ブラック王国軍から脱退した召喚士、前世の記憶が蘇り現代兵器も召喚出来るようになりました

登龍乃月

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36 相容れない存在

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「クロード・ラスト以下三名、只今帰投しました」
「うむ。ご苦労じゃった」

 カイオワで魔王城に帰投した俺達は、すぐにクレアの元を訪れて細かい報告を行った。

「探し物はクロじゃったか」
「はい」
「にしてもブルーリバーめ。というよりそのホルンストとかいう男じゃな。我が魔族を愚弄しおってからに」

 クレアはホルンストが言った言葉にだいぶご立腹な様子。
 そりゃ薄汚いだの畜生だのと言われたら誰だって怒るよなぁ。
 そういえば俺がテイル王国にいた時も、似たような事言われてたな。
 そうだよ。
 普通は怒ってしかるべきなのに、あの時はただ愛想笑いで誤魔化すくらいしかしてなかった。
 慣れって怖い。
 俺はその時素直にそう思った。

「今更な事聞いてもいいですか?」
「む? なんじゃ、申してみぃ」
「どうして魔族は人間から毛嫌いされているのですか?」

 根本的な原因、魔族が人間の敵だという大前提、戦争が絶えない理由、対立する源。
 それが分かれば何かしらの道が生まれるとは思うのだけど……。

「知らん」
「そ、そうですか」
「なぜ我らがそんな細かい事を気にしなければならんのじゃ。人間の行動理由なんぞ興味もないわ」
「でもそれじゃ争いが続くだけじゃ……」
「それのどこが悪いのじゃ?」

 あーそうだ。
 魔族は戦いヒャッハーだった。
 争う事に忌避感を抱かないし、むしろ喜んで参加するような生き物だった。
 そしてこの時、人間と魔族は絶対に相容れないのだと悟った瞬間だった。
 人間は争いに理由を付ける。
 理由なき暴力は悪だと思っているからだ。
 だが魔族は争いが好きだ。
 理由も些細な事だったり、理由も無いのに争いを楽しむ。
 目が合ったから、という理由だけで戦争をおっぱじめるヤンキーみたいな種族もいる。
 魔族にとって暴力とはコミュニケーションの一つであり、争いは祭りでありスポーツと同じような意味合いなのだ。
 分かり合えるわけがない。
 あぁ、だから人間は魔族を悪だと言うのか。
 人間には理解出来ない、相容れない存在を悪とし、嫌悪する風習があるしな。
 けどこうして一歩歩み寄れば人間なんかよりよっぽどマシな気がするけどな。
 それともこれも、狡猾な魔王クレアの策略なのだろうか。
 だとすれば俺はまんまとクレアの智謀に踊らされているということになるけど……別にいいよな。
 こんだけ高待遇なんだから踊らされてて充分結構だ。
 週休完全二日制、有給手当に残業手当、福利厚生もバッチリで、なんなら残業すら無いこの職場のどこに文句をつけようというのだ。
 いや無い。
 あるはずが無い。
 なんなら一生踊らせてくれって話だ。
 サリアやダレク、カレンを見る限り本気でクレアに忠誠を誓っているみたいだし、魔王城にいるどの魔族を見ても演技をしているふうには見えない。
 これが策謀だというなら、俺一人に対して規模がデカすぎるだろうに。

「クロの行動は別に咎めはせん。むしろ良くやった。褒めてつかわす」
「あ、ありがとうございます?」
「これでブルーリバー皇国が憤怒に任せて我らに殴り込みをかけるというなら……それもまた一興。全力で受けて立ち、正々堂々叩き潰すまでじゃ。くっくっく、楽しみじゃのう……最近どうにも腕が鈍ってる気がしてのー」

 悪そうな笑みを浮かべで腕をぐるぐる回す我らが魔王様。
 クレアの実力がどの程度なのかは知らないけれど、四天王や周囲の魔族の言葉を借りるとするなら『魔王として納得するほどの強さ』だそうだ。
 妹のクレイモア曰く「姉の本気のグーパンは砦を粉砕する」そうだ。
 全くもって意味がわからない。
 見た目は十二、十三程度の幼い容姿でジムにある十キロのダンベルも持ち上げられなそうな華奢な腕をしているのに、である。
 
「どれ、ちょっとばかし闘技場でも荒らしてこようかのぉ」

 報告を聞き終えたクレアは無邪気な笑顔を浮かべ、玉座からぴょんこ、と飛び降りた。
 どうやら話はここで終わりのようだ。
 ダレク達もそれを察したようで、スキップをするクレアを笑顔で見送り、その後に続いた。
 もちろん俺も一緒に玉座の間を出ていく。
 
「それじゃ、また一緒になる時があったら頼むわ」
「はい、ありがとうございました」
「私の助けが必要だったらいつでも呼んでねー」
「はい」
「カイオワとか言うモンスター、非常に気に入った。今度貸してはくれまいか」
「構いませんよ。いつでも言ってください」

 ダレク達は仕事に戻ると言って、別々の方向に向かって行った。
 そして俺も元の現場に戻ろうと廊下を曲がった時。
 
「きゃっ」
「わっ」

 廊下を曲がった途端、女性の魔族とぶつかってしまった。
 身長差があって、女性魔族の頭がちょうど俺の胸の所にあたってしまい、思わず抱き止める形になってしまった。
 咄嗟のこととはいえ、女性とこんな形で密着したことのない俺はそのまま氷漬けになってしまったかのようにカチコチに固まってしまった。
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