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しおりを挟むカスケードが去ってから一ヶ月が過ぎました。
幸いな事に、私の元にシェーアからの刺客が来ることはありませんでした。
私はいつも通りの日常に戻り、大雨で被害を受けた領地の各所を周っては労い、被害の少ない場所に赴いては応援の要請を出していきました。
その片手間に、空いた時間に部下を使いシェーアの事を調べていたのですが……気になる事が数点報告に上がってきました。
それからさらに一週間後、ヴィーヴィル皇国はとあるニュースにより激震しました。
——ドリアム王国国王オベイロンが崩御。
皇城に召集された私は、フィエルテと共にその報を聞いていた。
私のいる場には皇帝陛下、大臣、執務長官、書記長など皇国のトップが顔を揃えて座っていた。
余談ではありますけれど、私が何故こんな場に召集されたのかは皆目検討が付きません。
フィエルテに理由を聞いても「始まれば分かるよ」としか返ってこなかった。
「さて諸君、オベイロン陛下が崩御したのは心苦しい事だが……心配するのはこの先だ」
座っていた大臣が立ち上がり、手元にある紙を手に司会を進めていった。
皇帝は席に座り目をつぶって大臣の話を聞いている。
「新しく国王に即位したのはケーニッヒ第一王子だ。そして王妃となるのが大公であるブランデンブリゲード家のシェーア殿だ。しかしながらシェーア殿には……不確かだが色々と黒い噂が流れている。それは特別顧問であるキャロライン殿も知っているな?」
「はい。とある事情により私の方でも彼女の周囲を探っておりました」
「それは重畳。キャロライン殿も他人事ではありませんからな。被害者と言ってもいい」
「それはどういう意味でしょうか」
他人事では無い、という言葉に心臓がドクンと跳ね上がり、肺を握られているような息苦しさに襲われる。
(あの場面は誰にも見られていないはずですわ……きっとアレ以外のお話ですわ……落ち着くのよキャロライン……)
「どういう、と言われると……話しても良いものなのか……」
大臣は眉根を寄せ、チラりとフィエルテの顔を見た。
フィエルテは私と大臣の顔を交互に見比べてから首を横に振った。
「ここでする話じゃないかな。キャロラインも分かってるだろ? ケーニッヒ陛下とシェーア嬢、君が関わる何かと言えば」
「あ……はい。把握致しました……申し訳ございません」
息苦しいかった呼吸が急速に元に戻り、私はヒュウ、と息を吐き出した。
フィエルテと大臣が言っているのは恐らく、私が舞踏会で婚約破棄された時の話だ。
決してカスケードと共に訪れた惨劇の場の事ではない。
(ちょっと待って……でもなぜ大臣がその事を知っていらっしゃるの……? フィエルテが話した? いえ、話すメリットが無いですわ。となるとやはり噂が広がっているという事ですの?)
舞踏会で着せられた汚名は噂となり、一ヶ月半の時をかけて知れ回ってしまったというのでしょうか。
尽力すると約束してくれたホーネットおじ様のお力でも、駄目だったのでしょうか。
それともこれがヴィーヴィル皇国の情報収集力とでも言うのでしょうか……。
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