ブラック王国軍から脱退した召喚士、前世の記憶が蘇り現代兵器も召喚出来るようになりました

登龍乃月

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30 ホルンスト

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 魔王城を飛び立ち、一時間も経たないうちにブルーリバー皇国軍の姿を視認する。

「みなさん、着きましたよ。着陸します」
「はぁ?! もう着いたってのか!?」
「うっそぉ……!」
「このモンスター、やる」

 ヒュンヒュンヒュンとプロペラの音を奏でながらカイオワがゆっくりと地面に降り立つ。
 外に出た俺達の数十メートル先には硬直しつつも戦闘態勢を取る皇国軍の姿。
 刺激しないように両手をあげながらゆっくりと近付いていく。
 皇国軍も下手に手を出してこない所を見るとやはり戦闘の意思はないようだった。
 俺達は横一列に並び、ゆっくりと距離を縮めていく。
 すると皇国軍側からも数名の軍馬に乗った兵士が進み出てきた。
 風体を見る限り将校クラス。
 襟元には無数の勲章がベタベタと貼り付けられている。
 ブルーリバー皇国はテイル王国ほどではないにしろ、魔界との境界線近くに領土を構える国だ。
 その分魔族との小競り合いもテイル王国なんかより数倍は多いと聞く。
 恐らく兵士一人一人の練度は確実にテイル王国軍よりも上だろう。

「こちらは魔王様直轄の伝令だ。戦闘の意思はない!」

 すっと一歩前に出たダレクが大声を上げると騎乗していた将校が馬から飛び降り、こちらと同じようにゆっくりと歩み寄ってきた。

「こちらはブルーリバー皇国軍……遠征部隊、私は隊長のホルンスト少将だ。同じく我々にも敵対意思はない」
「あのですねー何してるのか聞いてこいってクレア様に言われたので来ましたー」

 緊張感たっぷりに言うホルンストに対し、間延びした言い方で緊張感ゼロのサリア。
 元賢者という心の余裕というやつなのだろうか。
 俺なんて緊張しまくりで手汗がすごい事になっているというのに。
 こんなに手汗をかくのはテイル王国で作業や書類作成に追われ、ストレスが限界に達して神経がいかれ始めた時以来だ。
 前世の記憶で言うならば自律神経がおかしくなった、といった所だろうか。
 あの時は大変だった、何が大変て大事な書類が手汗でしおしおのびしょびしょになるわ、ペンは滑るわ、インクは滲むわで……あぁ、本当やめてよかった。

「何を探しているの? 今言い淀んだけど、遠征部隊って今付けたでしょう?」
「それは……」

 すごい。
 あの一瞬の会話だけでそれだけの事がわかるなんて……さすがは百年以上生きている魔女サリアさんだ。

 言葉の節々から様々な情報を読み取り、相手にプレッシャーをかける、うん、俺も見習おう。

「それは言えない、とか言いませんよね? 理由も言えないのに魔界をうろつかれるとちょーっと迷惑なんですよね」
「見た所君たちも人間のようだが……?」
「はい、話を逸らさない。よくないですよ、そういうの」
「ぬ……!」
「俺はどうって事ないんですけどね? ウチのボスがイラついてらっしゃるんですよ。この意味、わかりますよね?」

 ダレクさんの言葉は一見丁寧に接しているように聞こえるけど、その体から噴き出ている闘気が尋常じゃない。
 戦闘はからっきし素人な俺でもわかる、めっちゃ脅してる。
 ヤクザみたいだ。

「人的被害は出てないみたいなんで多めに見てますけど……事と次第によっちゃ排除しろって言われてるんですよねぇ」

 引き抜いたショートソードを肩でトントンしながら睨みを効かせるダレク。
 どこからどうみてもイチャモンつけてるヤクザだ。
 あれ? この人剣聖とか言われてたはずでは?
 剣聖ヤクザおそるべし。

「ま、待て! こちらとしてはそんなつもりはない!」
「じゃあ教えてくれませんかね? そんな大部隊を率いて何を探してるのか」
「むう……致し方ない。実は我々ブルーリバー皇国はある人物を探していてな」
「人探しですか? こんな大部隊で?」
「嘘じゃない! その探し人は魔界に向かったという情報しかないのだ。ゆえに人海戦術でこうして……」
「なるほど。魔王城に向けて直進していたのは?」
「その探し人が向かった方角が魔王城だったというだけだ」
「ほんとかい?」

 額に汗を浮かべながら説明するホルンストに詰め寄り、下からじっと見つめるヤクザ、もとい剣聖ダレク。
 そこに俺の横から助け舟が入った。

「ダレクーその人嘘ついてないよー」
「本当か?」
「うん。私の真眼【見通す悪意】には何も映らないからー」

 ふと横を見れば、カレンの両目に紋様が浮かび上がっており、それが神々しい光りを放っている。
 見通す悪意……嘘発見機みたいなもんか?

「じゃあその探し人ってのは誰? よかったらこちらも手伝いが出来るかもしれない」

 サリアが眠たそうな目を細め、手を差し伸べるとダレクも闘気の放出をやめた。
 ホッと安堵の表情を浮かべたホルンストは一瞬躊躇したようだが、ゆっくりと、しかしはっきりとその名を告げた。

「クロード・ラスト。それが我々の探している重要人物の名前だ」
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