ブラック王国軍から脱退した召喚士、前世の記憶が蘇り現代兵器も召喚出来るようになりました

登龍乃月

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33 豹変

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「ねぇ」
「はい?」

 突然襟首を引っ張られ、サリアが耳元に口を寄せてきた。
 はぁ、と小さい吐息が耳にかかり、思わず変な声が出そうになった。

「…………」
「え? わ、わかりました。いいんですか?」

 サリアは俺の純情のことなどいざ知らず、ボソボソと耳打ちをする。

「……から」
「じゃないと話が進まない? なんのことですか? あぁ、はい、わかりましたよ」

 やいのやいのと押し問答を繰り返しているおホルンストとダレク達をちらりと見て、俺は小さく嘆息する。
 本当にいいのだろうか。
 絶対に良くない気がするんだけどなぁ。
 まあでも、伝えないとこの人達、ずっと探してそうだしな。
 そうすると皇国軍が魔界を、魔族領をうろつき続けることになるし……仕方ない。

「あのですね、ホルンストさん」
「む? 何かね?」
「お伝えしなければならない大事な事があります」
「大事な事?」
「はい」
「おい、まさか」
「いいの」

 ダレクが俺を止めようとするが、それをサリアが引き留めた。
 怪訝な顔をしているホルンストに対し、俺はゆっくりと口を開いた。

「お探しのクロード・ラストですが、探しても無駄ですし、ブルーリバー皇国には行きません」
「なぜだ? なぜそう言い切れる」
「それは……俺がそのクロード・ラストだからです」
「……何?」

 ホルンストは珍妙なものを見たかのような顔になり、そしてみるみるうちに顔が赤くなっていった。

「君がクロード、君なのか? なぜ我が皇国の誘いを断るのだ! まさか既に魔王軍の手に落ちたというのか? 何をされた! 魔王は人間の大敵だぞ! そもそも君らもだ! なぜ人間が魔族に与している!」
「お気持ちはわかりますが、俺は魔王様から何かをされた訳ではありません。自分の意思で魔王軍に属し、俺の意思であなたの誘いを断っているんです」
「そんな事が信じられるか! 栄誉あるブルーリバー皇国だぞ! それを断り人間の敵になると言うのか!」
「魔族を敵対しているのは人間側の勝手ではないのですか? 俺は魔界に来て分かりましたが魔族は悪い存在ではありませんよ。全部を知ったわけではないですが、少なくとも俺の周りの魔族はそうです」
「そんなわけがあるか! 魔族は敵だ! 憎むべき存在だ! 悪逆非道の限りを尽くし、女子供は食うか犯される! 実際魔族により滅ぼされた村だってあるのだぞ!」
「じゃあ逆に聞きますけど、人間側がそれをしなかったとでも言うのですか?」
「何を言う! 魔族は敵だ! 滅ぼされるべき存在に情けなどかける必要はない!」

 怒りに染まりきったホルンストは全身をわなわなと震わせ、自分がいかに矛盾した事を言っているのかが分かっていないようだ。
 ひょっとしたら俺の知らない魔族の一面があるのかも知れない。
 けど、ホルンストは魔族全てを対象にしている。
 だが人間は何をしてもいい。
 どんだけ傲慢なんだよ。

「クロード。どうする?」
「めっちゃおこじゃーん。こっちの話は聞かないぞーって感じー」
「こういう輩は何を言っても無駄。自分が正しいと信じ切ってる」

 肩で息をし、俺達を睨み付けていたホルンストはさらに続ける。

「そうか、貴様らは魔王に、魔族によって洗脳を受けたに違いない。我が皇国に来ればそんな洗脳など解いてやる。薄汚い魔族どもに手を貸す必要なんてないんだ」
「薄汚い、ねぇ」
「そうとも。我らは誇りある人間だ。畜生のごとき魔族に与するなぞありえん!」
「誇りかーくだらなー」
「唾棄すべきは人間、だから私は人を捨てた」

 とにもかくにも話は平行線。
 俺達とホルンストが相入れる事は絶対にないだろう。

「私の言葉に耳も貸さないか……どうやら何を言っても無駄なようだな」
「そりゃどっちだよ。聞いて呆れちまうぜ」
「こうなれば無理矢理にでもお前達を連れ帰って洗脳を解かねばなるまい」
「へーやろうってのー? 勇気と蛮勇は違うってー」
「やめといた方が身の為。本当に」
「全軍! 戦闘準備! 構え!」

 どうにも止まらなくなったホルンストはあろうことか敵意を剥き出しにし、号令を飛ばした。
 控えていた兵士達は何も言わず、黙ってホルンストの言葉に従った。
 上官の命令は絶対。
 俺の脳裏にテイル王国での記憶がフラッシュバックする。

「あーあ。やる気だよ」
「ばっかだねー」
「私達が四人だからって舐めてる」

 呆れた様子の三人だが、その三人を俺は手で制した。

「俺にやらせてください」
「お、やんのか!」
「いいよいいよー!」
「お手並み拝見」

 さすがにお世話になった人へあそこまで悪口を言われて黙っている俺ではない。
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