサー!」」」
今回の捕縛対象であった屋敷の主らしき人物が、グースカといびきをかきながらダラスの部下に担がれて運ばれていった。
そしてダラスとアスターを残し、正規兵の姿は屋敷の裏手からあっという間に消えていった。
撤収の速さはさすがの正規兵といったところ。
Tホークからの映像でも、表門の正規兵達が撤退していく様子が見られた。
革命軍達は自分達に起こった奇跡を噛みしめて抱き合ったり、泣いて笑っているのに忙しいようで撤退していく正規兵を追う者は誰も居なかった。
サリアの魔法で宙釣りになっている革命軍達も、目の前で繰り広げられた神の所業のような出来事に抵抗することも忘れているようだった。
「さて、クロードよ」
「はい」
「任務は終わった。話の続きを聞かせてもらおうか?」
ふう、と一息吐いたダラスがやや呆れたような顔で言った。
その瞳は実に穏やかで、そしてこの時、今までこうやってきちんと目を見て話し合った事があまりなかったことを思い出した。
アスターはそんな俺とダラスのやり取りをじっと見つめているだけで、何かを言おうとはしなかった。
「わかりました。ですがここで立ち話も何なので移動しながらではいかがですか?」
「かまわん」
「ではこれに乗ってください」
俺はそう言うと上空で待機していたカイオワをリリースし、その代わりに外装ベンチ付きのリトルバードを召喚した。
「ま、この術を開発しちゃったおかげでさ、私は自分の国と周りの国に追われる事になったんだけどねー。術式を奪おうとする奴が家に忍び込んできたり、術式を使って無限に復活する兵士を作ろうと術式を利用しようとした奴らが現れたりでさー。それが鬱陶しいから魔界に引っ越したんだけどね」
「は、はぁ……」
随分と軽いノリで言ってるけど、カレンが開発した術は本当にとんでもないものだ。
世界のありようを変えるほどの術。
そりゃあ誰も彼もがこぞって欲しがるはずだよ。
死んでも蘇生、しかも集団、広域範囲での蘇生術式。
まるでRPGゲームみたいじゃないか。
「あ、あれ……」
「俺死んだはずじゃ……」
「生きてる……?」
地面に転がっていた元死体さん達がきょろきょろと辺りを見回して、自分の手足を見ては首を傾げている。
そして――。
「せ、聖女様……!」
「女神だ……」
「神の御使いだ……!」
「聖女様!」
「「聖女様だ!」」
正規兵の皆様方は不思議そうな顔をしているだけだったが、革命軍の皆様方はそうもいかないようで。
口々に聖女だ女神だのと叫んで抱き合って喜んで平服し始めてしまった。
「あー……めんどくさ」
しかし奇跡を起こした当の本人はジト目になって大きくため息を吐いた。
「めんどくさいって……」
「いやまぁこうなるかなーとかはちょっち思ったけどさー。ま、慣れてるからいーけどぉー」
そんな気だるげな言葉とは裏腹に、少し困ったような、でも嬉しそうな、それでいて恥ずかしそうな表情を浮かべて周囲に手を振りペコペコとお辞儀をするカレン。
大した役者だよほんと……。
カレンは美人だ。
道を歩けば十人中六人は振り返るであろう美人。
そんな美人が照れくさそうに微笑みながら愛想を振りまくのだから、そりゃあもう、その場は非常に柔らかくなった。
戦場であるのに戦場でない、まるで地下アイドルのコンサート会場のような異様な雰囲気を醸し出していた。
「ダラス隊長! 対象を捕縛致しました!」
「よぅしでかした! お前ら撤収だ!」
「「「サー! イエッサー!」」」
今回の捕縛対象であった屋敷の主らしき人物が、グースカといびきをかきながらダラスの部下に担がれて運ばれていった。
そしてダラスとアスターを残し、正規兵の姿は屋敷の裏手からあっという間に消えていった。
撤収の速さはさすがの正規兵といったところ。
Tホークからの映像でも、表門の正規兵達が撤退していく様子が見られた。
革命軍達は自分達に起こった奇跡を噛みしめて抱き合ったり、泣いて笑っているのに忙しいようで撤退していく正規兵を追う者は誰も居なかった。
サリアの魔法で宙釣りになっている革命軍達も、目の前で繰り広げられた神の所業のような出来事に抵抗することも忘れているようだった。
「さて、クロードよ」
「はい」
「任務は終わった。話の続きを聞かせてもらおうか?」
ふう、と一息吐いたダラスがやや呆れたような顔で言った。
その瞳は実に穏やかで、そしてこの時、今までこうやってきちんと目を見て話し合った事があまりなかったことを思い出した。
アスターはそんな俺とダラスのやり取りをじっと見つめているだけで、何かを言おうとはしなかった。
「わかりました。ですがここで立ち話も何なので移動しながらではいかがですか?」
「かまわん」
「ではこれに乗ってください」
俺はそう言うと上空で待機していたカイオワをリリースし、その代わりに外装ベンチ付きのリトルバードを召喚した。
2
お気に入りに追加
3,534
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
我が家に子犬がやって来た!
もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。
アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。
だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。
この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。
※全102話で完結済。
★『小説家になろう』でも読めます★
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】そして、誰もいなくなった
杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」
愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。
「触るな!」
だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。
「突き飛ばしたぞ」
「彼が手を上げた」
「誰か衛兵を呼べ!」
騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。
そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。
そして誰もいなくなった。
彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。
これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。
◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。
3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。
3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました!
4/1、完結しました。全14話。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。
サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。
人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、
前世のポイントを使ってチート化!
新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。
結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」
「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」
「ま、まってくださ……!」
「誰が待つかよバーーーーーカ!」
「そっちは危な……っあ」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
精霊のお仕事
ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】
オレは前世の記憶を思い出した。
あの世で、ダメじゃん。
でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。
まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。
ときどき神様の依頼があったり。
わけのわからん敵が出てきたりする。
たまには人間を蹂躙したりもする。?
まあいいか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~
楠ノ木雫
ファンタジー
IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき……
※他の投稿サイトにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~
名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」
「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」
「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」
「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」
「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」
「くっ……」
問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。
彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。
さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。
「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」
「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」
「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」
拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。
これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる