ブラック王国軍から脱退した召喚士、前世の記憶が蘇り現代兵器も召喚出来るようになりました

登龍乃月

文字の大きさ
上 下
41 / 73

41 晩餐会

しおりを挟む
「まずは前菜から暴れ鬼鳥のレバームース、ロズマリーの香りでございます。こちらのバゲットに付けてお召し上がりください」

 テーブルにコトリと置かれた白い皿。
 その上には丸く仕立てられたレーバームースが置かれ、ムースの下には私特製のソースが敷かれている。
 下処理をした暴れ鬼鳥のレバーに生クリームとニンニク、暴れ鬼鳥の卵を合わせてピューレ状に仕立て、その他の調味料で味を整えてから調理を始める。
 ふんわりとした食感と滑らかな口当たり、そして香るハーブが口の中を優雅なものにしてくれる。
 前菜に合わせるのは発泡性のワイン、ドライな口当たりでムースの味を邪魔しないニュートラルなものを選んである。
 トクトクと注がれるワインは、シュワシュワと細かな泡を立てながらグラスに満たされていく。

「きょ、今日はありがとう」
「いえ! あのイヤリングはとても大切な物だったのほんと助かりました」
「大切な物?」
「はい。祖母の形見なんですよ」
「そうなんだ」

 カチンと乾杯をあげ、互いに一口飲んでふうと息を吐いた二人はぎこちなく会話を始めた。
 いや、ぎこちないのはクロードだけだな。
 ミーニャの方はにこりと柔和な笑顔を浮かべている。
 きっと人見知りなどしない、明るい女性なのだろう。
 獣人特有のケモミミがぴこぴこと動き、とても愛らしい。
 ミーニャは確か北方の部落の出身だったはずだ。
 一人で出稼ぎに来ており、交友関係も広いと聞いている。
 確か種族は紫金狼、だったか。
 狼族は非常に種類の多い魔族だが根本的な所はあまり変わらない。
 群れて狩りを行い、家族を大切にする非常に心優しい種族だ。
 クロードは人界、テイル王国で独り身を通しており、仕事も酷なものだったと聞いている。
 ミーニャの優しさがクロードの冷え切った心を温めてくれればよいのだがな。
 クレア様が連れて来た時、私はクロードの顔をみて少々引いた。
 目に生気はなく、くまどりのような濃いクマ。
 げっそりとこけた頬に艶のない髪。
 爪や肌はボロボロで、きちんと栄養もとらず睡眠もとれていないのだろうと思った。
 そんな状態では心のバランスも著しく低下する。
 鬱のような症状が出てもおかしくはないだろう。
 誰にも相談できず、溜め込み、やらなければならない、これぐらい出来て当然だと、自分に言い聞かせると共に疑心暗鬼に陥って負のスパイラルに落ち込み、心は荒み冷え切っていく。
 私は氷のアストレア、一介の調理師であり数多くの配下を持つ一介の将だ。
 食事の大切さは何よりもわかっている。
 食は体を作り、気持ちを落ち着かせ、幸福を運んでくれる、と私は配下達にも口を酸っぱくして語っている。
 仕事や人間関係で追い詰められていたクロードは、満足に食事もしていなかったのだろう。
 非常に悲しいことだ。
 だから私はブレイブと相談し、彼をキッチンの、食堂の補助スタッフとして招く事にしたのだ。
 キッチンに招き、食の大切さをわかってもらい、味見をさせ、美味しい物を口にした時の幸福感や充足感というものを教えてあげたかった。
 美味そうな食事を前にした客の嬉しそうな顔を見せてやりたかった。
 なによりキッチンにいればつまみ食いが出来るからな。
 そして我らでクロードを肥えさせる事ができるだろう?
 まぁ私の語りはこれくらいにしておこう。
 クロードがそわそわしながらも、次に振る話題を探している。
 しばらくは二人の会話に耳を傾けようじゃないか。

