ブラック王国軍から脱退した召喚士、前世の記憶が蘇り現代兵器も召喚出来るようになりました

登龍乃月

文字の大きさ
上 下
25 / 73

25 ネルソン

しおりを挟む
「陛下。よろしいのですか?」
「なんだ」
「その……コザや他の者に真実を明かさないでよろしいのですか?」

 ネルソンはガイアからクロードの力の事を一切漏らすなと厳命を受けてはいた。
 しかしそれもここまで事態が悪化しているのに真実を隠し通すのは悪手でしかないのではないか、と心の中で思っていた。
 現在街に闊歩しているモンスター達は徐々に捉えられつつある。
 だがモンスターを捉えれば次は民衆の問題だ。
 平穏な日常を送っていた民衆からすれば、今回の事件はわけもわからぬままに起き、その原因が自分の国の軍から逃げてきたモンスターにあるとすればどうなるか。
 民衆は怒るだろう、当たり前だ。
 報告によれば多数の死傷者も出ている。
 軍部の管理能力の甘さや、その他諸々の事についても糾弾してくるだろう。
 ひいては軍を管理している王室へも糾弾の声は届く。
 民衆には事故だと説明し、理由をこじつけてしまえばいいのかもしれないが……。
 さきほどコザを含めクロードの顛末に関わった者達へクロードを連れ戻すようにとの厳命がくだった。
 しかし真実を伝えずに「君はクロードを虐めたから逮捕ね」という理由で捕縛された者達は納得がいっていないようだった。

「ならん。クロードは国家の機密中の機密、漏らすことはまかりならん」
「ですが……なぜですか? なぜそう頑なに隠そうとされるのですか」
「くどい。クロードを連れ帰れば済む話だ」
「は……」

 ネルソンは分からなかった。
 クロードが召喚士で軍を支えている礎だというならば、公けにしないまでも軍中枢の者達には知らせておくべきではないのか。
 そうすれば今回の事は起こらなかったのかもしれない。

(もうダメかもしれんな)

 ネルソンはガイアに頭を下げながらそう思っていた。
 これだけの被害が出てしまっているのだからおそらく貴族連中も黙っていないだろうし、絶対に他国からの介入が始まる。
 援助、支援、侵略、あらゆる事態に発展する可能性が非常に高い。
 もしかすると日頃溜まっていた王室や軍部への不満が爆発し、革命に至る可能性すら捨てきれない。
 そんなギリギリの所にまで、テイル王国は追い込まれているのだ。
 それでもガイアはだんまりを決め込むのだろうか。
 クロードを呼び戻せば全てが解決する、そんな甘い状況にない事はガイアもわかっているはずなのだ。

(陛下は何をお考えなのだ)

 ネルソンは頭を悩ませる。
 真実を告げなければきっとあの者達は反省などしない。
 コザを始め一部の軍幹部は自分の事しか考えていないのが如実に見て取れた。
 部下をなじり、手柄を独占し、出世や欲、名誉を優先する。
 自分の知った事ではない、他の誰かが責任を被るべきだろう、そんな考えの者達。
 腐敗した軍部、明かさない真実、広がる被害。
 
(もう、この国はダメかもしれんな)

 ネルソンは深くため息を吐く。
 テイル王国が誇る軍の威光はすでになく、一歩一歩崩壊へと歩みを進めている。
 
(真実を告げた所で何も変わらない、こうなってしまってはもう崩壊を止められないのかもしれないな)

 クロードが戻ってくるとは思えないし、戻ってきたとしても、根本を変え、体制を変え、人事を変え、あらゆる面を改善しなければならないだろう。
 それが出来るのだろうか。
 出来ないだろう、とネルソンは鼻で笑った。
 それこそ革命を起こし、粛清を行わなければ何も変わりはしない。
 首を取り、体を浄め、真っ白な状態にして一から--。

(ふ……公安局長の私がこんな事を考えるようではいかんな)

 クロードが帰ってこないなら、モンスターに頼れないなら、それ相応に部隊を立て直し、人事を再調整し、出来る事から始めなければならない。
 そう考えを改めたネルソンは足早に軍部へと向かった。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

婚約破棄は誰が為の

瀬織董李
ファンタジー
学園の卒業パーティーで起こった婚約破棄。 宣言した王太子は気付いていなかった。 この婚約破棄を誰よりも望んでいたのが、目の前の令嬢であることを…… 10話程度の予定。1話約千文字です 10/9日HOTランキング5位 10/10HOTランキング1位になりました! ありがとうございます!!

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。

サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。 人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、 前世のポイントを使ってチート化! 新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

処理中です...