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しおりを挟む『な……ぜ……はな……して……』
「首を掴まれては言葉も発せないか? そんなはずは無い。お前は何だ? どのような存在だ?」
『な……にを……言って……』
「ふん」
ギリギリと首を絞められるけれど、ある程度は呼吸が出来るように力が調整されていて、何とか言葉を発する事は出来た。
この美丈夫が何者なのかは分からないけれど、今の私は生身では無い。
なのに何故首を絞められているのかが全く理解出来ない。
美丈夫は私を床に投げ出し、弱者を見下す特有の視線を向けてきた。
「スピリット体のようだが……そんな事俺には関係無い。答えろ、貴様はどこから来た」
『ゲホッ! ケホッケホッ……女性に向けて随分と乱暴なお方なのですわね!』
「ふん。なんとでも言うがいい」
逃げなければ。
美丈夫を思い切り睨み付けながらも、私の頭の中はその事でいっぱいだった。
覚めろと念じてみるが状況は変わらない。
(お願い! 早く! 早く覚めて!)
見下す視線から殺意は感じられないけれど、ここにいては不味いと私の直感が激しく警鐘を鳴らしている。
ホーネットおじ様の事が気掛かりだが、そうも言ってられない状況だ。
「黙りか……なら」
『待って! その前に教えて下さるかしら! 貴方は何者なのですか!』
「俺か? 俺は……」
その瞬間視界がぐらりと揺れる。
何かに引き戻されるような感覚が体を包み、私は心の中で安堵の溜息を吐いた。
(戻れる……!)
「ん? 貴様! 話の途中に逃げる気か!」
視界が朦朧とし、徐々に暗闇に染まっていき、私は夢から逃れる事に成功した。
成功したと、思っていた——。
◇◆◇
「う……ぐ……!」
目が覚めた途端頭に激痛が走り、私は思わずこめかみを押さえた。
まるで脳がドクドクと脈動しているかのような感覚までする。
全身から汗が噴き出して、ベッドシーツがぐっしょりと濡れていた。
「見付けたぞ」
「ひぅっ!」
安堵の溜息を吐く暇も無く、部屋の暗がりから夢で見た美丈夫の声がした。
暗がりからゆっくりと姿を現した美丈夫は、口角を大きく上げて歯を剥き出しにし、勝ち誇ったかのように笑っていた。
(何で! 何で何で何で!)
「今度こそ逃がさんからな」
「やっ! 来ないで! 誰か!」
「叫んでも無駄だぞ小娘。逃げられんよう周囲に結界を張った。いくら喚こうが外に声は届かない」
「そんな……! 貴方は何者なの!」
「そう興奮するな。俺とてお前を害する為に来たわけでは無い」
「え……? どういう……事?」
「殺さんという意味だ。だから落ち着け」
「人の首を絞めておいてよくもヌケヌケと! 騙されませんわ!」
「つい手が出てしまっただけだ、その証拠にすぐ解放したろう? 許せ」
「解放って……床に捨て置いてよく言いますわね……!」
暗がりから一歩進んだ場所に立つ美丈夫へ、精一杯の虚勢を張る。
しかしながら美丈夫から敵意は感じず、この男は本当の事を言っているのではないか、と少なからず思ってしまっている自分もいた。
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