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20 銀楼狐
しおりを挟むウェンズデー丘陵にて展開する兵達を見ながらパトリシアはやれやれと嘆息する。
今回相手になるのは魔界を彷徨う虎蜘蛛族。
大した脅威ではないと思っているが、パトリシアは蜘蛛が嫌いだった。
だからと言って滅びてしまえなどとは思っていないが、難癖を付けられたのなら「よろしい戦争だ」となるくらいには嫌いだった。
パトリシアが虎蜘蛛族を嫌いな理由は複数あるが、大前提としての理由は一つ。
美しくないからだ。
銀楼狐族族長であるパトリシアは己の種族の美しさを自覚している。
それはもう、毎日朝昼晩、鏡の前に立って自画自賛するほどに自覚している。
これは銀楼狐族共通の事だが、この種族は己の美しさに対して非常にプライドが高い。
魔界一美しいのは我が種族だと、公言するくらいにはプライドが高い。
だが逆に、それが周囲の種族の反感を買う事も少なくない。
それゆえに戦争の頻度も高いのだが、銀楼狐族は魔法に精通している面もあり、非常に高い戦績を残している。
対して虎蜘蛛族はトリッキーな動きで相手をかく乱し、その強靭な糸で武器、防具、障壁などを創り出す糸のプロフェッショナル達だ。
魔法こそ銀楼狐族には及ばないが、その苛烈な魔法の雨を掻い潜り、肉薄できるほどの実力はあった。
「我らの勝ちよの」
しかしパトリシアは勝利を確信した笑みを浮かべて一人呟く。
ウェンズデー丘陵を指定したのはパトリシアだが、まさかその誘いに乗ってくるとは思っていなかった。
なぜならウェンズデー丘陵には木々があまり生えておらず、虎蜘蛛族が得意とする高機動戦術が活かせないからだ。
もしかすると別の戦術を用意しているのかもしれないが、パトリシアはあまり脅威だとは思っていなかった。
そして戦争の鐘が鳴り、両軍が激突を初めて数時間後。
空の彼方から謎の音が聞こえてきたのだ。
ババババ、という音が複数、彼方よりこのウェンズデー丘陵に近づいてくる。
その音の正体が発覚した時は一体何が現れたのかと、一瞬硬直してしまったくらいだ。
細長い豚のようなフォルムの上には回転する翼があり、鈍重そうな見た目とは裏腹に高速で接近してくる謎の生物。
パトリシアが族長になって二十年余り、これまでに見た事の無い生物の襲来は危機感を抱かせるには充分だった。
「あの謎の飛行生物を撃ち落とせ!」
パトリシアの号令で一斉に魔法が放たれるが、高速移動する謎の生物にはかすりもしない。
一発だけ運良く当たってくれたが、わずかによろめいただけで大したダメージは通っていないようだった。
そして銀楼狐族の展開する先に降り立った謎の生物。
そしてそして、さらに驚くべき事に、その生物の中から魔王軍が旗印を掲げて大量に現れたのだ。
「魔王軍襲来! 陣形を組みなおせ!」
いつも気まぐれに戦地に赴いて武力介入を働き、力を見せつけるだけ見せつけて帰っていく風来坊のような武力が、銀楼狐族をターゲットにして進軍してきている。
今日はどうやら負け戦になりそうだ、と勝利を確信していた笑みは苦笑いへと変わったのだった。
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