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しおりを挟む「俺は誰かと問いたな。俺の名はカスケード。……まぁ、悪魔だ」
「悪魔ですって!?」
私は思わすベッドシーツを手繰り寄せ、逃げるようにベッドの隅に縮こまった。
そんな私を見て、カスケードはニタリと笑いながら片手を前に回し、恭しくお辞儀をした。
それが何とも様になっており、妖しいながらも蠱惑的な雰囲気を醸し出している。
「悪魔が……私に……何の用なのかしら?」
「話の途中だったのでな。追わせて貰った」
「それだけで……?」
「そうだ。私は話を中断されるのが嫌いでな。しかし再度問わせてもらおうと思ったんだが……お前、中々に不思議な力を持っているな」
「な、なんの事でしょうか」
カスケードは隠しても無駄だ、と言うように首を振り、心を凍てつかせるような冷たい視線を私に送る。
「スピリット体……精神、意識体だけを未来に送る力、そうだろう? なんせここは、お前と出会った十日前の現在なのだからな」
「なぜ、ここが」
したり顔のカスケードへ、今一番疑問で一番聞きたい事を短い言葉で投げ掛ける。
この悪魔に会ったのは夢の中なのだ。
それが夢から覚めた今も目の前に悠然と立っている。
「なぜ? 俺は悪魔だ。悪魔に時間的制限は無い。もっとも過去に飛ぶとなるとそれなりの魔力を消費するんでな、あまりやらん」
「なんでもありね」
「悪魔だからな。さて、話の続きをしよう。お前は何だ?」
「私はキャロラ……ねぇ待って下さる? 名前を明かしたら魂までも貴方に縛られる、みたいな事は無いですわよね?」
「何だそれは? 人間が作り出したのかは知らないが、そんな謎ルールに俺を当て嵌めるな。名前なぞ知らんでも魂ごとき軽く抜き出せる。——このようにな」
「んぐっ!」
カスケードの指がパチリと鳴った途端、私の中の何かが無理矢理引き剥がされ始めた。
視界がチカチカと明滅して全身が弛緩したかのように力が入らない。
私の意識が水で薄められるように、どんどんと希薄になっていくのが分かる。
「ふむ……やはり魂に直接聞いた方が早かったようだ。名はキャロライン・リーブスランド……親族は皆死亡……ふむふむ……なんと! ほぉー! これは興味深い!」
「はひゅ……は、あ……やめ……て」
腕を組み、何も無い中空を眺めるようにして一人呟くカスケード。
私は霞む目で睨み付けて、虚脱感に襲われながらも必死で声を上げた。
一語一語を吐き出す度に頭と胸に激痛が走り、僅かな意識もすっ飛びそうになる。
「ん? お前……魂を半分引き剥がしているのに意識があるだと……? 面白い……! 面白いぞキャロライン!」
「あっ……! っがはっ! えほっえほっ!」
カスケードが愉快そうに笑い手を叩くと、私の意識が急速にクリアになってくる。
何かが私を満たしていくような感覚があり、全身の虚脱感が無くなっていった。
ヒューヒューと掠れたような音を出して、必死に呼吸をつづける私にカスケードは小さな拍手を送り、ニタリと笑った。
「ひょっとしたらと思っていたが、お前の魂を見て確信したよ。非常に稀有な存在であまり現世に出てくる事は無いが……お前は——時詠みの一族か」
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