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53 ミーニャの導き
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「あれ? クロードさん! 今日は非番ですか?」
「ミーニャ……」
ぼけっと窓の外を見ながら意気消沈していると、明るい声が聞こえた。
ミーニャは仕事の最中なのか、いつもの配送係のユニフォームを着ていた。
「どうしたんですか? 元気ないですけど……」
「あ、あぁ……これは、ちょっとクレア様にこっぴどく言われてね」
「雨の日のクレア様は短気ですから……何があったんですか? ちょうど休憩なのでお話し聞きますよ? 力になれるかは、分からないですけど……」
えへへ、と頭をかいて申し訳なさそうに笑うミーニャを見て、俺はゆっくり口を開いた。
この子に話した所で何が変わるわけでもない。
けど、誰かに聞いて欲しかった。
「実は……」
ミーニャには全てを打ち明けた。
父の話、ダラスの話、アスターの話、自分の過去の話、クレアに言われた事を要所要所かいつまんで話していった。
時間にして十分か、二十分かそこらだったがミーニャはただうんうん、と頷いてじっと話を聞いてくれていた。
情けないと思われるだろうか、不甲斐ない男だと思われるだろうか、女々しい男だと笑われるだろうか。
話を終えた時、ふとそんな不安が頭の中に浮かんできた。
強い者を選ぶ傾向にある魔族、ミーニャだってその例に漏れないはずだ。
「そっかぁ……」
だから俺は、話を終えてミーニャが反応を示した時、彼女の顔を見る事が出来なかった。
「大変だったんですね」
「え……」
「でも良かったですね! まだ望みはあるじゃないですか!」
予想外の言葉に思わずミーニャの顔を見たのだが、彼女はにっこりと満面の笑みを浮かべていた。
「え? いや、無理だって、はっきり……」
「今の段階では許可できないってだけじゃないですか?」
「は?」
「私にはそう聞こえましたよ?」
「え、いやちょっと待ってくれ、どこらへんがそう思うんだ……?」
「どこら辺がって言われても……強いて言うなら『頭を冷やし、お主の仕事をよくよく思い出せ。よいか? もう一度言うぞ? 理由無くして動く事は出来ん』って所ですかね……クレア様はクロードさんの視野が狭くなって柔軟な考えが出来ていない事もご指摘されています。そうなってしまったのは、その王国でお世話になった方々へ向けた焦りから。狭い視野では成功するものも失敗に終わる事が多いです。だからクレア様はお叱りになられたのでは? クレア様が仰っていたクロードさんのお仕事って、いったい何ですか? それに……これは言わなくても分かりますよね」
「俺の、仕事……庭仕事……食堂……施設管理……あ」
「クロードさん?」
「わかった……! あの人の言いたい事がわかった! ありがとうミーニャ!」
「え!? あ、はい!」
きょとんとするミーニャの手を握り、大きく上下に振る。
クレアは完全に否定していたわけじゃないんだ。
それをミーニャが教えてくれた。
ミーニャのおかげで気付けた。
そうと分かればすぐにでも行動を開始しなければならない。
「本当にありがとうミーニャ! ミーニャがいなかったら俺はまた間違えていた所だった!」
「はぇ!? い、いえ! 力になれたなら何よりです!」
「ありがとう!」
「はわ!?」
狼狽えるミーニャを抱き寄せ、強く抱擁する。
確かに俺は頭に血が上り、早くしなければという焦燥感に追われていた。
そうする事で自らの選択肢を狭めていたのだ。
「あ、あああの! クロードさん、苦しい」
「え……はぁあ! ごめん! つい!」
耳元に漏れるミーニャの声に、俺は我に返った。
自分の中で燃え上がる何かの勢いに任せ、ミーニャを熱く抱きしめていた事に気付いた。
慌ててミーニャを引き離すが、ミーニャは怒りもせずに笑顔を浮かべていた。
「頑張って下さいね! クロードさん!」
「あぁ! 頑張ってくるよ! 休憩中なのにありがとう」
「いえいえ!」
