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しおりを挟む一方その頃、隣国ドリアム王国ブランデンブリゲート大公領では。
領内の一画にあるブランデンブリゲート家が所有する別荘にて、大公の一人娘であるシェーアがワインを嗜みながら窓の外を眺めていた。
手にしているワインは熟成が進んでいるビンテージ物のようで、煉瓦色を帯びた赤が静かにグラスの中に満たされている。
シェーアの視線の先には山々が連なり、別荘の周辺はまるで木々が競い合うように葉を、枝を、幹を伸ばしている。
天気は芳しくなく、昨日から降り始めた雨は止む事を知らず森の木々や草花、地面をじっとりと濡らしていた。
「それで、首尾はどうなの」
降りしきる雨をじっと見つめていたシェーアは、ワインを一口飲み下して誰とも無く言った。
「はい。あのやり方であれば特に怪しまれる事もありません。成功すればかなりの痛手を追うでしょう」
「ふふ……ありがとう」
室内にはシェーアの姿しか無いにも関わらず、くぐもった男の声がどこからともなく聞こえてくる。
相変わらずシェーアの視線は外に向けられており、窓に映った彼女の笑みは歪み邪悪さが滲み出ていた。
婚約者となったケーニッヒは別荘へ来ておらず、相変わらず体調の優れない現王を看病しているとかいないとか。
シェーアにとってケーニッヒはただの踏台でしか無く、それ以上でもそれ以下でも無かった。
ケーニッヒは彼女にとって実に御しやすい手駒であり、大きな利益をもたらしてくれる畜生のようなもの。
丸々と肥らせ、余す所無くしゃぶりつくすのみ。
「もう少し、もう少しね……キヒッ、キヒヒヒ!」
歳の割には幼い顔を狂気の笑みで彩る彼女だが、この顔を知る者はゼロである。
大公である父の前では大人しく、甘えん坊だが出来た娘を演じ、ケーニッヒの前では色情を煽るような淫靡な女、傘下となった貴族達にはケーニッヒを支えるクールなパートナー。
その時々で求められる顔を変化させるシェーアだが、本当の彼女がどれなのかは分からない。
一部がそうかも知れないし、はたまた全てが彼女そのものなのかも知れない。
シェーアが心の内に秘める目的は壮大で、簡単にはいかないだろう。
だが彼女はケーニッヒという手駒を得た事で、目的に向かって大きく前進したのを実感していた。
ついこの前行われた淫靡な集会では、参加した貴族全員が傘下に入る事が決まった。
大公の下では無く、シェーアの下にである。
「さぁ……皇国の皆々様は……どう動かれるのでしょう……? 楽しみねぇ……ンフッ……キヒヒヒ……!」
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