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37 出会い
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「あ、あのっ、その!」
「はああ!? ごめんなさいごめんなさい!」
ぶつかった女性魔族の事をがっちりとホールドしてしまっており、女性魔族がどうしたらいいかわからない、という表情で俺を見上げる。
慌てて手を引き剥がして平謝り。
「ふふっ、びっくりしました」
女性魔族は小首を傾げてにっこりと笑った。
口の端から小さめの牙が覗き、きりりとした切れ長の瞳はきゅっと閉じられている。
薄紫色の髪の毛から漂うシャンプーの匂いがふわふわりと俺の鼻腔をくすぐり、頭頂部から伸びる二本の獣耳が彼女の魔族的特徴を表していた。
「すみません。ぼーっとしてて」
「大丈夫ですよ。私こそすみません、急いでいたもので……」
女性魔族は小脇に包みを抱えており、それをどこかに届けに行く最中だったのだろう。
魔王城は広い。
ゆえに部署間やスタッフ間の配達を担当する輸送係という部門がある。
いわゆる魔王城内限定の〇〇運送みたいな部門だ。
彼女はそこのスタッフさんなのだろう。
「毎日配送お疲れ様です」
「いえいえ! ありがとうございます。確かクロードさん、でしたよね。私はミーニャって言います。今度色々お話し聞かせてくださいね!」
「え? あ、ちょっと!」
ミーニャと名乗った女性魔族はぺこりとお辞儀をすると駆け足で去って行ってしまった。
何で俺の名前を知っているんだろうか?
お話し聞かせて下さいと言われても何を話せというのだろうか。
どきどきと高鳴る純情な胸の鼓動を感じていると、キラリと光を反射する小さなイヤリングが床に落ちているのに気付いた。
「これ……ミーニャさんのだよな」
追いかけようにも既にミーニャの姿は無く、彼女がどこ担当の輸送担当かもわからない。
「落とし物……どこの担当だったっけなぁ……チーフに聞いてみるか」
ポケットにイヤリングを突っ込み、足早に現場へと向かった。
〇
「あぁ!? あんだってぇ!?」
「ですからぁ! 落とし物はぁ! どこにぃ!届ければぁ!」
「あー! あそこだよ! 雑品管理! 城の! 二階だ!」
「ありがとうございますぅ!」
クレアに招致される前は、魔王城の地下にて俺とチーフと他二人での配管工事の真っ最中だった。
地下水を汲み上げるパイプが深い縦穴に沿って伸びている所が現場なのだが、今チーフを含めて三人は地下深くに降りてしまっている。
なので俺は縦穴の入り口から大声で叫んでいるわけだ。
「行ってきてぇ! いいですかぁ!」
「さっさと戻ってこぉい!」
「ありがとうございまぁす!」
二階か……今いるのが地下三階だからな……。
遠いけど走るしかないな。
そうして俺は遥々五階分を駆け上がって廊下を走り、ちょっと歩いてまた走る。
城内の案内板を見てようやく雑品管理室へと辿り着いた。
「あ……君は」
「クロードさん! さっきぶりですね!」
雑品管理室の扉から出てきたミーニャとたまたま出くわし、互いに目を丸くする。
きっとイヤリングを探しにきたのだろう。
「あの、ミーニャさんひょっとしてこれ、探してましたか?」
ポケットからイヤリングを取り出し、掌にのせてミーニャに見せた。
「あ! そうですそうです! ありがとうございますー! ぶつかった時に落としたんですね! 拾ってくれたんですか?」
「はい。気付いた時にはもう見えなくて。すみません」
「いえいえいえ! 謝らないで下さい! それとミーニャでいいですよ!」
「え、あ、じゃ、じゃあミーニャ……」
「はい、ミーニャです。あの、今夜ってお時間ありますか?」
「今夜?」
「はい! ご予定がなければ! イヤリングを拾って頂いたお礼です!」
「あ、えっと……明日とかはダメですか?」
「わかりました! では明日……そうですね、夕方六の刻に四階テラス前でどうでしょう?」
「わかりました」
「ではまた明日、お待ちしていますね!」
「は、はい……」
ミーニャは耳をぴこぴこと動かし、快活そうな笑顔で手を振り去って行った。
これってさぁ。
あれだよな。
どう考えてもデートのお誘いだよな?
