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しおりを挟む屋敷へ帰還した私は、多くを語らないカスケードの背中を見つめていた。
カスケードは窓辺に立ち、空に輝く星々をじっと見つめている。
その背中はどこか哀愁に満ちていて、意識せずとも視線が向いてしまうほど蠱惑的でした。
(悪魔界の王子……人の生死さえ手の内にする……まさに悪魔ですわね)
私は胸元と腹部に空いた布地の穴をすっと摩り、身に起きた異常な事態を改めて思い返していた。
あの時、私の腹部を貫いたシェーアからは確かに人間離れした魔力の波動を感じた。
しかしシェーアの持つ白髪と真紅の瞳は、神より承った素晴らしき力の象徴だ。
普段は隠しているだけで、本当の彼女の力はあれぐらいなのではないのか。
「キャロライン」
「はっはいっ! どうかなさいました?」
私がカスケードの背中を見つめながらシェーアの事を考えていると、唐突に声がかけられた。
彼の視線は相変わらず外を見ており、表情を窺い知る事は出来ない。
「お前はあの女が本当に悪魔なのかと疑問に思っているな?」
「……はい。私の胸中を言い当てるとはさすが悪魔ですわね」
「ふん。煽てても何も出ないぞ」
「シェーア様は本当に悪魔なのですか?」
「……これから話す事は聞き流してくれて構わないが……少し昔話をしよう。……七大悪魔の一人であるアドミラシオンはな。俺の部下だったのだ」
「はい」
「彼女は淫魔を束ねる氏族の長であり、長年王家に仕えてきた者なのだ。だがある日、彼女は言ったのだ。なぜ淫魔は一番下にいなければならないのかと」
「蔑みを……受けていらしたのですか?」
「いや、そういうワケでは無いが、七大氏族の中で淫魔というのは立場が一番下だった。知恵ある者は必ず抱くとされる七つの原理、傲慢、憤怒、嫉妬、怠惰、強欲、暴食、そして——色欲。淫魔の氏族が背負うのはその色欲。子を成すにはある工程が必要でありそれは人も悪魔も同じだ。まぁ……違う方法で子を成す種族もいるがそれは割愛させてもらおう。サキュバスと言えど悪魔は悪魔、それも悪魔界のトップに君臨するほどの種族。力は人間の比ではない」
「でもあの方は人間のお姿をしていらっしゃいますわ」
「そうだな。確かにあの器は人間だ」
「では!」
「だが、あの女の内側には確実にアドミラシオンが存在していた。お前を貫いた時、俺の腕はシェーアという器の頭半分を消し飛ばした。にも関わらず、あ奴は逃げた。これが意味する所は分かるな?」
「まさか……同化……?」
「そうだ。何をどうしたのかは不明だが、アドミラシオンはあの女の肉体、魂と融合している。それは奴の頭を消し飛ばした時に発覚したのだがな」
「では本来の人格であるシェーア様は?」
「知らん。完全に食い潰したか、混在しているか、両立しているかのどれかだ。しかしなぜ人間と同化するのだ? 意味がわからん。人間なぞ矮小で愚かな存在だぞ。悪魔としてのプライドは無いのか……!」
「あの、差し出がましいかもしれませんが……シェーア様は、類まれなる魔力と才能をお持ちの方でして……」
「なに?」
シェーアの肩を持つ訳では無いが、こちらが知る彼女の一面を伝えれば何か分かるのかも、という思いがあった。
こちらに向き直り、訝しげな表情をするカスケードへ私は私の知るシェーアという人間の詳細を語り聞かせていった。
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