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49 思考の迷路
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魔王城に帰投し、リトルバードをリリースしてから俺はまっすぐ自室へと戻った。
軽くシャワーを浴び、水を飲んでベッドに腰を下ろした。
頭の中ではぐるぐると纏まりのない思考が渦を巻いていて、自分でも何を考えて何を否定して何を許諾しているのかがわからない。
俺を連れ戻しに来たコザや、その他将官達はガイアの勅命を遂行できなかった。
コザの顔や受け答えからして、俺が断るという選択肢が頭になかったのだろう。
コザは一兵卒からの叩き上げで司令官まで昇り詰めた男だというのは聞いている。
ゆえに軍のありようが骨の髄まで染み込んでいる。
いわゆる上官の命令は絶対、というやつだ。
あの男の過去の栄光は興味もないのだが、軍服にべたべたと貼られている勲章の数々を見ればどれだけ軍に貢献し、戦果を上げてきていたのかがわかる。
部下からの信頼が厚いかどうかは知らないけど、一定の支持を集めているのは知っている。
なんであんな男が、と思う。
だけどそれが事実であり、逆に俺は周囲を巻き込むカリスマも無い、部下もいない、個人的な戦闘力もない。
そんな俺が何を意見した所で、大海を前にした小さな巻貝みたいなもんだ。
大海の荒波に飲み込まれ、あっさりと簡単に速やかに掻き消され、捻じ伏せられ、叩き潰される。
軍だけじゃない、それは社会に出ても同じ事だった。
前世では納期に追われ、クレーマーの対処をし、無理難題を押しつけてくるクライアントの対応をし、精神をすり減らして仕事をしていた。
どう意見をしようが、それは上司に都合の良い方向に捻じ曲げられ、揉み消され、純然たる俺の意思が届く事はなかった。
世界はそんなものだと思ったし、そう思わされたし、そう思うしかなかった。
個人は社会の小さな歯車となり、壊れたとしてもいくらでも変わりはいる、存在する。
いくらでもあり合わせることが出来る。
個人が社会の歯車だという事に関しては同意出来る。
そうでなければ社会は回らない。
社会という大きな機械は無数の人間の意思で構築されており、その無数の意思を纏めるのが上層の、上司や社長というシステムやプログラム。
その上が国という世界。
外国ではもっと違う社会構築がなされているとは聞いた事があるし、テレビの特集でも幾度となく目にしてきた。
どこぞの国では三時間のお昼寝タイムなる規則があったりもするという。
けどそれは外国の話であって自国の話ではない。
無い物ねだりをしても仕方がないと、諦めて操り人形のように日々を生きた。
その結果が過労死というどうしようもない終わり方。
テイル王国を脱出した時に受けた傷で死にかけた結果、前世の悲惨な最後を思い出すというのも皮肉な話だ。
でもあのまま自分を殺し、テイル王国にい続けていたのなら……同じ結果を辿っていただろう。
そう思うとテイル王国に見切りをつけたクロード・ラストという人物は、少なくとも前世の俺よりかはまともだったということだ。
しかしその行動を起こした結果がテイル王国での内乱、革命軍の蜂起。
軍内部での度重なる嫌がらせや虐めを受けていた俺に、比較的良くしてくれていた人達への裏切りでもあるのだろうか。
『クロード、そうやってグダグダとしているから他の者に舐められるのだろう。しゃきっとして覇気を出せ、お前はそれをしても問われないほどの男なのだぞ』
いつだったか、アスター将軍から掛けられた言葉を思い出す。
それに対して俺が返した言葉は、
「そんな事ないですよ、買いかぶりすぎです。俺が何をした所で何も変わりませんよ」
だった。
思えばアスター将軍は口、というか全体的に無愛想な所があったけど、親身になって色々と考えてくれていたのだろうな。
それを突き放し、殻に閉じこもって助けを求めず、何も行動を起こさず、見切りをつけたのが俺だ。
今更な答え、失って、無くなって、声がかけられなくなって初めて気付くその心情。
けど、多分、こうやって考えられているのもこの魔王城に来たからだ。
魔王城に来て、美味しい食事、しっかりとした睡眠、筋トレやガーデニングなどのリフレッシュ、きちんとした休み、そういった様々な要因が組み合わさり、こういった思考になっているのだろう。
テイル王国にいた頃は、きっと思考を放棄していたのだと、そう思う。
