ブラック王国軍から脱退した召喚士、前世の記憶が蘇り現代兵器も召喚出来るようになりました

登龍乃月

文字の大きさ
上 下
20 / 73

20 銀楼狐

しおりを挟む

 ウェンズデー丘陵にて展開する兵達を見ながらパトリシアはやれやれと嘆息する。
 今回相手になるのは魔界を彷徨う虎蜘蛛族。
 大した脅威ではないと思っているが、パトリシアは蜘蛛が嫌いだった。
 だからと言って滅びてしまえなどとは思っていないが、難癖を付けられたのなら「よろしい戦争だ」となるくらいには嫌いだった。
 パトリシアが虎蜘蛛族を嫌いな理由は複数あるが、大前提としての理由は一つ。
 美しくないからだ。
 銀楼狐族族長であるパトリシアは己の種族の美しさを自覚している。
 それはもう、毎日朝昼晩、鏡の前に立って自画自賛するほどに自覚している。
 これは銀楼狐族共通の事だが、この種族は己の美しさに対して非常にプライドが高い。
 魔界一美しいのは我が種族だと、公言するくらいにはプライドが高い。
 だが逆に、それが周囲の種族の反感を買う事も少なくない。
 それゆえに戦争の頻度も高いのだが、銀楼狐族は魔法に精通している面もあり、非常に高い戦績を残している。
 対して虎蜘蛛族はトリッキーな動きで相手をかく乱し、その強靭な糸で武器、防具、障壁などを創り出す糸のプロフェッショナル達だ。
 魔法こそ銀楼狐族には及ばないが、その苛烈な魔法の雨を掻い潜り、肉薄できるほどの実力はあった。
 
「我らの勝ちよの」

 しかしパトリシアは勝利を確信した笑みを浮かべて一人呟く。
 ウェンズデー丘陵を指定したのはパトリシアだが、まさかその誘いに乗ってくるとは思っていなかった。
 なぜならウェンズデー丘陵には木々があまり生えておらず、虎蜘蛛族が得意とする高機動戦術が活かせないからだ。
 もしかすると別の戦術を用意しているのかもしれないが、パトリシアはあまり脅威だとは思っていなかった。
 そして戦争の鐘が鳴り、両軍が激突を初めて数時間後。
 空の彼方から謎の音が聞こえてきたのだ。
 ババババ、という音が複数、彼方よりこのウェンズデー丘陵に近づいてくる。
 その音の正体が発覚した時は一体何が現れたのかと、一瞬硬直してしまったくらいだ。
 細長い豚のようなフォルムの上には回転する翼があり、鈍重そうな見た目とは裏腹に高速で接近してくる謎の生物。
 パトリシアが族長になって二十年余り、これまでに見た事の無い生物の襲来は危機感を抱かせるには充分だった。
 
「あの謎の飛行生物を撃ち落とせ!」

 パトリシアの号令で一斉に魔法が放たれるが、高速移動する謎の生物にはかすりもしない。
 一発だけ運良く当たってくれたが、わずかによろめいただけで大したダメージは通っていないようだった。
 そして銀楼狐族の展開する先に降り立った謎の生物。
 そしてそして、さらに驚くべき事に、その生物の中から魔王軍が旗印を掲げて大量に現れたのだ。

「魔王軍襲来! 陣形を組みなおせ!」

 いつも気まぐれに戦地に赴いて武力介入を働き、力を見せつけるだけ見せつけて帰っていく風来坊のような武力が、銀楼狐族をターゲットにして進軍してきている。
 今日はどうやら負け戦になりそうだ、と勝利を確信していた笑みは苦笑いへと変わったのだった。
しおりを挟む
感想 123

あなたにおすすめの小説

【完結】聖女が性格良いと誰が決めたの?

仲村 嘉高
ファンタジー
子供の頃から、出来の良い姉と可愛い妹ばかりを優遇していた両親。 そしてそれを当たり前だと、主人公を蔑んでいた姉と妹。 「出来の悪い妹で恥ずかしい」 「姉だと知られたくないから、外では声を掛けないで」 そう言ってましたよね? ある日、聖王国に神のお告げがあった。 この世界のどこかに聖女が誕生していたと。 「うちの娘のどちらかに違いない」 喜ぶ両親と姉妹。 しかし教会へ行くと、両親や姉妹の予想と違い、聖女だと選ばれたのは「出来損ない」の次女で……。 因果応報なお話(笑) 今回は、一人称です。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

【完結】そして、誰もいなくなった

杜野秋人
ファンタジー
「そなたは私の妻として、侯爵夫人として相応しくない!よって婚約を破棄する!」 愛する令嬢を傍らに声高にそう叫ぶ婚約者イグナシオに伯爵家令嬢セリアは誤解だと訴えるが、イグナシオは聞く耳を持たない。それどころか明らかに犯してもいない罪を挙げられ糾弾され、彼女は思わず彼に手を伸ばして取り縋ろうとした。 「触るな!」 だがその手をイグナシオは大きく振り払った。振り払われよろめいたセリアは、受け身も取れないまま仰向けに倒れ、頭を打って昏倒した。 「突き飛ばしたぞ」 「彼が手を上げた」 「誰か衛兵を呼べ!」 騒然となるパーティー会場。すぐさま会場警護の騎士たちに取り囲まれ、彼は「違うんだ、話を聞いてくれ!」と叫びながら愛人の令嬢とともに連行されていった。 そして倒れたセリアもすぐさま人が集められ運び出されていった。 そして誰もいなくなった。 彼女と彼と愛人と、果たして誰が悪かったのか。 これはとある悲しい、婚約破棄の物語である。 ◆小説家になろう様でも公開しています。話数の関係上あちらの方が進みが早いです。 3/27、なろう版完結。あちらは全8話です。 3/30、小説家になろうヒューマンドラマランキング日間1位になりました! 4/1、完結しました。全14話。

前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。

サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。 人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、 前世のポイントを使ってチート化! 新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。

精霊のお仕事

ぼん@ぼおやっじ
ファンタジー
【完結】 オレは前世の記憶を思い出した。 あの世で、ダメじゃん。 でもそこにいたのは地球で慣れ親しんだ神様。神様のおかげで復活がなったが…今世の記憶が飛んでいた。 まあ、オレを拾ってくれたのはいい人達だしオレは彼等と家族になって新しい人生を生きる。 ときどき神様の依頼があったり。 わけのわからん敵が出てきたりする。 たまには人間を蹂躙したりもする。? まあいいか。

結界師、パーティ追放されたら五秒でざまぁ

七辻ゆゆ
ファンタジー
「こっちは上を目指してんだよ! 遊びじゃねえんだ!」 「ってわけでな、おまえとはここでお別れだ。ついてくんなよ、邪魔だから」 「ま、まってくださ……!」 「誰が待つかよバーーーーーカ!」 「そっちは危な……っあ」

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...