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しおりを挟むこの少しの会話だけで、フィエルテと大臣との間の絆が少しだけ見えたような気がする。
夢で見た大臣は鬼のような冷徹さだったけれど、幼い時から見守ってきたフィエルテが崩落に巻き込まれて命の危機に陥ってしまったのだ。
あのような態度になってしまうのも分かるような気がする。
(それでもやりすぎだとは思いますけれど……今は事故に巻き込まれる要素は限りなく低い。あんな事にはならないはずですわ)
馬車の窓から見える景色は薄暗く、雨足は激しくも無いが軽くもない。
ヴィーヴィル皇国には何本もの大型河川が走っており、城を出発する前の話では、それらの氾濫も危惧されていた。
河川や河川近くの町村に皇国の騎士団が分散して派遣されているらしい。
リーブスランド領にも河川は流れているので、川の氾濫は私にとっても他人事じゃあない。
(何事も無いと良いのだけれど)
空に広がる真っ黒な雲と同じように、私の心にも不安な暗雲が立ち込めていたのだった。
◇◆◇
私達の目的地であるバーディット鉱山は、ドリアム王国とヴィーヴィル皇国の境界沿いに存在する山だ。
バーディット鉱山からは宝石などの鉱石は出て来ないけれど、魔力を溜め込んだ魔晶石や、武器防具の素材となる軽金属に重金属がバランスよく採掘出来る場所なのだ。
鉱山の麓には鉱山都市レイルが存在し、炭坑付近には鉱夫達の仮住まいの集落が乱立していた。
そのうちの一つの集落に私達は向かっているのだ。
雨に打たれる鉱山都市レイルを遠目に見ながら、私達の馬車は山道へと乗り入れていく。
すると馬車の窓が軽くノックされ、一人の騎士が何かを伝えようとしていた。
大臣はそれに応じて窓を開け、騎士の囁きに耳を傾けている。
数度頷いた大臣は窓を閉めてから私達に向き直り、真剣な表情で言った。
「この先で崖崩れが発生している模様です。この辺り一帯も地面がぬかるみ、慎重に進む必要があります。幸い迂回路がありますのでそちらから向かうそうです」
「……分かった」
どうやら炭坑までの道のりは生易しいものではなさそうだった。
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