『いやまてクロード。向こうにそんな意味はないかもしれない』
そんな事を考えていると、頭の中に悪魔なクロードが出現した。
かと思えば--。
『クロード、彼女の瞳を見たでしょう。あれは確実にデートのお誘い。男を見せる時ですよ』
目をつむり、神々しい光を纏った天使クロード。
『馬鹿野郎! クロードは女と手も繋いだ事もない男だぞ? そんな男がイヤリングを拾ったくらいでデートに誘われるかってんだ!』
『馬鹿野郎とはなんですか! たとえクロードが女性に免疫がない奥手なびびりだったとしても! 受けた思いに向き合う責務はあるのです!』
おい、お前ら俺自身だろ。
言い過ぎだと思うんだけど?
『イヤリングを拾いました、好きですちゅっちゅなんて展開、ゲームやラノベでもない限りありえないっつうの! 童貞に夢見せるな! この悪徳天使が!』
『事実は小説よりも奇なり、何事も起きてみなければ分からない事だってあります。例え気になる女子がいても声をかけられず、ただ毎日見惚れていただけのチキン野郎だとしてもです!』
あああもういい! うるさいよお前ら!
人の頭の中でメインの悪口いうなよ!
『そういえば小さい頃、どっかのお貴族さんの令嬢に恋した時、声もかけられなくていつもいつも木陰から令嬢の事見てたよなぁ』
『あーあれはちょっと引きましたね。ストーカーかって』
結託するな! 意気投合するな! そこは争えよ!
ほんとにもう、勘弁してくれ。
ちょっと舞い上がってただけじゃないか……そんな黒歴史掘り返さないで……。
という形で、半ば強引に俺の初デートが決まってしまったのだった。
……デートだよな?
「はああ!? ごめんなさいごめんなさい!」
ぶつかった女性魔族の事をがっちりとホールドしてしまっており、女性魔族がどうしたらいいかわからない、という表情で俺を見上げる。
慌てて手を引き剥がして平謝り。
「ふふっ、びっくりしました」
女性魔族は小首を傾げてにっこりと笑った。
口の端から小さめの牙が覗き、きりりとした切れ長の瞳はきゅっと閉じられている。
薄紫色の髪の毛から漂うシャンプーの匂いがふわふわりと俺の鼻腔をくすぐり、頭頂部から伸びる二本の獣耳が彼女の魔族的特徴を表していた。
「すみません。ぼーっとしてて」
「大丈夫ですよ。私こそすみません、急いでいたもので……」
女性魔族は小脇に包みを抱えており、それをどこかに届けに行く最中だったのだろう。
魔王城は広い。
ゆえに部署間やスタッフ間の配達を担当する輸送係という部門がある。
いわゆる魔王城内限定の〇〇運送みたいな部門だ。
彼女はそこのスタッフさんなのだろう。
「毎日配送お疲れ様です」
「いえいえ! ありがとうございます。確かクロードさん、でしたよね。私はミーニャって言います。今度色々お話し聞かせてくださいね!」
「え? あ、ちょっと!」
ミーニャと名乗った女性魔族はぺこりとお辞儀をすると駆け足で去って行ってしまった。
何で俺の名前を知っているんだろうか?
