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『お前の親父さんには世話になった。だからこれからは俺を親父だと思って……何でも相談してくれよ』
「……ダラスさん」
ざぁざぁと雨が降っていた。
大雨だった。
嵐の夜だった。
父が急死し、その葬式会場での事だった。
ざぁざぁと雨が降っていて、凄くうるさかったのを覚えている。
父の死因は急性心不全、という判定だった。
当時父はまだ四十歳、俺は十五歳だった。
葬式は国を挙げての盛大なもので、たくさんの人が訪れて献花をし、お悔やみを言われた。
当時の俺は思春期で、いつでも父に反抗して、喧嘩ばかりしていた。
当時の俺の父への認識は軍の偉い人、というふんわりとしたものだった。
祖父の逸話や家系の話は一切聞いた事が無かった。
いや、もしかすると聞いていなかった、記憶に留めていなかっただけなのかもしれない。
母は俺が五歳の時に流行病で死んでしまった。
悲しくて寂しくて侘しかった。
幼い俺はどうしようもない不安と喪失感に包まれていたが、父は毅然と涙など流さずに俺を慰めてくれた。
『これからは父さんと二人だ。けど母さんはいつでもそばにいる。母さんに胸を張れるような生き方をしよう』
そう言われたのを覚えている。
父の葬式の時、その言葉が頭に浮かび、俺はどうしようもないほどに泣いた。
ごめんなさい、ごめんなさい、と絶え間なく泣いた、泣き崩れた。
『父さんなんて大嫌いだ!』
父がこの世を去る日の前の夜に、俺が勢いで言ってしまった言葉だ。
実際に大嫌いだったわけじゃない。
実際は大好きだった。
母を亡くして辛いのはきっと、俺よりも父の方だった。
最愛の母を亡くしたにも関わらず悲観にくれず、俺を全力で愛し、育て、叱ってくれた。
父は強い、とても強い男だった。
尊敬していた。
心の底から尊敬していた。
そんな父に、大嫌いだと言った、言ってしまった。
そしてそれを撤回する機会は永遠に訪れなくなった。
父が大好きだ。
父を尊敬している。
父を愛している。
俺を愛してくれて、育ててくれて、いつでもそばにいてくれてありがとう。
その言葉を、その思いを伝える機会は、永遠に失われてしまったのだ。
ざぁざぁと、うるさいほどに降る大雨の嵐の夜のことだった。
父の死後、俺は父の残した屋敷で使用人に囲まれながら生活をしていた。
目的もなく、だらだらと死んだように生きていた、そんな俺を叱りつける使用人などいなかった。
外に出るのも億劫になり、少なからずいた友達とも疎遠になっていった。
ダラスは葬式の後に言った言葉通り、俺の所に度々足を運んでくれた。
『散歩に行こう』
憔悴し、引きこもりかけていた俺に、ダラスはそう言ってほぼ無理矢理に俺を外に連れ出した。
何を喋るわけでもなく、ただダラダラと、目的もなく街を歩き、川辺まで歩いた。
俺は何も喋らないダラスの大きな背中を、ただただじっと見つめながら歩いていた。
川辺に腰を下ろしたダラスはタバコを取り出し、火をつけて煙を吐き出した。
『吸うか?』
『吸わないよ。俺まだ未成年』
『そうだなぁ、まだ子供だもんな』
『……』
ダラスはそう言ってからからと愉快そうに笑った。
この人は一体何を考えているんだ? と思った。
「……ダラスさん」
ざぁざぁと雨が降っていた。
大雨だった。
嵐の夜だった。
父が急死し、その葬式会場での事だった。
ざぁざぁと雨が降っていて、凄くうるさかったのを覚えている。
父の死因は急性心不全、という判定だった。
当時父はまだ四十歳、俺は十五歳だった。
葬式は国を挙げての盛大なもので、たくさんの人が訪れて献花をし、お悔やみを言われた。
当時の俺は思春期で、いつでも父に反抗して、喧嘩ばかりしていた。
当時の俺の父への認識は軍の偉い人、というふんわりとしたものだった。
祖父の逸話や家系の話は一切聞いた事が無かった。
いや、もしかすると聞いていなかった、記憶に留めていなかっただけなのかもしれない。
母は俺が五歳の時に流行病で死んでしまった。
悲しくて寂しくて侘しかった。
幼い俺はどうしようもない不安と喪失感に包まれていたが、父は毅然と涙など流さずに俺を慰めてくれた。
『これからは父さんと二人だ。けど母さんはいつでもそばにいる。母さんに胸を張れるような生き方をしよう』
そう言われたのを覚えている。
父の葬式の時、その言葉が頭に浮かび、俺はどうしようもないほどに泣いた。
ごめんなさい、ごめんなさい、と絶え間なく泣いた、泣き崩れた。
『父さんなんて大嫌いだ!』
父がこの世を去る日の前の夜に、俺が勢いで言ってしまった言葉だ。
実際に大嫌いだったわけじゃない。
実際は大好きだった。
母を亡くして辛いのはきっと、俺よりも父の方だった。
最愛の母を亡くしたにも関わらず悲観にくれず、俺を全力で愛し、育て、叱ってくれた。
父は強い、とても強い男だった。
尊敬していた。
心の底から尊敬していた。
そんな父に、大嫌いだと言った、言ってしまった。
そしてそれを撤回する機会は永遠に訪れなくなった。
父が大好きだ。
父を尊敬している。
父を愛している。
俺を愛してくれて、育ててくれて、いつでもそばにいてくれてありがとう。
その言葉を、その思いを伝える機会は、永遠に失われてしまったのだ。
ざぁざぁと、うるさいほどに降る大雨の嵐の夜のことだった。
父の死後、俺は父の残した屋敷で使用人に囲まれながら生活をしていた。
目的もなく、だらだらと死んだように生きていた、そんな俺を叱りつける使用人などいなかった。
外に出るのも億劫になり、少なからずいた友達とも疎遠になっていった。
ダラスは葬式の後に言った言葉通り、俺の所に度々足を運んでくれた。
『散歩に行こう』
憔悴し、引きこもりかけていた俺に、ダラスはそう言ってほぼ無理矢理に俺を外に連れ出した。
何を喋るわけでもなく、ただダラダラと、目的もなく街を歩き、川辺まで歩いた。
俺は何も喋らないダラスの大きな背中を、ただただじっと見つめながら歩いていた。
川辺に腰を下ろしたダラスはタバコを取り出し、火をつけて煙を吐き出した。
『吸うか?』
『吸わないよ。俺まだ未成年』
『そうだなぁ、まだ子供だもんな』
『……』
ダラスはそう言ってからからと愉快そうに笑った。
この人は一体何を考えているんだ? と思った。
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