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 屋敷から脱出した私は、再びカスケードの腕に抱かれて闇夜を飛んでいた。
 カスケード一人であれば闇から闇への長距離移動は可能なのだが、人間は闇の長距離移動に耐えられず闇に取り込まれてしまうのだとか。
 先程私達が闇を移動したのはほんの数十メートルだけ。
 屋敷の外側に降り立ち、闇を渡って内側へ侵入したのです。

「あの……私に何が……?」

「自分の姿を見れば何が起きたかは自ずと解ろうものだがな」

「分かるには分かりますけれど……どうにも理解が追い付かず……」

 カスケードの言う通り、私のネグリジェや四肢は血で染まり、腹部と胸部の布地に穴が空いている。
 顔を洗われた際に体に着いた血も少しだけ洗い流されたけれど、それでも血なまぐさい事には変わりない。
 意識を失う直前に見た光景は夢ではなく、本当に私は胸と腹を貫かれたのだ。
 言ってしまえば私は死んだのだ。
 即死に近い早さで私の命は吹き飛んだ。
 闇の中で見た走馬灯のような光景は、ような、ではなく正真正銘の走馬灯だったのだ。
 死んだ後に見る走馬灯というのも不思議な話だけれど、あのまま闇に沈んでいたら私はきっとあの場で屍を晒していたに違いない。

「私……死にました、わよね」

「あぁ。死んだな。この俺が心臓を突き破ったのだ、あたりまえだろう」

「あなっ! 貴方なの!?」

「あの場ではああするしか無かった。許せ」

「許せって……! どういうつもりですの!」

「どちらにせよ、アドミラシオンはお前を殺す気でいた。アドミラシオンにお前の魂をくれてやるワケにはいかなかったのでな。殺させてもらった」

「もっとわかり易くおっしゃっていただけます?」

「悪魔には奪った魂の所有権というものがある。その魂をどうするかは所有権を持つ悪魔に委ねられる。魂を食らいつくされるか、他の悪魔を呼び出す素材とするか、取引に使用するか、だな」

「……はい」

「仮にお前の魂がアドミラシオンに奪われていた場合、お前は復活すること無く、あのサキュバスに魂を弄ばれていただろう。だから俺は先手でお前を殺し、魂の所有権を奪った。故にお前は生き返る事が出来たのだよ」

「なる……ほど……とは言い難いですけれど……助けて下さったのかしら?」

「そうなるな。しかしお前を蘇生させる為に使用した反魂法と、アドミラシオンによる攻撃で俺の力は激減してしまった」

「あ……ごめん、なさい……」

「構わん。あの場にお前を連れて行ったのは俺だ。俺のミスだ。すまない、許せ」

 カスケードは空の彼方を見つめながら淡々と謝罪を述べた。
 まさか悪魔から謝罪が聞けるとは思っていなかったので内心驚いていたけれど、そういう悪魔独特のルールがあったのなら私は感謝すべきなのだろう。
 目を覚ました時に感じた猛烈な衝撃は、一度離れた魂を無理矢理ねじ込んだ事によるものらしい。
 それ以降カスケードが語ることは無く、ゆったりと闇夜を飛び、私の屋敷へと帰って行ったのだった。
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