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しおりを挟む『殿下、神出鬼没さは相変わらずですわね』
『ふん、生憎と暇では無いのでな。それにこの建物、ヤツは何を考えている』
『建物?』
談笑する二人を眺めながら、引っかかった言葉をそのまま聞き返す。
『この建物、吸魂の印が結ばれている』
『あの、愚かな私にも分かるようご説明願えますか?』
『よかろう』
といいつつカスケードはソファへ腰掛け、尊大な態度で私を睥睨する。
『この建物や柱、庭園のあれこれなどの配置が吸魂の印を結んでいるのだ』
『はぁ』
『これだけ巨大な印を結ぶとなるとそれなりに大量の魔力を使うのだが……奴が魔力を使った形跡はない。恐らく使用人やら業者やらから強制的に抽出した魔力を使ったのだろう』
『となるとどうなるのです?』
『印の中にいる者の魂は全て術者の手の内ということだ』
『えぇ!? それは不味いですわ!?』
『調べてみた所、ここに集まっているのは人間界の各国の重鎮だというではないか。恐らくヤツはそやつらの魂を影響の無い程度に抜き取るつもりだろうな』
『全部、ではないのですか?』
『勿論全て抜き取る事は可能だが……それをしてしまえば全世界を敵に回すだろう? さすがにそんな馬鹿な真似はせんだろうよ。魂を抜かれるという事は目減りした分、他者の影響を受けやすくなる』
『そうなのですか?』
『お前……』
『無知なもので……申し訳ありませんわ』
『よい。ヒトは魂に関して蒙昧……して、魂が減るということは他者から影響を受けやすくなる、そしてヤツはサキュバスクイーンの力を行使出来る。サキュバスの代名詞と言えばなんだ?』
何でしょう……?
と少し考えた所で私はピン、と閃きました。
そして最悪のシナリオも。
『魅力……!』
カスケードは「やっと分かったか愚か者め」というような目で私を睨みつけていますが仕方ありませんわね。
『各国の重鎮を魅了し、支配下に置く事でさらに自分が動きやすく、やりやすくする魂胆であろうな』
『シェーアは……何を考えているの……』
『簡単な事よ』
ふんぞり返り、のどかに笑い合っているフィエルテと大臣を嘲るように見つめたカスケードは、
『世界征服』
と当たり前のように言った。
『ヒトの世界を支配し力を蓄え、魔族に喧嘩を売るつもりだろう。まぁこれは我の推論だがな』
『そんな……それでは人の世は』
『終わるだろうな。我としては大量の魂が手に入る機会だからどちらでも構わんのだが。宝を取り戻さねば父王にどやされるのでな』
『ということは?』
『今日、ヤツを--アドミラシオンを潰す』
『ですがこの建物、というより敷地内全てに吸魂の印が結ばれているのですよね? であれば殿下も危険なのでは』
『ふん、我をそこらの木っ端と一緒にするな。魂のストックは腐るほどある。ちょっと抜かれた程度で我が膝を付くと思うなよ』
『……申し訳ありませんわ』
私の言葉が地雷を踏んだのか、カスケードはあからさまに不機嫌になってしまいました。
悪魔の扱いは難しいものです。
『それよりも、お前の能力はどうなった? 結末が見たいのなら己で詠めばいいであろう』
『は! そうですわね……!』
椅子に深く腰掛け、目を閉じて意識を未来へ収束させる。
--そして。
「大丈夫かい?」
ケーニッヒの声で時詠みを中断せざるを得なくなってしまいました。
心底心配そうに私を見つめるケーニッヒの瞳は子犬のように懐っこく感じられます。
『少し出る、何かあれば我を呼べ』
カスケードはやや不機嫌になり、そのまま霞のように消えてしまった
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