我慢の限界を迎え、ぷっつり切れたのはまだ少し、まともな思考が残っていたから、なのかな。
軽くシャワーを浴び、水を飲んでベッドに腰を下ろした。
頭の中ではぐるぐると纏まりのない思考が渦を巻いていて、自分でも何を考えて何を否定して何を許諾しているのかがわからない。
俺を連れ戻しに来たコザや、その他将官達はガイアの勅命を遂行できなかった。
コザの顔や受け答えからして、俺が断るという選択肢が頭になかったのだろう。
コザは一兵卒からの叩き上げで司令官まで昇り詰めた男だというのは聞いている。
ゆえに軍のありようが骨の髄まで染み込んでいる。
いわゆる上官の命令は絶対、というやつだ。
あの男の過去の栄光は興味もないのだが、軍服にべたべたと貼られている勲章の数々を見ればどれだけ軍に貢献し、戦果を上げてきていたのかがわかる。
部下からの信頼が厚いかどうかは知らないけど、一定の支持を集めているのは知っている。
なんであんな男が、と思う。
だけどそれが事実であり、逆に俺は周囲を巻き込むカリスマも無い、部下もいない、個人的な戦闘力もない。
そんな俺が何を意見した所で、大海を前にした小さな巻貝みたいなもんだ。
大海の荒波に飲み込まれ、あっさりと簡単に速やかに掻き消され、捻じ伏せられ、叩き潰される。
軍だけじゃない、それは社会に出ても同じ事だった。
前世では納期に追われ、クレーマーの対処をし、無理難題を押しつけてくるクライアントの対応をし、精神をすり減らして仕事をしていた。
どう意見をしようが、それは上司に都合の良い方向に捻じ曲げられ、揉み消され、純然たる俺の意思が届く事はなかった。
世界はそんなものだと思ったし、そう思わされたし、そう思うしかなかった。
個人は社会の小さな歯車となり、壊れたとしてもいくらでも変わりはいる、存在する。
いくらでもあり合わせることが出来る。
個人が社会の歯車だという事に関しては同意出来る。
そうでなければ社会は回らない。
社会という大きな機械は無数の人間の意思で構築されており、その無数の意思を纏めるのが上層の、上司や社長というシステムやプログラム。
その上が国という世界。
外国ではもっと違う社会構築がなされているとは聞いた事があるし、テレビの特集でも幾度となく目にしてきた。
どこぞの国では三時間のお昼寝タイムなる規則があったりもするという。
けどそれは外国の話であって自国の話ではない。
無い物ねだりをしても仕方がないと、諦めて操り人形のように日々を生きた。
その結果が過労死というどうしようもない終わり方。
テイル王国を脱出した時に受けた傷で死にかけた結果、前世の悲惨な最後を思い出すというのも皮肉な話だ。
でもあのまま自分を殺し、テイル王国にい続けていたのなら……同じ結果を辿っていただろう。
そう思うとテイル王国に見切りをつけたクロード・ラストという人物は、少なくとも前世の俺よりかはまともだったということだ。
しかしその行動を起こした結果がテイル王国での内乱、革命軍の蜂起。
軍内部での度重なる嫌がらせや虐めを受けていた俺に、比較的良くしてくれていた人達への裏切りでもあるのだろうか。
『クロード、そうやってグダグダとしているから他の者に舐められるのだろう。しゃきっとして覇気を出せ、お前はそれをしても問われないほどの男なのだぞ』
いつだったか、アスター将軍から掛けられた言葉を思い出す。
それに対して俺が返した言葉は、
「そんな事ないですよ、買いかぶりすぎです。俺が何をした所で何も変わりませんよ」
だった。
思えばアスター将軍は口、というか全体的に無愛想な所があったけど、親身になって色々と考えてくれていたのだろうな。
それを突き放し、殻に閉じこもって助けを求めず、何も行動を起こさず、見切りをつけたのが俺だ。
今更な答え、失って、無くなって、声がかけられなくなって初めて気付くその心情。
けど、多分、こうやって考えられているのもこの魔王城に来たからだ。
魔王城に来て、美味しい食事、しっかりとした睡眠、筋トレやガーデニングなどのリフレッシュ、きちんとした休み、そういった様々な要因が組み合わさり、こういった思考になっているのだろう。
テイル王国にいた頃は、きっと思考を放棄していたのだと、そう思う。
我慢の限界を迎え、ぷっつり切れたのはまだ少し、まともな思考が残っていたから、なのかな。
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