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25 ネルソン
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「陛下。よろしいのですか?」
「なんだ」
「その……コザや他の者に真実を明かさないでよろしいのですか?」
ネルソンはガイアからクロードの力の事を一切漏らすなと厳命を受けてはいた。
しかしそれもここまで事態が悪化しているのに真実を隠し通すのは悪手でしかないのではないか、と心の中で思っていた。
現在街に闊歩しているモンスター達は徐々に捉えられつつある。
だがモンスターを捉えれば次は民衆の問題だ。
平穏な日常を送っていた民衆からすれば、今回の事件はわけもわからぬままに起き、その原因が自分の国の軍から逃げてきたモンスターにあるとすればどうなるか。
民衆は怒るだろう、当たり前だ。
報告によれば多数の死傷者も出ている。
軍部の管理能力の甘さや、その他諸々の事についても糾弾してくるだろう。
ひいては軍を管理している王室へも糾弾の声は届く。
民衆には事故だと説明し、理由をこじつけてしまえばいいのかもしれないが……。
さきほどコザを含めクロードの顛末に関わった者達へクロードを連れ戻すようにとの厳命がくだった。
しかし真実を伝えずに「君はクロードを虐めたから逮捕ね」という理由で捕縛された者達は納得がいっていないようだった。
「ならん。クロードは国家の機密中の機密、漏らすことはまかりならん」
「ですが……なぜですか? なぜそう頑なに隠そうとされるのですか」
「くどい。クロードを連れ帰れば済む話だ」
「は……」
ネルソンは分からなかった。
クロードが召喚士で軍を支えている礎だというならば、公けにしないまでも軍中枢の者達には知らせておくべきではないのか。
そうすれば今回の事は起こらなかったのかもしれない。
(もうダメかもしれんな)
ネルソンはガイアに頭を下げながらそう思っていた。
これだけの被害が出てしまっているのだからおそらく貴族連中も黙っていないだろうし、絶対に他国からの介入が始まる。
援助、支援、侵略、あらゆる事態に発展する可能性が非常に高い。
もしかすると日頃溜まっていた王室や軍部への不満が爆発し、革命に至る可能性すら捨てきれない。
そんなギリギリの所にまで、テイル王国は追い込まれているのだ。
それでもガイアはだんまりを決め込むのだろうか。
クロードを呼び戻せば全てが解決する、そんな甘い状況にない事はガイアもわかっているはずなのだ。
(陛下は何をお考えなのだ)
ネルソンは頭を悩ませる。
真実を告げなければきっとあの者達は反省などしない。
コザを始め一部の軍幹部は自分の事しか考えていないのが如実に見て取れた。
部下をなじり、手柄を独占し、出世や欲、名誉を優先する。
自分の知った事ではない、他の誰かが責任を被るべきだろう、そんな考えの者達。
腐敗した軍部、明かさない真実、広がる被害。
(もう、この国はダメかもしれんな)
ネルソンは深くため息を吐く。
テイル王国が誇る軍の威光はすでになく、一歩一歩崩壊へと歩みを進めている。
(真実を告げた所で何も変わらない、こうなってしまってはもう崩壊を止められないのかもしれないな)
クロードが戻ってくるとは思えないし、戻ってきたとしても、根本を変え、体制を変え、人事を変え、あらゆる面を改善しなければならないだろう。
それが出来るのだろうか。
出来ないだろう、とネルソンは鼻で笑った。
それこそ革命を起こし、粛清を行わなければ何も変わりはしない。
首を取り、体を浄め、真っ白な状態にして一から--。
(ふ……公安局長の私がこんな事を考えるようではいかんな)
クロードが帰ってこないなら、モンスターに頼れないなら、それ相応に部隊を立て直し、人事を再調整し、出来る事から始めなければならない。
そう考えを改めたネルソンは足早に軍部へと向かった。
「なんだ」
「その……コザや他の者に真実を明かさないでよろしいのですか?」
ネルソンはガイアからクロードの力の事を一切漏らすなと厳命を受けてはいた。
しかしそれもここまで事態が悪化しているのに真実を隠し通すのは悪手でしかないのではないか、と心の中で思っていた。
現在街に闊歩しているモンスター達は徐々に捉えられつつある。
だがモンスターを捉えれば次は民衆の問題だ。
平穏な日常を送っていた民衆からすれば、今回の事件はわけもわからぬままに起き、その原因が自分の国の軍から逃げてきたモンスターにあるとすればどうなるか。
民衆は怒るだろう、当たり前だ。
報告によれば多数の死傷者も出ている。
軍部の管理能力の甘さや、その他諸々の事についても糾弾してくるだろう。
ひいては軍を管理している王室へも糾弾の声は届く。
民衆には事故だと説明し、理由をこじつけてしまえばいいのかもしれないが……。
さきほどコザを含めクロードの顛末に関わった者達へクロードを連れ戻すようにとの厳命がくだった。
しかし真実を伝えずに「君はクロードを虐めたから逮捕ね」という理由で捕縛された者達は納得がいっていないようだった。
「ならん。クロードは国家の機密中の機密、漏らすことはまかりならん」
「ですが……なぜですか? なぜそう頑なに隠そうとされるのですか」
「くどい。クロードを連れ帰れば済む話だ」
「は……」
ネルソンは分からなかった。
クロードが召喚士で軍を支えている礎だというならば、公けにしないまでも軍中枢の者達には知らせておくべきではないのか。
そうすれば今回の事は起こらなかったのかもしれない。
(もうダメかもしれんな)
ネルソンはガイアに頭を下げながらそう思っていた。
これだけの被害が出てしまっているのだからおそらく貴族連中も黙っていないだろうし、絶対に他国からの介入が始まる。
援助、支援、侵略、あらゆる事態に発展する可能性が非常に高い。
もしかすると日頃溜まっていた王室や軍部への不満が爆発し、革命に至る可能性すら捨てきれない。
そんなギリギリの所にまで、テイル王国は追い込まれているのだ。
それでもガイアはだんまりを決め込むのだろうか。
クロードを呼び戻せば全てが解決する、そんな甘い状況にない事はガイアもわかっているはずなのだ。
(陛下は何をお考えなのだ)
ネルソンは頭を悩ませる。
真実を告げなければきっとあの者達は反省などしない。
コザを始め一部の軍幹部は自分の事しか考えていないのが如実に見て取れた。
部下をなじり、手柄を独占し、出世や欲、名誉を優先する。
自分の知った事ではない、他の誰かが責任を被るべきだろう、そんな考えの者達。
腐敗した軍部、明かさない真実、広がる被害。
(もう、この国はダメかもしれんな)
ネルソンは深くため息を吐く。
テイル王国が誇る軍の威光はすでになく、一歩一歩崩壊へと歩みを進めている。
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クロードが戻ってくるとは思えないし、戻ってきたとしても、根本を変え、体制を変え、人事を変え、あらゆる面を改善しなければならないだろう。
それが出来るのだろうか。
出来ないだろう、とネルソンは鼻で笑った。
それこそ革命を起こし、粛清を行わなければ何も変わりはしない。
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(ふ……公安局長の私がこんな事を考えるようではいかんな)
クロードが帰ってこないなら、モンスターに頼れないなら、それ相応に部隊を立て直し、人事を再調整し、出来る事から始めなければならない。
そう考えを改めたネルソンは足早に軍部へと向かった。
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