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しおりを挟むカスケードは静かにそう言うと、特に断りも入れずに私の胸に手をあてがいました。
一瞬不純な不安が頭に浮かびましたが、そんな事を深く考える間もなく胸に当てられた手は乳房を貫通し、私の心臓を直に握りしめました。
「っか……あ……はぁ……」
「いい心臓をしているな」
「はっ……ひゅー……ひゅー……」
生きたまま心臓を握られるという非現実的な出来事。
不思議と痛みを感じ無いのが更に非現実的さを加速させる。
ですがこれは現実で、全身に悪寒と恐怖がない混ぜになって駆け巡る。
心臓で感じるカスケードの手は冷たく、凍えるような冷気が私の精神すらも凍らせ、思考が麻痺していくような気がします。
「キャロライン・リーブスランドよ。お前の心の臓に真なる我が名の印を刻み込む。我が力、其の力、溶け合い、生み出せ。其に眠りし力よ、眼を開き覚醒せよ」
「あっ……はぁあっ……! んぅっ……!」
朦朧とした底冷えする意識の中、カスケードの顔が近付いて耳元でそう呟くのが分かりました。
途端に私の体はビクリと跳ね、嬌声に似た声が漏れ出てしまう。
心臓の鼓動に合わせて、カスケードの力がドクンドクンと私の体の中に注がれて全身を巡り、また彼の中へと戻っていく。
「終わりだ」
「あがっ……!」
私の心臓を握っていた手が離れ、ゆっくりと体内から抜き出ていくのを感じる。
その全てが引き抜かれると私は全身の力が抜け、ドサリと床に身を投げ出した。
「はあっ……! はぁっ……随分、変わった、事を……なさい、ますのね」
「胸倉を掴むのと大差あるまい」
「大ありですわ……ふぅー……それで殿下、これで本当に終わりですの?」
「あぁ終わりだ。なんだ? もしや我がお前の体を貪るとでも思ったか?」
「そんなわけありませんでしょう……悪魔が人間の肉体に興味あるとは思えません」
「分かっているではないか。例外もあるがな」
「例外?」
「アドミラシオン=シェーアの事だ」
「なるほど」
「体の調子はどうだ? 我の力は馴染むか」
カスケードは床に座り込んだままの私に手を差し伸べ、私は甘んじてその手を握って立ち上がった。
「んん……イマイチ分かり辛いですわ」
「ふむ」
「あの、殿下。私のメリットとは一体何ですの?」
「お前は我と契約し、我の力が混ざる事によって半魔となった。ゆえにお前の持つ力も数倍に上昇している」
「えぇっ!? ちょっと待って! 半魔ですって!?」
「喜ばしい事だろう? それに不老不死とは言わんが多少の事では死なんし、寿命も人のそれではない」
「えぇー……」
「何だ? いやに不服そうではないか。嬉しくないのか?」
「複雑ですわ……ですが……シェーア様との一件もありますし、良いのかも知れませんわね。また巻き込まれて死にたくはありませんから」
「良い心掛けだ」
「はぁ……なんだかとんでもない事に巻き込まれている気しかしませんわ」
悪魔に目を付けられた時点で、とんでもない事になっているのは間違いないのですけどね。
何かが変わっているのかと自分の体をぺたぺたとまさぐるが、角も生えていないし羽も無い。
少しばかり体が軽く感じる程度の変化しかなかった。
はて? と私が首を傾げている時、カスケードが思い出したように口を開いた。
「おっと、言い忘れていた……お前の未来視の力だが」
「はい?」
「眠らずとも、余計な妨害が無い限り、お前が狙った未来が見えるようになっているはずだ。」
「ええ!? そ、それは……凄い、ですわね」
「どうだ。メリットだらけであろう?」
「は、はいぃ……」
脈々と受け継がれてきたリーブスランド家の力。
それが悪魔の力を受け入れた事により進化を遂げてしまった瞬間だった。
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