「その、ミーニャはどうして俺の事を知ってるんだ?」
「知りたいですか?」
「そりゃあね」
「クロードさんは、魔王城内では凄く有名なんですよ?」
「えぇ!? 本当かい!?」
「うふふ、そんなに驚かなくても。ご存知ないのですか?」
「知らなかった……」
「ワイバーンを駆って単身魔界に突撃してきた人間。クレア様にスカウトされ、四天王様やクレイモア司令からも一目置かれる人物像。様々な部署を兼任する敏腕な仕事ぶり。何事もそつなくこなすオールラウンダー。そしてなにより、イケメンです」
「いやいや……それは褒めすぎ……」
「事実ですよ? クロードさんはそれくらい凄い方なのです。謙遜してるのかも知れませんけど、私は配送という仕事柄様々な人と話をします。結構耳にするんですよ? クロードさんの話」
「そう、なのか」
「人族なのにどんな魔族を前にしても沈着冷静で物腰穏やかに接する。何の偏見も持たないっていうのは凄い事だと私は思うんですよ」
「偏見とか、そもそも魔族の事あんまり知らないから偏見持ちようがないって」
「そうかも知れませんが……ほら、人族って魔族を敵対視してるじゃないですか」
「そうだなぁ。この前ブルーリバー皇国の軍もそんな事言ってたな」
「そのお話も聞かせてください!」
「えぇ!? そんな面白くないよ?」
「いいんです。私が知りたいんです」
「そ、それなら……えっと最初は……」

 前菜を平らげ、次の料理に舌鼓を打ちながらクロードはゆっくりと話を続ける。
 ミーニャはそれをうんうん、と適度に相槌を入れながら話を聞く。
 ブレイブは二人の邪魔をしないよう、空気と化して自分の仕事をこなしている。
 地平線に輝く黄昏の明かりは徐々に沈んでいき、二人の静かな時間を盛り上げようとしていた。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

前世では伝説の魔法使いと呼ばれていた子爵令嬢です。今度こそのんびり恋に生きようと思っていたら、魔王が復活して世界が混沌に包まれてしまいました

柚木ゆず
ファンタジー
 ――次の人生では恋をしたい!!――  前世でわたしは10歳から100歳になるまでずっと魔法の研究と開発に夢中になっていて、他のことは一切なにもしなかった。  100歳になってようやくソレに気付いて、ちょっと後悔をし始めて――。『他の人はどんな人生を過ごしてきたのかしら?』と思い妹に会いに行って話を聞いているうちに、わたしも『恋』をしたくなったの。  だから転生魔法を作ってクリスチアーヌという子爵令嬢に生まれ変わって第2の人生を始め、やがて好きな人ができて、なんとその人と婚約をできるようになったのでした。  ――妹は婚約と結婚をしてから更に人生が薔薇色になったって言っていた。薔薇色の日々って、どんなものなのかしら――。  婚約を交わしたわたしはワクワクしていた、のだけれど……。そんな時突然『魔王』が復活して、この世が混沌に包まれてしまったのでした……。 ((魔王なんかがいたら、落ち着いて過ごせないじゃないのよ! 邪魔をする者は、誰であろうと許さない。大好きな人と薔薇色の日々を過ごすために、これからアンタを討ちにいくわ……!!))

召喚学園で始める最強英雄譚~仲間と共に少年は最強へ至る~

さとう
ファンタジー
生まれながらにして身に宿る『召喚獣』を使役する『召喚師』 誰もが持つ召喚獣は、様々な能力を持ったよきパートナーであり、位の高い召喚獣ほど持つ者は強く、憧れの存在である。 辺境貴族リグヴェータ家の末っ子アルフェンの召喚獣は最低も最低、手のひらに乗る小さな『モグラ』だった。アルフェンは、兄や姉からは蔑まれ、両親からは冷遇される生活を送っていた。 だが十五歳になり、高位な召喚獣を宿す幼馴染のフェニアと共に召喚学園の『アースガルズ召喚学園』に通うことになる。 学園でも蔑まれるアルフェン。秀な兄や姉、強くなっていく幼馴染、そしてアルフェンと同じ最底辺の仲間たち。同じレベルの仲間と共に絆を深め、一時の平穏を手に入れる これは、全てを失う少年が最強の力を手に入れ、学園生活を送る物語。