耳まで赤くなっているのを自覚しながら握手を交わし、俺は急いである場所へと向かった。
「ミーニャ……」
ぼけっと窓の外を見ながら意気消沈していると、明るい声が聞こえた。
ミーニャは仕事の最中なのか、いつもの配送係のユニフォームを着ていた。
「どうしたんですか? 元気ないですけど……」
「あ、あぁ……これは、ちょっとクレア様にこっぴどく言われてね」
「雨の日のクレア様は短気ですから……何があったんですか? ちょうど休憩なのでお話し聞きますよ? 力になれるかは、分からないですけど……」
えへへ、と頭をかいて申し訳なさそうに笑うミーニャを見て、俺はゆっくり口を開いた。
この子に話した所で何が変わるわけでもない。
けど、誰かに聞いて欲しかった。
「実は……」
ミーニャには全てを打ち明けた。
父の話、ダラスの話、アスターの話、自分の過去の話、クレアに言われた事を要所要所かいつまんで話していった。
時間にして十分か、二十分かそこらだったがミーニャはただうんうん、と頷いてじっと話を聞いてくれていた。
情けないと思われるだろうか、不甲斐ない男だと思われるだろうか、女々しい男だと笑われるだろうか。
話を終えた時、ふとそんな不安が頭の中に浮かんできた。
強い者を選ぶ傾向にある魔族、ミーニャだってその例に漏れないはずだ。
「そっかぁ……」
だから俺は、話を終えてミーニャが反応を示した時、彼女の顔を見る事が出来なかった。
「大変だったんですね」
「え……」
「でも良かったですね! まだ望みはあるじゃないですか!」
予想外の言葉に思わずミーニャの顔を見たのだが、彼女はにっこりと満面の笑みを浮かべていた。
「え? いや、無理だって、はっきり……」
「今の段階では許可できないってだけじゃないですか?」
「は?」
「私にはそう聞こえましたよ?」
「え、いやちょっと待ってくれ、どこらへんがそう思うんだ……?」
「どこら辺がって言われても……強いて言うなら『頭を冷やし、お主の仕事をよくよく思い出せ。よいか? もう一度言うぞ? 理由無くして動く事は出来ん』って所ですかね……クレア様はクロードさんの視野が狭くなって柔軟な考えが出来ていない事もご指摘されています。そうなってしまったのは、その王国でお世話になった方々へ向けた焦りから。狭い視野では成功するものも失敗に終わる事が多いです。だからクレア様はお叱りになられたのでは? クレア様が仰っていたクロードさんのお仕事って、いったい何ですか? それに……これは言わなくても分かりますよね」
「俺の、仕事……庭仕事……食堂……施設管理……あ」
「クロードさん?」
「わかった……! あの人の言いたい事がわかった! ありがとうミーニャ!」
「え!? あ、はい!」
きょとんとするミーニャの手を握り、大きく上下に振る。
クレアは完全に否定していたわけじゃないんだ。
それをミーニャが教えてくれた。
ミーニャのおかげで気付けた。
そうと分かればすぐにでも行動を開始しなければならない。
「本当にありがとうミーニャ! ミーニャがいなかったら俺はまた間違えていた所だった!」
「はぇ!? い、いえ! 力になれたなら何よりです!」
「ありがとう!」
「はわ!?」
狼狽えるミーニャを抱き寄せ、強く抱擁する。
確かに俺は頭に血が上り、早くしなければという焦燥感に追われていた。
そうする事で自らの選択肢を狭めていたのだ。
「あ、あああの! クロードさん、苦しい」
「え……はぁあ! ごめん! つい!」
耳元に漏れるミーニャの声に、俺は我に返った。
自分の中で燃え上がる何かの勢いに任せ、ミーニャを熱く抱きしめていた事に気付いた。
慌ててミーニャを引き離すが、ミーニャは怒りもせずに笑顔を浮かべていた。
「頑張って下さいね! クロードさん!」
「あぁ! 頑張ってくるよ! 休憩中なのにありがとう」
「いえいえ!」
耳まで赤くなっているのを自覚しながら握手を交わし、俺は急いである場所へと向かった。
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