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しおりを挟む第二農園は私の見立て通り特に大きな被害は無かった。
平地にある農園だが近くに河川も無く、あると言えば家庭用の水路くらいのものだ。
第二農園の亜人達に、第三農園の作業員達をこちらに避難させる事を伝えた私は軽く話をした後、第一農園へと向かった。
第一農園も目立った被害は無かった。
「良かった……」
「オヤカタサマ、オヤカタサマ」
私がほっと胸を撫で下ろしていると、デミゴブリンの組合代表が私の肩をつついた。
労働組合の代表もこの大雨で畑が心配になり、第七農園から駆け付けてくれていたのだ。
「何かしら?」
「アトハ、ワレワレガヤル。オヤカタサマ、タイヘン」
「え……本当?」
彼が言っているのは、他の農園への見回りは自分達でやる、私は行かなくていい、という話だ。
確かにその提案は嬉しいし、疲れているのも確かだ。
もし代表が見回ってくれるなら、私は他の場所へ赴ける。
父ならばどうしていたのだろうか。
少しの間逡巡した後、私は代表に見回りを頼む事にした。
「それじゃあよろしくね。何かあったら屋敷に使者を出すのですよ」
「ワカッタ」
その後代表に見送られながら馬車を屋敷へと走らせた。
夕飯を取り、体を流してからハーブティーを嗜みつつ私はワークデスクと向き合っていた。
デスクの上にはパピルス紙とインクが置いてあり、私の手には羽根ペンが握られている。
ペン先にインクをつけ、サラサラと文字をしたためていく。
手紙の宛先は辺境伯であるホーネットおじ様。
簡単な挨拶から鉱山での事故やレイルでの一件、茶畑の被害などを書き連ね、おじ様の領地の被害を心配する旨を書いて便箋へと入れた。
リーブスランド家の紋章が入った封蝋を押して、雨に濡れないよう丁寧に油紙で包んでいった。
使用人に明日の朝イチでおじ様の所に届けるよう命じ、私はベッドへ倒れ込んだ。
瞼を閉じ、自分の力について考えを巡らせる。
私の力は未来で起こるであろう事を夢を通して知る事が出来る、という程度の能力だ。
一度目は舞踏会、二度目は坑道での事故だった。
二度目に関しては地滑りや崖崩れによって他の人々も犠牲になったというのに、私が見たのはフィエルテが巻き込まれた落盤事故だけだ。
落盤事故が定められた日に発生し、次の日には地滑りや崖崩れが発生して多数の犠牲者が出た。
なぜそれを夢で知る事が出来なかったのだろうか。
過ぎてしまった時を手繰り寄せる事は出来ないけれど、もしかしたら私がきちんと能力を把握出来ていれば防げたのかも知れない。
自分の力をちゃんと知ること、これが今の私にとっての最重要課題なのではないかと、今では思う。
(夢見の力……)
微睡みが這い寄るのを感じつつ、私は自分の力に名前を付ける。
そうする事により自分の力を強く感じられるかも知れない、と思ったからだ。
次に考えるのは力の発動条件。
これは何となく分かるような気がするのよね。
二度発動した夢見の力だけれど、共通する要素が一つだけ思い当たるのだ。
それは想い。
それは対象。
一度目は舞踏会に行く、という明確な心躍る想いと、婚約発表を行うという一大イベントへの期待。
二度目は……我ながら恥ずかしい事だと思うけれど、皇国皇太子という肩書きのフィエルテへの想い、これはケーニッヒとの出来事があったゆえの想いなのだけれど。
そしてフィエルテがいつ留学先へ戻ってしまうのだろう、という興味。
少ない予測材料ではあるけれど、ここまでの経緯を考えれば当たらずとも遠からずだろうなと思っている。
だから私はある人の事を、住む場所の事を考えながら眠りに着くことにした。
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