A級パーティーを追放された黒魔導士、拾ってくれた低級パーティーを成功へと導く~この男、魔力は極小だが戦闘勘が異次元の鋭さだった~

名無し
ファンタジー
「モンド、ここから消えろ。てめえはもうパーティーに必要ねえ!」 「……え? ゴート、理由だけでも聴かせてくれ」 「黒魔導士のくせに魔力がゴミクズだからだ!」 「確かに俺の魔力はゴミ同然だが、その分を戦闘勘の鋭さで補ってきたつもりだ。それで何度も助けてやったことを忘れたのか……?」 「うるせえ、とっとと消えろ! あと、お前について悪い噂も流しておいてやったからな。役立たずの寄生虫ってよ!」 「くっ……」  問答無用でA級パーティーを追放されてしまったモンド。  彼は極小の魔力しか持たない黒魔導士だったが、持ち前の戦闘勘によってパーティーを支えてきた。しかし、地味であるがゆえに貢献を認められることは最後までなかった。  さらに悪い噂を流されたことで、冒険者としての道を諦めかけたモンドだったが、悪評高い最下級パーティーに拾われ、彼らを成功に導くことで自分の居場所や高い名声を得るようになっていく。 「魔力は低かったが、あの動きは只者ではなかった! 寄生虫なんて呼ばれてたのが信じられん……」 「地味に見えるけど、やってることはどう考えても尋常じゃなかった。こんな達人を追放するとかありえねえだろ……」 「方向性は意外ですが、これほどまでに優れた黒魔導士がいるとは……」  拾われたパーティーでその高い能力を絶賛されるモンド。  これは、様々な事情を抱える低級パーティーを、最高の戦闘勘を持つモンドが成功に導いていく物語である……。

推しがラスボスなので救いたい〜ゲーマーニートは勇者になる

ケイちゃん
ファンタジー
ゲームに熱中していた彼は、シナリオで現れたラスボスを好きになってしまう。 彼はその好意にラスボスを倒さず何度もリトライを重ねて会いに行くという狂気の推し活をしていた。 だがある日、ストーリーのエンディングが気になりラスボスを倒してしまう。 結果、ラスボスのいない平和な世界というエンドで幕を閉じ、推しのいない世界の悲しみから倒れて死んでしまう。 そんな彼が次に目を開けるとゲームの中の主人公に転生していた! 主人公となれば必ず最後にはラスボスに辿り着く、ラスボスを倒すという未来を変えて救いだす事を目的に彼は冒険者達と旅に出る。 ラスボスを倒し世界を救うという定められたストーリーをねじ曲げ、彼はラスボスを救う事が出来るのか…?

授かったスキルが【草】だったので家を勘当されたから悲しくてスキルに不満をぶつけたら国に恐怖が訪れて草

ラララキヲ
ファンタジー
(※[両性向け]と言いたい...)  10歳のグランは家族の見守る中でスキル鑑定を行った。グランのスキルは【草】。草一本だけを生やすスキルに親は失望しグランの為だと言ってグランを捨てた。  親を恨んだグランはどこにもぶつける事の出来ない気持ちを全て自分のスキルにぶつけた。  同時刻、グランを捨てた家族の居る王都では『謎の笑い声』が響き渡った。その笑い声に人々は恐怖し、グランを捨てた家族は……── ※確認していないので二番煎じだったらごめんなさい。急に思いついたので書きました! ※「妻」に対する暴言があります。嫌な方は御注意下さい※ ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇なろうにも上げています。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...