ブラック王国軍から脱退した召喚士、前世の記憶が蘇り現代兵器も召喚出来るようになりました

登龍乃月

文字の大きさ
上 下
49 / 73

49 思考の迷路

しおりを挟む
 魔王城に帰投し、リトルバードをリリースしてから俺はまっすぐ自室へと戻った。
 軽くシャワーを浴び、水を飲んでベッドに腰を下ろした。
 頭の中ではぐるぐると纏まりのない思考が渦を巻いていて、自分でも何を考えて何を否定して何を許諾しているのかがわからない。
 俺を連れ戻しに来たコザや、その他将官達はガイアの勅命を遂行できなかった。
 コザの顔や受け答えからして、俺が断るという選択肢が頭になかったのだろう。
 コザは一兵卒からの叩き上げで司令官まで昇り詰めた男だというのは聞いている。
 ゆえに軍のありようが骨の髄まで染み込んでいる。
 いわゆる上官の命令は絶対、というやつだ。
 あの男の過去の栄光は興味もないのだが、軍服にべたべたと貼られている勲章の数々を見ればどれだけ軍に貢献し、戦果を上げてきていたのかがわかる。
 部下からの信頼が厚いかどうかは知らないけど、一定の支持を集めているのは知っている。
 なんであんな男が、と思う。
 だけどそれが事実であり、逆に俺は周囲を巻き込むカリスマも無い、部下もいない、個人的な戦闘力もない。
 そんな俺が何を意見した所で、大海を前にした小さな巻貝みたいなもんだ。
 大海の荒波に飲み込まれ、あっさりと簡単に速やかに掻き消され、捻じ伏せられ、叩き潰される。
 軍だけじゃない、それは社会に出ても同じ事だった。
 前世では納期に追われ、クレーマーの対処をし、無理難題を押しつけてくるクライアントの対応をし、精神をすり減らして仕事をしていた。
 どう意見をしようが、それは上司に都合の良い方向に捻じ曲げられ、揉み消され、純然たる俺の意思が届く事はなかった。
 世界はそんなものだと思ったし、そう思わされたし、そう思うしかなかった。
 個人は社会の小さな歯車となり、壊れたとしてもいくらでも変わりはいる、存在する。
 いくらでもあり合わせることが出来る。
 個人が社会の歯車だという事に関しては同意出来る。
 そうでなければ社会は回らない。
 社会という大きな機械は無数の人間の意思で構築されており、その無数の意思を纏めるのが上層の、上司や社長というシステムやプログラム。
 その上が国という世界。
 外国ではもっと違う社会構築がなされているとは聞いた事があるし、テレビの特集でも幾度となく目にしてきた。
 どこぞの国では三時間のお昼寝タイムなる規則があったりもするという。
 けどそれは外国の話であって自国の話ではない。
 無い物ねだりをしても仕方がないと、諦めて操り人形のように日々を生きた。
 その結果が過労死というどうしようもない終わり方。
 テイル王国を脱出した時に受けた傷で死にかけた結果、前世の悲惨な最後を思い出すというのも皮肉な話だ。
 でもあのまま自分を殺し、テイル王国にい続けていたのなら……同じ結果を辿っていただろう。
 そう思うとテイル王国に見切りをつけたクロード・ラストという人物は、少なくとも前世の俺よりかはまともだったということだ。
 しかしその行動を起こした結果がテイル王国での内乱、革命軍の蜂起。
 軍内部での度重なる嫌がらせや虐めを受けていた俺に、比較的良くしてくれていた人達への裏切りでもあるのだろうか。
 
『クロード、そうやってグダグダとしているから他の者に舐められるのだろう。しゃきっとして覇気を出せ、お前はそれをしても問われないほどの男なのだぞ』

 いつだったか、アスター将軍から掛けられた言葉を思い出す。
 それに対して俺が返した言葉は、

「そんな事ないですよ、買いかぶりすぎです。俺が何をした所で何も変わりませんよ」

 だった。

 思えばアスター将軍は口、というか全体的に無愛想な所があったけど、親身になって色々と考えてくれていたのだろうな。
 それを突き放し、殻に閉じこもって助けを求めず、何も行動を起こさず、見切りをつけたのが俺だ。
 今更な答え、失って、無くなって、声がかけられなくなって初めて気付くその心情。
 けど、多分、こうやって考えられているのもこの魔王城に来たからだ。
 魔王城に来て、美味しい食事、しっかりとした睡眠、筋トレやガーデニングなどのリフレッシュ、きちんとした休み、そういった様々な要因が組み合わさり、こういった思考になっているのだろう。
 テイル王国にいた頃は、きっと思考を放棄していたのだと、そう思う。
 我慢の限界を迎え、ぷっつり切れたのはまだ少し、まともな思考が残っていたから、なのかな。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。

サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。 人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、 前世のポイントを使ってチート化! 新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...