お話し聞かせて下さいと言われても何を話せというのだろうか。
どきどきと高鳴る純情な胸の鼓動を感じていると、キラリと光を反射する小さなイヤリングが床に落ちているのに気付いた。
「これ……ミーニャさんのだよな」
追いかけようにも既にミーニャの姿は無く、彼女がどこ担当の輸送担当かもわからない。
「落とし物……どこの担当だったっけなぁ……チーフに聞いてみるか」
ポケットにイヤリングを突っ込み、足早に現場へと向かった。
〇
「あぁ!? あんだってぇ!?」
「ですからぁ! 落とし物はぁ! どこにぃ!届ければぁ!」
「あー! あそこだよ! 雑品管理! 城の! 二階だ!」
「ありがとうございますぅ!」
クレアに招致される前は、魔王城の地下にて俺とチーフと他二人での配管工事の真っ最中だった。
地下水を汲み上げるパイプが深い縦穴に沿って伸びている所が現場なのだが、今チーフを含めて三人は地下深くに降りてしまっている。
なので俺は縦穴の入り口から大声で叫んでいるわけだ。
「行ってきてぇ! いいですかぁ!」
「さっさと戻ってこぉい!」
「ありがとうございまぁす!」
二階か……今いるのが地下三階だからな……。
遠いけど走るしかないな。
そうして俺は遥々五階分を駆け上がって廊下を走り、ちょっと歩いてまた走る。
城内の案内板を見てようやく雑品管理室へと辿り着いた。
「あ……君は」
「クロードさん! さっきぶりですね!」
雑品管理室の扉から出てきたミーニャとたまたま出くわし、互いに目を丸くする。
きっとイヤリングを探しにきたのだろう。
「あの、ミーニャさんひょっとしてこれ、探してましたか?」
ポケットからイヤリングを取り出し、掌にのせてミーニャに見せた。
「あ! そうですそうです! ありがとうございますー! ぶつかった時に落としたんですね! 拾ってくれたんですか?」
「はい。気付いた時にはもう見えなくて。すみません」
「いえいえいえ! 謝らないで下さい! それとミーニャでいいですよ!」
「え、あ、じゃ、じゃあミーニャ……」
「はい、ミーニャです。あの、今夜ってお時間ありますか?」
「今夜?」
「はい! ご予定がなければ! イヤリングを拾って頂いたお礼です!」
「あ、えっと……明日とかはダメですか?」
「わかりました! では明日……そうですね、夕方六の刻に四階テラス前でどうでしょう?」
「わかりました」
「ではまた明日、お待ちしていますね!」
「は、はい……」
ミーニャは耳をぴこぴこと動かし、快活そうな笑顔で手を振り去って行った。
これってさぁ。
あれだよな。
どう考えてもデートのお誘いだよな?
『いやまてクロード。向こうにそんな意味はないかもしれない』
そんな事を考えていると、頭の中に悪魔なクロードが出現した。
かと思えば--。
『クロード、彼女の瞳を見たでしょう。あれは確実にデートのお誘い。男を見せる時ですよ』
目をつむり、神々しい光を纏った天使クロード。
『馬鹿野郎! クロードは女と手も繋いだ事もない男だぞ? そんな男がイヤリングを拾ったくらいでデートに誘われるかってんだ!』
『馬鹿野郎とはなんですか! たとえクロードが女性に免疫がない奥手なびびりだったとしても! 受けた思いに向き合う責務はあるのです!』
おい、お前ら俺自身だろ。
言い過ぎだと思うんだけど?
『イヤリングを拾いました、好きですちゅっちゅなんて展開、ゲームやラノベでもない限りありえないっつうの! 童貞に夢見せるな! この悪徳天使が!』
『事実は小説よりも奇なり、何事も起きてみなければ分からない事だってあります。例え気になる女子がいても声をかけられず、ただ毎日見惚れていただけのチキン野郎だとしてもです!』
あああもういい! うるさいよお前ら!
人の頭の中でメインの悪口いうなよ!
『そういえば小さい頃、どっかのお貴族さんの令嬢に恋した時、声もかけられなくていつもいつも木陰から令嬢の事見てたよなぁ』
『あーあれはちょっと引きましたね。ストーカーかって』
結託するな! 意気投合するな! そこは争えよ!
ほんとにもう、勘弁してくれ。
ちょっと舞い上がってただけじゃないか……そんな黒歴史掘り返さないで……。
という形で、半ば強引に俺の初デートが決まってしまったのだった。
……デートだよな?
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